第2話 cat the Ripper
静寂の底・・いや罪の都とでもいうべきなのだろうか
そこは雨だけが世界を支配する地下世界
かつて「人」は「上」にいたのだ。・・だが、いつの時だろう
人は傲慢に無知を重ね、醜い終末戦争を起こした
世界にはもはや神など存在せず、人は自らを自滅へと追いやった
世界は死んだのだ・・だが、その頃を覚えているものはいない
地球が無くなってから、黒い世界が生まれ、そこにかつての「人」達は、
虚無の存在「hito」としてこの雨が支配する暗い世界へと堕ちたのだ
この暗き街には、何も国境の境目がある訳でもない
ただ、深い混沌とした世界だけが繋がっていた
そして虚ろな、まるで幽霊・・「虚夢(ホロウ)」の存在に成り果てたかつてのhitoは
終わらない暗い世界での生活を強いられた
・・どこかで立ち話が聞こえてくる
「ねぇ、私達、いつになったら救われるの?」
「おいおぃ、何を今更、それに軽はずみな事は言うべきじゃない。ここじゃ何が起きても
おかしくない世界になったんだって、おまえだってもうわかっているはずだろう?」
「だって、・・だって、私はこんなの知らないわ。それに私のせいじゃない・・
死んだこともおぼろげでしか覚えてないし、ましてここは死の世界だなんて」
「おい!他の奴や、神様にでも聞こえたらどうするよ?そんな大それた事いうべきじゃない
命があるだけ感謝しなきゃ。ここは昔の世界とは確かに気味悪い世界だけれど、
死の世界だなんていうべき程でもない・・ただ、一日中雨が降り続ける暗い世界なだけだろ。
昔から言うだろ?住めば都だし、仕方ないのさ」
「よく言うわね!?怖くないわけ?こんなの理不尽よ 死んだなら天国とか、そういうもの
に行って、生まれ変わるとかじゃないの?あなたは何故平気でいられるの・・私はもぅ嫌よっ!」
「んな事いってももう、仕方ないのさ。・・って、おい!何する気だ!や、やめ・・」
「あぁ・・やっちまった・・川に身投げしたって、意味ないのに・・そんなことしたって・・」
?「雨が降ろうと槍が降ろうが、個人の意思はそう、変えれるものじゃないさ・・フフッ」
「だ、誰だ!お、おまえ・・っ」
?「見たまえ・・孤独に耐えかね、可哀想に・・この凄まじい雨で満ち満ちた川に身投げして・・
この川の底がどんなに暗く冷たく、おぞましいのか・・君にもわかるはずなのに
このご婦人ときたら・・・全く・・嘆かわしい・・」
?「見たまえ・・人の罪と・・その過ちの姿を」
長い帽子、サングラスなのか目が見えない、それでいてボロボロのコートを羽織り・・
その身投げした婦人をどういう訳か、今はその両腕に抱いている
が、その両手は、鋏(ハサミ)状になっていたのだ
「ひっ!ひぃっ・・おまえ、あの噂の人殺しっ!なぜここにいやがる」
「シッ・・軽率なふりはよくないよ・・黙って彼女の死を見たまえ・・・ほらっ
命を軽々しく捨てた者にふさわしい魂へと変貌するよ・・ウフフフフフッ」
そう男が呟いた瞬間、抱えていた婦人の身体を、黒いノイズが包み込む・・
その瞬間、コートの紳士は、その手の鋏で、婦人の髪を愛でるように切った
その瞬間・・その黒い塊は、絶叫を上げ、姿を変えようとしていた
醜く、醜悪な・・恐怖の存在に
「ふふ・・いつも以上にこの瞬間が堪らないよ・・まさに魂の美・・さぁ、彼女の名は何にしよう
・・真っ赤で醜悪な悪魔ならば・・フレアデーモンという名を贈ろうか?ハハハハハハッ!」
「魂の美を・・見せておくれっ・・・殺れっ」 高笑いをしたそのコートの男が、狂気を放った
刹那
「見つけた・・」
男の頭上をナニカが飛び超えた・・瞬間、コートの男に
鮮やかな蹴りと、醜くなった怪物にナニカ黒いものが、その腰目掛けて、喰らった
「ひゃっぁぁぁぁっはぁぁぁぁ・・」
クッチャクッチャ
「あ~~ゲロ不味・・久しぶりの魂は格別だぁ」
