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 実は、夏休みのバスケの練習後太一に相談していた事があった。クラスの女子を連れて御立岬の『鍵の塔』へと登ってみないか、ここ、眺めよさそうで楽しそうじゃないかと。御立岬へ泳ぎに行く提案は俺から出したものだった。


 何気なく、冗談めかした提案だったと思う。そしたら太一は、「ほんとは、久美と二人で行きたいんだろ?」と、見透かしたようなことを言ってきた。図星だった。そこから、今回の『みんなで御立岬に行こう作戦、と言いつつ椿久美と白石由人の時間を創ってあげよう作戦。プロデュースby浜太一』は始まったらしい。


 くだらないように見えて、心の底では嬉しかった。夏休みに入って、久美と二人になる時間は全く取れなかった。お互いの部活が忙しく何故なぜかすれ違いが起きていた。起きていたように思える。久美に伝えたいことがあった。それは、久美だけに伝えたいことであって、他の誰にも噂にも立ちたくないことだった。


 ビーチバレーをした後、休憩を挟んでまた泳いだ。一通り泳いだところで、西瓜スイカ割りをした。素直すぎる久美が海に向かってばちをふり落したとき、みんなげらげら言って笑った。西瓜食べて、皮もちゃんとゴミとして持ち帰るために袋に入れた。日は徐々に傾いていった。最後にもう一回だけ海に入って、はしゃいだ。夕方の薄明りで、みんなの姿が影のように黒く見えた。オレンジの中で黒い影が踊り明かした。

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