春のこと

バブみ道日丿宮組

お題:穏やかなスキル 制限時間:15分

春のこと

『春がきたら、また会いましょう』

 桜が舞う春の日、彼女はそういって僕の元を去った。

 彼女の犠牲のおかげで戦争は終わった。英雄として彼女は讃えられ、その一族は名誉ある部族として認定された。

 僕はといえば、未だになれない上司という仕事に振り回されてた。

 本来であれば彼女がするはずであった仕事はとても難しかった。いろんな人がいて、いろんな技術がある。それらをきちんと把握して割り当てる。

 当たり前のようなことだけど、その当たり前が難しい。

 誰もが幸せになれる方法を示すようなものなのだから当然。

「……あと一週間か」

 彼女と別れて一年が経つ。

 彼女がいった春は既にやってきてる。あとは帰ってくるのを待つだけなのだが……やはり死んでしまったのだろうか。

 天賦の才能があったとして、1人と多数では多数が有利だったのだろうか。

「いや……」

 それはない。

 学校の授業でさえ、全てを守りに回してもスポーツで無敗だった。そして人の采配はうまかった。そのぶん勉強はからっきしではあった。

 凄く会いたい。

 会って抱きしめて、彼女のぬくもり、においを感じたい。

 もう戦争は終わったんだよと、小さくて形の良い耳に語りかけたい。

 いろんな……ことをしてあげたかった。

 まだ結婚式すらしてない。あげて同じ姓を持ちたい。子どもだって欲しい。

「先生どうかしましたか?」

「いや……なんでもない」

 遠いようで近い過去にまた僕は意識を奪われてたようだ。

 いけないな、ほんとに。

「問題とけた?」

「はい、とけました。採点お願いします」

 今の僕は彼女の一族に勉強を教える立場になってた。

 彼女との繋がりがあるのと、彼女が残してくれた手紙によって引き抜かれた形だった。なにをしてもやっぱり敵わないなとその時思った。

 見えない彼女が隣にいてくれる……そんな気さえした。


 そしてまた一年が過ぎた。


 教え子は次々に旅立った。

 都会で有名な事業を起こしたとかなんとか手紙をたまにもらう。

 皆未来に生きてた。

 僕はといえば、まだ彼女を求めてた。

 触れたい、嗅ぎたい、見つめたい。


「ーーただいま」

 彼女が帰ってきた時、僕は80を超えてた。

 だというのに、彼女は戦争に行った時と同じ姿だった。

 彼女の手を握りしめながら、僕たちは旅に出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春のこと バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る