運命!?見えない魔の手

「レンド、次向こうのお店ね。」

「お父さん、お菓子買っていい?」

「家にあるだろう?まぁ一つだけならいいか…。」


 その日は珍しく三人で買い物に出かけていた。というのも、最近患者が続いておりスズと出掛けるということがめっきり減ってしまったのだ。

 寂しそうにするスズを見て心が痛んだ二人が、無理やりに予定を開けたところ、偶然休みが被ったのだ。本来なら遊園地や動物園、そこまで遠くなくとも、近くの公園など遊べる場所へ連れて行ってやりたい所だったが、急に決まった休みのため、準備が整わなかったのだ。


 致し方なしに買い物というあまり面白くないお出かけになってしまったが、スズはそれなりに楽しそうにしているため、それでいいのだろう。


「あまり走るなよ。転ぶぞ。」


 スズがレンド達の方を見ながら人ごみの中を駆けていく。にこにこと笑う少女の姿を見ては道行く人々が彼女を避けながらほほえましそうな目を向けていた。だが、俯いて歩くぼろぼろの服の女が、スズを避けそこなった。ドンとぶつかり、咄嗟にスズが謝るが、女はそのまま倒れてスズへともたれかかった。


「すみません!!どこか怪我でもされましたか?」

「たす……けて……」


 思いもよらぬ一言。ゆっくりと上げた顔は涙にぬれていた。


「何かありましたか?俺は医者です。病気、怪我、それ以外でも相談に乗りますよ。」


 人見知りの激しいレンドは後ろで見ているだけだったが、女の様子がおかしいと分かると一瞬で簡易的な防御魔術を張り巡らせた。


「ナイフが……ナイフが落ちてくる……」

「え?どういう意味…


 普段着から一瞬で着替えたDr.マギカが真意を尋ねる前に、女の手の甲にナイフが刺さった。どうやら、大道芸人が投げたナイフが光りものを狙う鳥とぶつかって軌道が変わってしまったらしい。


「しまった、魔術じゃないのか!?」


 Dr.マギカが周囲に張った魔術は、魔術とを防御する魔術であり、偶然によって引き起こされた出来事までは防げない。

 向こうで大道芸をしているピエロは、未だに吹き飛んだナイフがどこに行ったのか分かっていないようだし、ナイフとぶつかった鳥も獲物でないと分かった時点でどこかに飛び去っている。攻撃の意思がない以上、偶然の出来事を未然に防ぐなど不可能だ。


「み、見えた……。そっちの人、わ、私から離れて!!」

「え?私が何かするの?」


 虚ろな目線のままシルヴァを見て指さす。すでに顔も体も擦り傷や切り傷が見るに堪えないほど刻まれており、この偶然の事故を幾度となく繰り返してきたことが伺える。

 言われるがままにシルヴァがその場を離れようとすると、その背中が誰かとぶつかってしまう。状況を理解できておらず流れで後ろ歩きをしていた彼女は、背後の衝撃に耐えかねて後退した以上に吹き飛ばされて、へたり込んだ女を押し倒す形になってしまった。


「あ、ああ…。またダメ…?」

「なんだ。一体何が起きている!?」


 一瞬彼女の目の色が薄く光ったかと思うと、頭を押さえて助けてとうわ言を繰り返し始めた。Dr.マギカの耳には確かに何かの落下音が聞こえる。見上げてみると、それは植木鉢だった。掃除中のおばさんが誤って落としてしまったらしい。


「転移魔術!!」


 Dr.マギカのとっておき、超短距離の瞬間移動。

 近くの家の屋根にパチンコ玉サイズの水晶を放り投げると、四人の体が転移する。本当にどうしようもないときの最後の一手であり、治療に役立つことはないが一応持ち歩いていた。


「あ……」

「な、しまった!!」


 スズやシルヴァを連れて、上から落ちてくる植木鉢を回避するために屋根へと転移したまでは良かったが、女の座標がずれてしまっており、屋根から落下していく。必死に手を伸ばすも届かない。


玩具の手マジックハンド!!!」


 やはり白衣に着替え直しているDr.シンスが、白衣の懐から出した機械マキナは伸縮自在の人の腕。無論、本当に人の腕を使っているわけではなく、便宜上そう見せかけているだけだ。


「危なかったわ…。アンタは咄嗟の行動の詰めが甘いのよ…」


 もし女がこのまま落下していれば、先ほど落ちた植木鉢の破片で頭を怪我していたであろう。何がどうあってもあの植木鉢と彼女の頭は接触してしまうらしい。


 玩具の手に抱かれて宙ぶらりんの彼女を抱き起して民家の屋根上へと座らせる。Dr.マギカとDr.シンスの二人がかりで周囲の監視をしており、よほどのことが無ければ守りきれるだろう。


「私、数日前からこうなんです。一瞬未来の景色が見えて…避けても逃げても躱しても、どうやっても未来の通りになる。やっぱりあの男との約束を破ったのが悪かったのかな……」

「あの男…?もしかしてDr.ウランという男か!?」


 涙を零し嗚咽混じりながら肯定する。占い師を自称した怪しげな男だったが、自分の悩みをぴたりと言い当てたかと思うと、その悩みを解決してあげると言い出したのだ。


「魔術医の名刺も見せられたから、きちんとしている人だと思って信用したのが馬鹿だった…」

「名刺!!その名刺は今どこにある!?」


 魔術医師の持つ名刺には特別な意味が込められている。医師免許とは別に、常に携帯する必要のあるものであり、魔術師の痕跡がたっぷりと染みついたお宝ともいえる。

 医師免許はあくまで医者として活動するうえで必要なものであり、シルヴァも形式は違えど持っている。

 それに対して魔術名刺は、魔術師本人を追跡する材料ともなり、どんな手を使っても痕跡をかき消したり誤魔化したりすることは出来ない。つまり、雲隠れを続けるDr.ウランを追い詰める絶好の一手だった。


「私、カザ・フォーリアって言います!!お願いです。助けてください!!」

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