第64話 意外と大胆な浜田(直人)
柔道部の活動も、明日からはお盆期間の休みになる。俺達柔道部の一年三人は休み前の最後の部活を終えて、学校の自動販売機前で解放感に浸っていた。
「夏休みに入ってから、ホント暑くて練習が辛かったね」
浜田がスポーツドリンクを一口飲んで、笑顔で話す。
「練習が続いてたからな。明日からの休みで、少しは夏休みらしいことしないとな」
俺は浜田にそう返した。
明日は花火大会の日だ。夏休みらしいイベントではあるが、俺と斉藤が二人して香取さんに謝らないといけないので、楽しみより緊張感の方が強い。
「芳樹は明日の花火大会はどうするんだ?」
浜田は大胆にも藤本さんを誘って、一緒に行くと聞いている。芳樹だけ予定を聞いて無かったので、俺は気に掛かっていた。
「んー、別に予定は無いから行かないかな」
芳樹の気の無い返事を聞いて、俺と浜田は顔を見合わせた。
「そう言えば浜田、片桐先生に告白させる話はどうなったんだ?」
俺は気の抜けた芳樹の顔を見て、浜田が言っていた、先生が菊池先輩に告白する手助けをしようって話を思い出した。
「えっ? どうなったって……」
「お前、先生の告白の手助けするって、自信ありげに言ってたじゃないか。何か良い案があるんだろ?」
「ええっ、そんな風に思ってたの? 芳樹君が中心になって、みんなで考えようってことだったのに」
「マジかよ。何か良い案があるって顔してたぞ」
あんな顔してたのに、俺の勘違いだったのか。
「ごめん。そんな意味じゃ無かったんだよ……」
「その件に関してはもう良いよ」
芳樹が俺達の会話に入って来る。
「もう良いってどう言うことだよ」
「実はあの後、先生に連絡して告白するように勧めたんだよ。でも、出来ないって……。
だから、昨日の夜、菊池先輩の店に行ったんだ」
「ええっ、そんなことしてたんだ! 芳樹君行動力あるんだね」
浜田も驚いているが、俺も同じく驚いた。
「で、菊池先輩はどうだって?」
俺がそう聞くと、芳樹は昨日の先輩とのやりとりを話してくれた。
「……相手が自分のことを好きだと思ってくれていて、自分も相手のことを素敵な女性だと思っている。なのに付き合うことが出来ないって、俺にも理解できないよ。俺なら喜んで先生と付き合うのに……」
確かに、香取さんが俺のことを好きだと分かったら、一二もなく告白して付き合うだろう。
「で、芳樹君はどうしたいの? 先生と先輩が付き合う方が良いの? それともまだ自分が付き合いたいの?」
「そりゃあ、俺が先生と付き合いたいよ。でも、先生が幸せになれるんなら、それは先輩に譲るよ」
「じゃあ、ちょっとスマホ貸してみて」
「えっ、何をするんだよ」
「良いから」
俺は浜田と芳樹の会話を口を挟まず眺めていた。浜田は何を考えているんだろうか?
「菊池先輩、明日の夜は家に居るって言ってたんだよね」
「ああ、家から花火を見るって言ってたよ」
「じゃあ、これを送ってみたらどう?」
浜田は芳樹のスマホを操作すると、俺と芳樹に画面を向けた。スマホの画面には片桐先生とのライン画面が表示されていて……。
「ちょっとこれはマズいだろ」
俺は先生宛のメッセージを読んで驚いた。先生と先輩を罠に掛けると言っても過言じゃないくらいの内容だった。
「これぐらいしなきゃ、もう何も動かないよ」
「お前結構大胆なんだな」
割と地味なタイプだと思っていた浜田の、意外な一面を見た。
「どうする? 芳樹君次第だよ」
芳樹もメッセージを読んで考えている。
「よし、やるよ。このメッセージを先生に送る」
芳樹は覚悟を決めたのか、浜田からスマホを返してもらい、ラインメッセージを送った。
「これでも二人が付き合わないんだったら、芳樹君も諦めずに先生に向かって行けば良いよ」
「ああ、そうする」
片桐先生と菊池先輩、あと芳樹も。三人とも良い人たちなので、みんな幸せになれると良いのに。頷きあう二人を見て俺は心からそう願った。
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