打撃を受けたコートの男はよろめきながら、揺れ落ちそうな帽子を押さえた
「おやおや・・・しつこいですねぇ、・・貴女も・・。見つかってしましましたか・・」
そういって、雨が強くなる中、、黒い傘を持った少女が、男の前に立ちはだかる
「・・逃げて」 少女は、腰を抜かす男に命令する
「ひっ、、ひぃぃい、な、なんで、ば、、化け物傘!!、、く、喰ってる」
「あ~~んっ?おまえも喰ってやるか? 邪魔だから消えろやっ」
「くっ、ひ、ひぃぃぃ」
「面倒なのは嫌い・・・ちゃんと傘差さなきゃ、溶けちゃうよ?」
そういって、男は尻餅をつきながらも慌てた様子で傘を奪い、逃げていく
ーガスッー
「おやおや、いけませんねぇ、可愛い子猫のお嬢さん・・雨垂れは三途の川と言うでしょう
気を抜くから、その幼気な身体を・・真っ赤に染めてしまったじゃありませんか?」
ーザシュッー
続いて、鋭利な音が、少女の背中から響いた・・
と、思いきや
「ごめん、私国語無理」
なんと、少女の背中に、傘の先端部分が、攻撃を防いでいる
「くっ・・堅い・・ですね・・バカと鋏は使いよう・・ですかね?」
「あぁ~ン?てめえ誰に向かって調子こいてやがるっ!いい加減逃げ回れねえよう、喰っちまうぞ!」
「おっと、・・ぐぅぅぅ。」
そうして距離をとる傘を持つ少女と、男
「チッ、、足を食い千切るつもりが、手しか食えなかったぜっ・・ケケケッ」
「まぁこれで、自慢の鋏はもぅ、使えねぇなぁ・・ジャックザリッパー」
「・・・ふふふっ。相変わらずの狂気の傘・・そしてそれを扱う・・純白の少女・・」
「アンさん・・お久しぶりですね・・遠路はるばる、よくここがわかりましたね・・」
「・・雨が強いところなら、あなたは絶対に潜んでるって、誰かが言ってた・・私は
ただ、雨に紛れた異音と・・貴方の血の匂いを辿ったら・・・ビンゴ」
「くくく・・美少女なのに、はしたないですねぇ、わたしはね・・生き物全てが・・
嫌いだと云うのに!!」
そういって、リッパーと呼ばれた男は、コートをアンに向かって投げつけた
それを、アンの持つ黒い傘が、自慢の鋭利な舌でかき切る
「おいおい、強くてごめんなっ!せっかくの伝説の殺人鬼ですら俺には敵わねえってよぉ・・へへ!」
その瞬間、マントは霧状に一瞬で霧散し、傘と少女に襲いかかる
その霧は一気にアン達を包み込み、同時に二人の動きが止まる!
「がっ・・・ぐががががが・・な、なんじゃこりゃぁ」
「・・・・くっ・・・」
「お楽しみ頂けたでしょうか?マドモアゼル?私の秘密道具、霧の電磁波は・・」
「残念ながら・・ここでジ、エンドです・・」
そういって動けない少女の首に、ボロボロの鋏が首元へ迫る
だが・・
「ママ?・・」
怪我をした少女の声が後ろで響く
その瞬間、近くに雷が落ちた
アンはとっさに電磁波の拘束から抜けだし、黒い傘を使って球状の傘で庇った
「・・・チッ」
闇と雷が重なる瞬間・・微かな舌打ちが響いた様な気がした
そして気付く頃には、殺人鬼リッパーは、まるで霧の如く姿を消していた
「なんで・・・殺せるチャンスだったのに・・」
アンは淡々と呟く・・が、首筋、腹部、背中・・気付けば細かだが、出血性の高い
傷口がいつの間にかつけられていた
雨と、電磁波のせいか、身体が痺れる・・
アンは、急激に力が抜けて、傘と共にその場に倒れ込んだ
冷たく、激しい雨に濡れながら、薄れゆく意識と視界の端で、さっきの少女が泣きながら立っていた
「ねぇ・・・ママはどこ?」
「ママに・・・会いたい」
アンは、その声に応える術も無く、
ただ、冷たい床に倒れながら、意識を失うのであった
closed umbrella 手児奈 @tekonyas-tekona
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