第7話 一度結ばれた縁は・・・
さすがは腹黒坊主。やることがせこい。こうやってあっさり私たちに受け入れさせることが解決になると見抜いていたわけだ。
「そして、高校生ですから制服の問題やあれこれと苦しいことがあるでしょう。でも、それはしばらくの我慢と受け入れるのが一番ですよ」
そして亮翔はすぐに総てを曝け出すのではなく、徐々にやるのがいいと続けた。それにがっくんは素直に頷く。
「琴実を見てると、女の子だって可愛い格好の子やそれと違ってカッコイイ格好の子がいるって解ります。だから今は、我慢できます」
「がっくん」
がっくんの言葉に、琴実は大きく目を見開いた。
「ごめんね。何かずっと変な態度を取っちゃって」
そこでがっくんは改めて琴実に謝る。こうやってお坊さんまで引っ張り出すことになったのは自分のせいと、顔を赤くしていた。
「もう、可愛すぎ。いいわよ。でもどうするの? 付き合うっていうのから親友に変える? 私は、どっちでもオッケーだよ」
琴実はこれが問題なんだけどとがっくんの手を取る。
その図は可愛らしい女子とカッコイイ女子が手を取り合っている図で――ちょっとヤバい。千鶴はがっくんが男の子だったことを忘れて顔を真っ赤にしてしまう。
「その、ううん。俺もよく解んない」
がっくんは首を傾げていた。自分ではまだ、そういう部分は考えていなかった。そんな感じだ。
「まあ、ゆっくり付き合う中で探られればいいのではないですか。お二人はすでに長い時間を共に過ごしているんです。これからも同じように過ごせばいいのですよ」
亮翔はそんな二人にアドバイスする。それにがっくんも琴実も頷いた。
そう、別れ話を切り出しているわけではない。今後の二人の関係をどうするかという話なのだ。こうやって女の子のファッションを楽しむようになったがっくんをどう受け入れるか。それには時間が掛かる。
「これも一つのご縁です。拙僧も及ばずながら力になります。また、気軽にご相談ください。それに、とかく世の中は不便なもの。中道が通せない場合も多いでしょう。高梨君のような方を支援している団体もいくつか知っていますので、ご紹介しますね」
亮翔はそう言うと、袖から一枚の紙を取り出した。そこに連絡先が書かれているらしい。何とも抜け目がない。
「ありがとうございます」
でも、がっくんの花が咲くかのような笑顔を見ていると、千鶴も亮翔に感謝せずにはいられなかった。出合い頭に舌打ちしてくれた失礼な人だけど、人を救うことにはとても真摯な人だ。
「変な奴」
帰り際、舌打ち事件なんてなかったかのように笑顔で見送ってくれる亮翔に、千鶴は興味を惹かれていたのだった。
亮翔に興味を持った千鶴だが、そうそう相談事があるわけではない。そもそも千鶴自身にお坊さんに相談したいような悩みもない。もちろん女子高生らしく小さな悩みはいくつもあるのだが、それは誰かに相談するレベルのものでもない。
「近所とはいえ行く理由はないわ」
それが悩みと言えば悩みか。しかし、会ったところで何を話せばいいというのか。そんなに住職の娘さんに似てますか、だろうか。それともストレートに何であの時舌打ちしたのよと問い詰めるか。
「いやいや。仮にもがっくんのことでお世話になったし。ムカつくけど問い詰めるのは難しいなあ」
ちらっと教室の隅を見ると、琴実とがっくんが楽しそうにお喋りしている。そのがっくんは男子用の制服を着ているが、話している内容は女子と変わらないものだろう。あの件以来、がっくんは笑顔が増え、おかげで女子の間での人気もうなぎ登りだ。
「よく考えれば、乙女心はばっちり理解しているってことだもんね」
女子に人気なのは女子の気持ちが解るからか。顔もいいけど自分のことを解ってくれる。そりゃあ誰だってときめいちゃうだろう。
がっくん、なんとも罪な男だ。中身は可愛い女の子だけど。
「はあ」
彼氏なしの私はどうすればいいわけ。そしてあの腹黒坊主のことばっかり考えている私はどうすればいいわけ。千鶴は大きな溜め息を吐いてしまう。
「ねえ」
しかし、そんな千鶴に話しかけてくる人がいた。誰だろうと顔を上げると、あまり喋ったことのない、学級委員長を務める秀才の
「な、なに?」
だが、急に話し掛けられ、しかもあまり喋ったことがない、つまりは毛色の違う女子を前にして千鶴はどぎまぎしてしまう。
ひょっとして何かやらかしてしまっただろうか。自分が所属する図書委員の仕事は真面目にこなしているはずだけど、何かミスって注意かな。そんなことが頭を過る。
「中森さん。あなた、願孝寺のお坊さんとお知り合いなんでしょ?」
「え?」
しかし、問い掛けられた内容はあまりに意外で唐突だった。おかげで千鶴は首を傾げてしまう。しかもまた願孝寺。あの腹黒坊主のことは考えていたけど、何で榎本の口からその名前が出てくるのか。
「高梨君に聞いたのよ。中森さんが願孝寺のお坊さんと仲良しで悩みを解決してくれたって。ねえ、ちょっと手伝ってくれない?」
「え? でもあれは」
「あまり多くの人に知られたくないけど、早く解決したいの。放課後、ちょっといい?」
「ええっと」
そもそも相談は琴実が見つけたホームページで知ったわけだし、それにそこから簡単に予約できるんだけど。千鶴は色々と間違った伝聞がされていると頭を抱えた。
「じゃあ、よろしくね」
しかし勘違いを正すことは出来ず、無情にもチャイムが鳴ってしまい、一方的に約束させられて休み時間が終わってしまったのだった。
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