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「誕生日おめでとう! 白石由人くん」(全員)


「せーのっ」(吉良教授)


「ハッピバースデイ トゥユー 

 ハッピバースデイ トゥユー 

 ハッピバースデイ トゥユー

 ハッピバースディ ディア ゆーと

 ハッピバースデイ トゥユー」(全員合唱)


 パンッ、パンッ、パパパンッ、パンッ(クラッカーの鳴る音)


「えー、改めまして、由人、八歳の誕生日おめでとう」(父さん)


「今、目の前にあるように、君に母さんに似せた養育用アンドロイドをプレゼントしようと思う」(父さん)


「白石くん。その言い方は失礼でしょう。だってあの人はそのまんま白石久美さんなんだから」(吉良教授、父さんを見ながら)


「うん? そうだな。だったら訂正しよう。いつも家で一人で寂しがっていた由人に、母さんをプレゼントしようと思います」(父さん)


「いえーい、パチパチパチパチ」(一同拍手)


「ところで白石くん、どうして一八歳時代の奥さんをモデルにしたの? 私てっきり三十歳位の彼女をモデルにすると思ったんだけど」(吉良教授、父さんを見ながら)


「え、いや、だってそっちの方が可愛いじゃん」(父さん)


「個人的趣味だったんですか!」(若い女性A)


「いやあ、十八歳の久美は本当に可愛かったよ。僕と久美は小学校からの付き合いだったんだけどね。僕が本格的に交際を申し込んだのは高校のときだったよ。いやあ、高校まで学校が同じだし、これはもう運命としか感じなくなって告白した……っておい、何で僕の身の上話になってんだよ」(父さん)


「はは……」(一同苦笑)


「とにかく、いいか由人! 久美に恋するんじゃねえぞ! 彼女は永遠に僕の奥さんだからな!」(父さん)


「相手は八歳になったばっかりですよ! 何自分の息子を恋敵にしてるんですか!」(若い女性A)


「いやあ、フロイトいわく自分の父親殺して、母親と関係を持つ少年の話があってだな……」(父さん、神妙な面持ちで)


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい、みんな。これ、由人くんの誕生日を祝うビデオレターだよ。ちゃ、ちゃんと由人くんにメッセージ送りましょうよ。これ……、これ由人くん画面の前で、ぜ、絶対置いてきぼり食らってますよ!」(若い女性B)


「じゃあ、それぞれのゼミ仲間からのメッセージコーナー! ではあたしから行きまーす。ごほん、由人くん誕生日おめでとう! また研究室に遊びに来てなあ、今度はごっつうすごいマシン扱わせてやるからな。楽しみに待っとれよー」(若い女性A)


「あー、えー、由人くん、誕生日おめでとうございます。八歳、おめでとうございます」(若い男性)


「あ、あ、あ、私? あ、いや、た、たん、あ、いや、由人くん、誕生日、お、お、おめでとう。また由人くんが、け、研究室に遊びにくれたら、お、お姉さん、とても嬉しいな。また、一緒に、FORCOフォリコ辺りで、みんなで、け、ケーキでも、た、食べようね」(若い女性B)


「やあ、白石由人くん誕生日おめでとう。またお父さんに連れられて君の家でブランデーを頂くことになるかもしれないけど、そのときはまたよろしくな。はっはっはっ」(吉良教授)


「じゃあ、最後に僕から」(父さん)


「由人、誕生日おめでとう。研究が詰まっててなかなか家に帰れない時期が多くて済まない。由人が家で一人で出来るだけ寂しくならないようこのプレゼントを用意した。もう一度言うけど、由人、誕生日本当におめでとう。これからは、僕と由人と、新しく加わった、いや、戻ってきたと言った方がいいな。とにかく、この三人で、これからも頑張っていこうな。そして、ビデオレターに協力してくれた皆もありがとう!」(父さん)


「由人くんまたなー」(女性Aの声。一同手を振る)



 プツンッ。


 そこで映像は終わった。


 後の部屋には薄暗がりの空間と、沈黙した二人の姿だけが残っていた。


「……」


「……」


「……由人」


 久美が沈黙を破った。


 沈黙を破って、前に進んだ。


「やっと、会えましたね。由人」

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