第44話 二人でドライブ!?
「あの、亮翔さんが美希さんについて悩んでいるのは知ってますけど、手助けはできないですよ」
千鶴は先手必勝とばかりに牽制球を投げるが、春成はにこにこ笑うのみ。
「大丈夫。いくら馬鹿弟子とはいえ、そこまでのお節介をするつもりはない。ちょっと今治市で行われる法話会の手伝いをしてもらいたいんだよ。千鶴さんの家は檀家だからねえ、お手伝い、頼みたいなあって」
そしてわざとらしい依頼。ううん、法話会。って、法話って誰がやるのよと千鶴は首を傾げる。
「亮翔さんがお話しするんですか?」
しかし、琴実は興味津々とばかりに身を乗り出す。それはがっくんも同じようで、亮翔が話すならば聞きたいという感じだ。
「一応はあいつにも話させるが、俺も含めて向こうの住職と三人が喋ることになっているよ。今日お世話になったし、実はさくらとして来てほしいと依頼しようと思っていたから、乗り気ならば助かる」
「さくらって」
そんな露骨なと千鶴は顔を引き攣らせるが、春成は重要だぞと腕を組んでいる。
「若い子にもお寺に参ってもらいたいんだが、なかなかだろ。最近は御朱印ブームがあって参ってくれる人は増えつつあるが、その先の仏教に慣れ親しんでもらうというのはなかなかだ。もっと仏教そのものに興味を持ってほしいんだよ。だから、法話会にも若い子が参加しているというアピールは大事なんだ」
その言葉に、亮翔も似たような悩みを口にしていたなと千鶴は思い出す。そしてその一つが相談に乗る、あの茶話室だ。
「それって、考え方としては亮翔さんがやっている茶話室みたいな感じですか」
「そうそう。都会だと喫茶店やバーを開いているところもあるし、高野山だと宿坊だな。まあ、仏教界もあの手この手で興味を引かないとやっていけない時代なんだよ。で、法話会だが、亮翔は顔はいいだろ。客寄せにいいと思うんだよね。横に千鶴さんがいてくれると、なお華やかだろ」
しれっと法話会の手伝いの話になり、千鶴は怪しいんだけどなあと思いつつも、亮翔が目立つのは解る。その横に立っていて何の役に立つのか解らないが、案内くらいならばお安い御用だ。なんだかんだで亮翔にはお菓子を色々と食べさせてもらっていることだし、ちょっとしたお返しはしておくべきだろう。
「いいですけど、まさか亮翔さんと二人で今治まで行けとか言いませんよね」
「言うよ。俺は先に向こうのお寺さんに行くから」
「ぐっ」
やっぱり亮翔と一緒にいて、美希のことを今でも想っているのか聞き出して欲しいんじゃない。千鶴は師弟揃って腹黒めえと思いつつも、あの観音様の絵を見て寂しそうにしていた亮翔の顔を思い出し、やりますと言うしかないのだった。
「嫌な予感がさらに当たるとはな」
「それはこっちの台詞です」
「ふん。これも縁か。ここまで来ると腐れ縁と言ってもいいかもしれん」
「嫌ですよ。はあ、なんでうち、願孝寺の檀家なんだろう」
「……」
千鶴が助手席で本気で頭を抱えるので、さすがの亮翔も減らず口を叩くのを止めるしかなかった。現在、お寺の軽自動車で今治市に向かう途中だ。
もちろん車内は二人きり。住職の恭敬は本日はお寺で留守番だった。ここで気まずくなってもフォローしてくれる人がいない。
「今治には行ったことはあるのか?」
亮翔は何とか話題転換を図ろうとそう質問する。今治市は松山市と隣接しているが、気軽に行ける距離ではない。特に車の免許がなければなかなか行かないだろう。というわけで、そういう質問となった。
「今治かあ。そう言えばそこで降りたことはないかも。お父さんがドライブでしまなみ海道に連れて行ってくれる時に通るくらいね」
そして千鶴も、改めて訊かれると、今治市内を見て回ったことはないと気づく。ドライブをする時も今治北インターチェンジから高速に乗るだけだ。
「しまなみ海道は有名だからなあ」
「実際に車で走ると綺麗ですよ。夏は特に海がキラキラしていておすすめです」
「へえ。今度行ってみるかな」
そこで亮翔はちらっと千鶴を見、千鶴も思わず亮翔を見てしまったが、約束には至らなかった。しかし、そこではたと気づく。
千鶴はいやいや、亮翔と二人でしまなみ海道ドライブとかあり得ないと、一瞬過った可能性を首を振って払い除ける。だって、亮翔はまだまだ美希のことを考えている。そして千鶴がちょっと似ているからって動揺してしまうのだ。
そのことをどうやら恭敬も春成も気にしているようで、何かと千鶴と亮翔を一緒に行動させようとする。この間の道後温泉もそうだったし、今回もそう。
でも、二人が何を気にしてそんなことをしているのかは、千鶴は知らされていない。千鶴も察してはいるものの、どうして似ているというだけで自分がそんな役目を負わなきゃいけないんだという感想以上のことは出てこない。
「はあ。春成さんって何を考えているのか解らないですね」
「そうだな」
「そこはあっさり同意するんですか」
自分の師匠を擁護する気なしなんだと千鶴は呆れてしまう。しかし、ふと師弟関係ということがどういうことか解っていなかった。
「えっと、亮翔さんは高野山で修行したってことですか」
「そうだ。あそこは高野山大学があって、僧侶を養成している。もちろん大学生になる必要はなくて、そこで必要な手解きを受けるだけということも可能だ。俺も養成コースに入って修行した」
「へえ、あそこにも大学があるんだ。って、春成さんはそこの先生なんですか?」
「講師もやっているが、基本は高野山にある寺院の一つの住職だ。大学を出てからそこの手伝いをしていて、さらに勉強をさせてもらったから師匠というわけさ」
「へえ」
高野山って一つのお寺じゃないんだ。千鶴はまずそこにびっくりだった。確かあそこって金剛峯寺というのではなかったか。
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