或ル男ノ哲学的ナ命題
θ(しーた)
Ep.1
こんな夢だった。
僕はとある砂浜の上に立っていた。視線には水平線が限りなく延びていて、ところどころで太陽の光を反射していた。どこの砂浜なのかわからない。自分の記憶の中で行ったことがあるような景色ではない。ここが日本なのかそれとも外国なのか、それとも全くの異世界なのかさっぱり見当がつかなかった。でも、僕の中で不思議と受け入れることができたし、意外と居心地のいい場所だった。たまに吹くそよ風のなかにほんのりと磯の香りが混じっていて、どうしてだかわからないけれど、うっすらと青春のような甘酸っぱさを心の中に感じた。
周りを眺めている。ずっと続く砂浜と海。誰もいないように見えるし、どこまで続いているのか考えるのも億劫に感じた。
「ヨーソロー!!」と海に向かって叫んでみた。なんとなく海に向かって叫んでみるにはこの言葉な感じがしていた。特に意味を分かった上で叫んだつもりはない。
誰もいない海に突っ立っているだけだから、もちろん返事がないと思っていた。
「どうしたの?」
僕はびっくりして後ろを振り返った。そこには、少女が立っていた。白のワンピースを着て小さなサンダルを履いている少女は僕の目を見つめている。僕は何もいえないままずっと見つめ返していた。
「何じっとみているの」と少女は照れたように笑った。
「ご、ごめん」
「別に謝らなくてもいいんだけど」
その少女は笑いながら僕の横に立った。少し小さな少女は僕と並ぶと特に小さく見えた。
「今、小さいなって思ったでしょ?」と少女は聞いてくる。
「いや、別に」
「ま、別にいいけど。実際ちっさいし」と少女は言った。
「てっきり僕しかいないと思ってた」
「私しかいないと思ってた」
少女は僕の言葉を返すように言った。
僕は今一度彼女をじっとみた。身長は百五十センチ程度、白のワンピースに白のビーチサンダルを履いている。黒色のロングヘアーがコントラストになっていてとても美しかった。
「あなた、名前なんて言うの?」と少女は聞いた。
「僕の名前?」
「そう。少なくとも今はあなたのそばにいるのよ。ずっと『あなた』って呼ぶわけにいかないじゃない。夫婦じゃあるまいし」
「翔。
「そう、私は
「筧さんって呼べばいい?」
「百合でいいわよ。翔」
初めて女の子からしたの名前で呼ばれて少しだけびっくりしてしまった。
「それでさ、百合、ここはどこなの?」
「さぁ、私にもわからないわ」
僕とすみれの会話が終わってしまった。僕はじっと海を見る。さっきまで綺麗に見えていた海がすごく単調に見えて面白みのないもののように感じる。
「ここがどこであるかって本当に大事なのかな」と百合は聞いてみた。
「それってどう言うこと?」
「その言葉の意味のままよ。私たちは今限りなく続く砂浜の上に立ちうら若き男女が話に興じている。それだけで何か問題があるかなって」
「どうなんだろうか」
「その答えってナンセンス。何も考えていないんじゃない?」
百合は僕の方を見てムスッとした。
「別に難しいことを考えたいわけじゃあないんだよ」
「別にいいじゃない。することなんてないでしょ?男女が一緒にいてすることなんてお話しかセックスだけよ。したいの?セックス。私は少なくとも会ったばかりの男の人に股開くような女じゃないわよ」
百合は可愛い顔をしてズケズケと言うような子だった。
「分かったお話をしよう」
「それでよし。それでさ、話を戻すわよ。この場所を定義する必要があるかと言う話だったよね」
僕は少し考えて答えた。
「そう。それだ。確かに僕たちが今ここにいると言う事実は場所が変わろうと変化しないし、意味のない問いのように感じるとは思う。でも、その問いに応えることによって得られるものはある」
「何?」
「安心だ。僕たちは今『〇〇にいる』と言うことがわかるだけで自分の所在と自分の置かれた状況を少なくとも理解することができて、その先何をするべきなのか考えることができる。安心と次への指標を手にすることができる」
「なるほど」
百合は少し嬉しそうな顔をしながら僕の回答について吟味しているようだった。
「確かに、安心はできるし、この先どうしようか考えることはできるかもしれない。でもね、その事実が全て安心させることにつながることではないかもしれない」
「例えば?」
「そうね、ここが死後の世界だったって言われればどう感じる?」
僕は少し考えてみた。ここが死後の世界だったら?
「そんなことあり得るのかな」
「逆に聞くわ。あり得ないってどうして証明できるの?」
僕は言葉にできなかった。
「私が言いたいのは、ここが死後の世界だと言うことじゃないの。結局私たちが今『ここにいる』と言うことが大事で、『ここ』の詳しい属性なんて実は二の次でしかないと言うことなのよ。私たちは『今ここで、こうして話をしている』と言うことが一番大事になされるべきであって、『ここがどこで、私たちが誰で』と言うようなデータは結局のところ副次的な問題でしかないと言うことなの」
「それじゃ、どうして僕の名前を聞いたの?」
「さっきも言ったじゃない。ずっとあなたって呼ぶわけにはいかないからよ」
「でも、僕たちの情報は副次的なんだろ?」
少し嫌味な質問をしたかなと感じたけど、彼女は僕の予想と反した返答を見せた。
「照れくさいからに決まってるじゃない」
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