044

 体育館の北東入り口の扉は開けっぱなしにされていた。


 中から女子バレー部顧問のマエケンの声が響いてくる。声が大きすぎて僕が階段を上っている際も彼の声が漏れていた。


 扉のすぐ側の壁際のベンチに二年のマネさん、神楽さんがいた。レポート用紙に何かを書きつけている。


 一応挨拶はしておこう。


「こんちは。神楽さん」


「お、白石ちーす。って白石? 何でここいんの」


「今来た」


「あーなるほど……ってそうじゃないわ! あんた今日休みだったでしょ」


「午後になって風邪が治ったんだよ」


 僕は、バッシュを適当に履き、壁際を刳り抜いて作られているベンチに向かいながら言う。


「ところで、ジンさん今日来ないの?」


 僕はコートを見て言った。


 ちなみにジンさんとはバスケ部の主任ことである。


「うん。終礼だけ来るって。ああ、じゃ、メニューも言っとく。あと五分でレイアップ終わった後、残りは10(分)じゅう×3の紅白戦。って言ってもアンタは最初からは出れないか」


 これは嫌味でもなんでもなく、ただアップはしろとそう言う意味だろう。


「じゃあ、僕は隅の方でアップしときますわ」


「メンバー、三順目には入れとくから」僕がボールを籠から持ってこようと向かうときに、後ろから神楽さんはそう言った。


 僕にとっての地球最後の日なのに、本当にいつも通りの遅刻への待遇だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る