016
父さんは爆撃で死んだ。
父さんは何か偉い、大学の教授だったらしい。
父さんはその日、僕を研究室へと連れていった。
父さんは大学の研究室に、何か特別な機械を持っていた。その機械は
けれど僕はその日にその場所にたった一つの爆弾による爆撃が行われることは予想にもしていなかった。否、実際は爆弾ではなかったのかもしれない。何せ都市は透明のドームに覆われ、そのドームをすら透過する何かでなければならなかったから。
だけど何にせよ、当時の僕は大勢を一度に攻撃する兵器のことを『爆弾』と呼んでいた。その『爆弾』について全く思考を巡らせていなかった、その時の僕は、父さんがまた研究室の自慢を息子にしたがっているんだろう、なんて考えていた。そして、その時は十分に楽しかった。
だが、
研究室の赤いデジタル時計が11時28分を示す頃。
ウウウウーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
と、大学全体に割れんばかりの空襲警報が鳴った。
「来ましたか……」
父さんはそう言って研究室のその棺桶のところへ、僕の手を引いていった。
棺桶の前まで来ると、何か原始的な鍵を使って蓋をカパッと開けた。
「ここに入りなさい」
「……これは何?」
「……入ってから話そう」
僕は父さんの目を見た。少し怒りが湧いているような、有無を言わせない目であった。
僕は
先程の空襲警報といい、この棺桶のような蓋を閉めれば密閉されるであろう機械といい、
この機械は爆撃を防ぐものだろう、と僕は感づいた。
「と、父さんも別の機械に逃げるんだよね」
棺桶の中のベルトに固定されながら僕は言った。
「十五分だけだ……。十五分だけこの中にいてくれ。十五分後には自動でベルトが解ける仕組みになっている。それまで、この中にいてくれな」
父さんは、僕の質問に答えていなかった。
「と、父さん…?」
「これをお前に預ける。外に出た後、お前のその腕時計にこいつを
そう言って、固定されていない手首以下の掌に、ひとかけらのICチップを握らせた。
まるでそれは息子に何かを
「や、やだよ父さん。父さんなんか死んじゃうみたいじゃないか。これも自分で
「すまない時間がない。愛しているよ。白石由人」
そう言うと父さんは、
そして、カチリっと音がした。
僕は大声をあげたりはしなかった。完全に固定された感覚があり、視界が真っ暗闇の中では、声をあげても暴れても何もしたことにはならない。全ては虚しい行為だろうと、暴れる前にそれを悟った。
そして、一人、覚悟を受け入れていた。
父さんは死ぬのだろう。
僕は一人で生きるのだろう。
周囲に人間はほとんどいなくなるのだろう。
やっぱり怖い。僕にはもうこれしかない。
そう思って
───。
ガゴンッと音がした。音がした以外は何も変わらない。依然として真っ暗だ。
音がしたのは何かの合図だ、きっとそうだそうに違いない、と思い右手を動かしてみた。
手首のベルトは外れていた。そして、体幹に巻き付いていたベルトも外れていた。
空襲警報の音を思い出す。
…………。
「──父さん」
小さく呟いて、蓋を上へと押し上げた。
目の前には先ほどとなんら変わらない研究所の風景。
だが、そこには、誰もいなかった。
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