雨止霊昇(笑)
僕には夢があった。
子供の頃からずっと夢があった。
今まで変わらず同じ夢があった。
それが今日、今っ……。
叶う!
必ずきっと、叶う筈なんだ……!
引っ越しの日だと言うのに、朝から大雨。
しかも、エレベーターもない古いぼろアパート。
引っ越し作業は業者さんの手を借りても、結構な困難に見舞われた。
だが、だがしかしっ!
もう一度言う!
最悪な感じで始まった日であろうと!
夢は叶うんだ!!
そうこの、真っ暗な部屋、ワンルームで!
ガタガタと音が鳴る、寝ている僕の足元クローゼット(上の小さい襖の部分)!
視線しか動かせない、固まった身体っ……!
キングオブカナシバリ!!
そう、今僕はっ……。
僕は今っ、まさに幽霊とご対面だ!
“うう゛っ……”
おおうっ……まさしく幽霊っぽい耳障りでおどろおどろしい声!!
なんか、ずるりと黒い物がクローゼット(上の小さい襖の部分)から落ちてきたぞ!
“う゛ぁ……ううぅぅ……”
足から這い上がってくるっ……!
すげえ、臨場感だ!!
いや、違うか、実際に奴は居る!
僕の足の上に!!
“うぅぁぁあああ゛”
いやぁー! どうしよう!
もう、ご対めーーんっ!!
“え゛……?”
あーなんか寒気するし、いやぁ、もう高鳴るーー!
“ちょ………なんで笑ってるん……?”
いやぁはぁっ! 話しかけられたー!
「キャー! もう!!」
“いや、ちゃうちゃう。ちょっ、なんで嬉そうやねんって”
「あ、あれ……? 金縛りは? 僕の金縛りは?」
『いや、僕の金縛りちゃうやん。ていうかそれ言うなら、私の金縛りやし』
「なに言ってんだ! あれは僕の金縛りだろうがよ!」
『なに怒ってんねん。気持ちわりぃなお前』
ゆ、幽霊に……。
女性の幽霊に関西弁で気持ち悪いとか言われた……。
「感激だ!」
『いや、だからちゃうって!』
数分後。
電気をつけると、とりあえず僕は幽霊さんにお茶を出してみた。
『なんで、もてなされてるや……私』
なんだか、肩を落とす幽霊さんだが、僕は幽霊っぽさが増したようで、余計嬉しくなった。
「やっぱり、透けてるんですね!」
『……なんか腹立つわ』
睨んでくる幽霊さんもこれまた素敵だ。
幽霊っぽくて。
「絵莉さん、ですよね? 佐当 絵莉さん」
『あぁ……そうやで』
「付き合ってた男性にフラれて……その……」
『そうや。……それで自殺した』
おお、流石、事故物件サイトだ。
本当なんだな。
「パンストを被っての窒息死、ですよね? 確か、四日前くらいに―――」
『ちょ、ちょっとまて! それは私ちゃうぞ!』
「え? いやでも、王嶋てるさんの―――」
『だから、ちゃう言うてるやろ! そんなダサい死にかたするか、アホ!』
ち、違うの……?
え、でも事故物件サイトには書いてたんだけどな……。
『そもそも、パンスト被っても息できるからな! 辛うじてでも!』
「ということは、被った事ある?」
『い、いや、ない。ないけど……でもテレビとかで芸人が被っとるがな』
「ですよね。……まあ、そんな事より、僕は――」
『いや、そんな事より言うな! この流れで次行くな! 私が被ったみたいな感じ止めろ!』
僕としては死因はどうでもいい。
「まあ、いいじゃないですか」
『良くないわアホ! ダサすぎるやろ』
「ま、まあ、ほらじゃあ、今本当の死因を……」
『じゃあ、ってなんやねん! お前私がパンストで窒息した思ってるやろ! お前も今窒息させたろか! おぅっ!?』
「お、思ってない……思ってない……ああ、駄目苦しっ……は、いはい、降参っ……ですっ……」
とはいっても、僕としては事故物件サイトを見て、新鮮な場所を選んだだけなので、とりあえず、僕が見た事故物件サイトを絵莉さんと一緒に見ることにした。
『ん、やねぇん……嘘ばっかやんけぇ…』
死ぬ前に着ていただろうスーツのスカートが捲れ上がる事も気にせず、大股を開き後ろへ寝転がった絵莉さんはパンツが丸見えだった。
「ねえ、絵莉さん」
『あん? なんや?』
「パンツ見えてるよ」
『ええよ、もう。死んでんねんで。気にするかいな』
ふむぅ……確かにそうかも。
いや、でも僕が気になるのはそこじゃない。
「ねえ、絵莉さん」
『なんや。またパンツか』
「そうと言えばそうなんだけど……ちょっと違う、かな」
『どういう事やねん。はっきり言いや』
これはもしかすると、僕は心霊研究では初めてかもしれない。
「幽霊、いや、違う。今の絵莉さん、まあ幽霊さんなんだけど……」
『おう。……で? それがなんや?』
「服ってさ、脱げるもんなの?」
『は? なにどういう事?』
僕は絵莉さんのパンツが見えたとき思った。
普段生きている僕達人間の様に、幽霊もパンツ、いや、パンツじゃなくても靴下やタイツや上着でもいいけど、脱ぐことは可能なんだろうか?
そして、脱ぎ散らかされた服はこれまた物ではあるが幽体であるわけで、その場に服だけで残るものなのだろうか、と。
『どうなんやろな? やってみよか』
「おお、即決。カッコいい」
『で? なんや。パンツか? パンツ脱いだらええんか?』
「うぅ~ん……まあ、それが一番面白いかもしれませんね」
もし、その場に残ってるとしたら、透けて光ってるパンツの幽体なんか、恐らく誰も経験したことないだろうし、凄い発見でもある気がしてならない。
「じゃあ、電気消しますね」
僕はカーテンを開け、月明かりが入るようにしてから、部屋の電気を消した。
『おっしゃっ、ほないくで』
絵莉さんは、素早くパンツを脱ぐ(シルエットだからよく分からないが多分)と、パンツを窓際へ投げた。
「お、おぉっ……!」
『おぉぉっ……!』
絵莉さんが投げた己のパンツは、月明かりに輝きながら、ヒラヒラと舞う。
「おっ………ぉぉっ……」
『ぉぉおっ……』
床へと落ちた。
っと、思ったら直ぐ様、無数の光の粒。
量子の様に無数にあちらこちらへと小さな粒と成りてパンツは消え行く。
『って、おおーーい!! 消えるな、おい!!』
「はっはっは! 消えましたねー!!」
『私のパンツおい! 消えるなっておい!』
「あっはっはっは!! すげえや!!」
朝から降りだした雨が止み、滴垂れる、湿気を含む闇夜の深夜、反比例するかの様に明るい笑い声が響く事故物件にて。
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