人魚の聲

徒花

第1話

 太公望を気取る心算つもりは毛頭ないが、別段釣りが好きな訳でも無い。故に、垂らした糸の先に針は付いていない。

 

 リリースする事を前提としているのならば、針は最初から不要だからである。

 

 ――何故。

 針が付いていないのに、何故釣り糸を垂らしているのか。


 ハリボテだ。僕、伊澤 奏慧かなとしと云う男はハリボテなのだ。


 眼球の裏側が痛くなる程の陽の光を反射して流れる川をさかなにして哲学にふける訳でもなく、そうかと云ってこうして釣り糸を垂らしながら何かを待っている訳でもない。


 只々ただただ僕の中は常に空っぽなのだ。

 

 ――あの日、流れてきた人魚を「  」迄は。

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