022

 僕は怖かった。恐怖に包まれていた。


 僕は泣いている。しゃがんで腕に頭をうずめるようにして泣いている。


 右隣に誰かいて、僕の頭をでている。撫でられても心の中の恐怖心は一向に無くならない。


 その人が撫でていた手を背中へまわした。そして僕の全体を包むように僕の左腕にまで手をまわし、僕に体を密着させた。


 その人の体温を感じた。耳元にその人の吐息を感じた。僕は顔を埋めたままその人を感じた。


 耳元でその人の歌う声がした。


 さあ行こう

 前を向いてこう

 日々歩いてこう

 君の声がした

 泣いて前向いてない僕を

 君は連れだした

 泣いて笑った 野を駆け廻った

 何でもない日々が過ぎていく

 触れて愛した 君を愛した

 何でもない日々が過ぎていく


 その人はささやきを止める。そしてさらにぎゅっと強く僕を抱きしめた。


 「元気を出して。由人」


 そう言うと、その人も小さな声で、僕の耳元で泣き始めた。

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