追憶の花束、十の夢

花園 寝音

第1話 童心祭


夢か幻か、それとも現か。

まどろむ意識の中、私は境内で子供達と遊んでいた。

堤燈の灯りが視界を優しく包み、囃子の音が耳を染め上げた。

縁日の神社は浴衣や甚平を着た老若男女が賑やかに楽しんでいた。


こんな風に笑った顔が、賑やかな声色が、美しいと思えたのは、いったい何時振りだろうか。

一緒に遊んでいた子供達に手を曳かれ、金魚すくいや射的、輪投げといった定番の祭り遊びをしていくうちに、気付いたら私は笑っていた。

面識もない子供達のはずなのに、親戚の息子や娘と遊んでいるような感覚、私はそれが嬉しかった。

独りで居る事に慣れていた私が、誰かと一緒に笑っていた。


星と月が浮かぶ空に、ひとつ、またひとつと打ちあがる花火。

黒に彩りを添えたそれは、まるで流星のように儚く、綺麗だった。

一瞬しか咲けない花。

それでも私の心には、ずっと消える事無く輝いている。


縁日も終わり、少し静かになった境内で宴が行われた。

篝火が照らす中、杯片手に酒呑み達が語り明かしたり、見知らぬ人のはずなのに、まるで旧知の仲のように笑いあったり。

そんな風に騒がしく、楽しく、儚い時は流れていく。

でも、その一つ一つが、記憶の片隅に色濃く残った。

忘れたくない、という想いからなのか、はたまた別の理由なのか。


不意にポケットを漁ると、一つの飴玉が出てきた。

縁日で一緒に遊んでいた子供達の一人からもらった飴だ。

私は、それを握り締めてちいさくつぶやいた

「ありがとう」と。


意識が戻ると、そこは見慣れた天井と照明器具が目に飛び込んできた。

つまり、さっきの縁日は夢だった、ということだ。

しかし、堤燈の灯りも囃子の音も賑やかな声色も総て肌で感じていた。

まるで、現実かのように錯覚してしまうほどに。


ポケットの中には、飴玉が入っていた。

包みを開けると飴玉と手紙が入っていた。

「たのしかったよ、またきてね」

それは平仮名で書かれた、拙い約束の手紙だった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る