千年の眠りから覚めた天才魔道具師は創りたい〜冬眠装置に誤って入った私が目覚めたのは、一度文明が滅びた後の未来でした。アーティファクト?いえ、これは一般家庭にもある魔道具です〜

黄舞@9/5新作発売

第1話【目覚め】

「……ぷ、ぷはぁ‼︎ ゲホッ!」


 突然始まった呼吸に、私は咳き込んでしまった。

 徐々に明瞭になっていく意識で、自分の身に何が起きたのかを思い出そうとする。


「えーっと……てか、狭⁉︎ 暗⁉︎」


 ほぼ漆黒の視界、そしてどういう体勢なのかいまいちよく分からない。

 だけど、身体中に金属か何かの感触がある。


 私は身体をよじったり、手足を伸ばそうとしたりして、身体の自由を確保しようともがいた。

 しばらくした後、たまたま何処かに身体がぶつかる。


 ガコンっという音と共に、横の壁が外れた。

 新しい空気と淡い光が、私のいる空間に入り込む。


「大丈夫かな? なんか壊したりとかしてなきゃいいけど……私って昔っからそそっかしいから……っと。今はそんなこと言ってる場合じゃないわね」


 ひとまず広くなった方へと身体を移動させる。

 そこで私は大きな異変に気がつく。


「何これ……どれもこれもボロボロじゃない……」


 私の記憶では、意識を失う少し前には、いつも通り研究室で魔道具作製に精を出していたはずだ。

 しかし記憶の中の研究室と、目の前に広がる光景は似て、非なるものだった。


「これも……これも……これも! どういうこと? まるで何年も経ったみたいに朽ちてるじゃない!」


 それなりの大きさの部屋、見た目は研究室と同じ空間にある魔道具は、いや、魔道具以外も、そのほとんどが壊れ、腐食し、崩れていた。

 唯一、非常時に供給される魔道灯だけが、この朽ち果てた部屋を照らしている。


 そこでようやく自分の身に何が起きたのか思い出す。

 私が先ほどいた魔道具は、難病を患った姫様を助けるために国王から命じられ作った人工冬眠装置だ。


「あちゃー! 完成した時に、喜んでたら地面に落ちてた工具か何かで転んで、そのまま中に入って作動を始めちゃったのね……」


 本来は、まだ治療方法がなかった姫様をこの装置で冬眠させ、治療法が見つかったら起こして治療を施す、という話だった。

 それに私が誤って入ってしまった、というわけだ。


「それにしても、放ったらかしになってるってどういうこと? あの時は確かに一人だったけど、他のみんなは何してたのよ!」


 よく分からないけれど、少なくともこの研究室の荒れ様では、ずいぶん長く放置されてしまっていたらしい。

 もしかしたら何かの理由で研究室ごと見捨てられてしまったのだろうか。


「ひとまず……ここに居てもらちがあかないわよね。んー、一応使えそうな物は持っていこうかな……」


 とりあえず、研究室から出て、誰かに状況を聞くのが先決だろう。

 それに、本当は私の代わりに入るはずだった、姫様のことも気になるところだ。


「えーと、魔道具は……全部ダメね。あ、この部品なら、まだ使えるかも。これと……予備の魔石も結構残ってる!」


 私は損傷の少ない幾つかの部品と、魔道具を作動させるための動力源である魔石を見つけ、腰に付けた鞄に無造作に放り込んでいく。

 この鞄も魔道具の一つで、私のお気に入り。


 鞄の入り口が亜空間に繋がっていて、見た目以上に物を出し入れすることができる優れものだ。

 しかも、この鞄に限っていれば、動力を必要としないので、魔石も要らない。


「さーて。私が寝てからどのくらい経ったのか知らないけど……あー‼︎」


 私は軽い気持ちで、研究室から外へと繋がる扉を開けようとして手をかけ、そしてなんの抵抗もなく扉が崩れ去ったため、叫んでしまった。

 ここの扉は金属製だったはずなのに……


 ちょっと怖くなった私は、恐る恐る扉の外に顔を出し、通路を覗いた。

 そこには……人工冬眠装置の中と同じ、闇が広がっていた。



「ぜーったいおかしいわよね。数年くらいでこんなになっちゃうわけないんだから。とにかく! まずは光源よ!」


 独り言を言いながら、先ほど見つけた素材と、魔石で光を放つ魔道具を創り上げた。

 このくらいなら、工具がほとんどなくても朝飯前だ。


「そういえばお腹空いたなぁ。冬眠中は食べなくてもいいはずだけど。今はこうやって起きてるもんねぇ」


 とりあえず視界の確保ができたので、私は再び扉の外、通路へと身を乗り出す。

 記憶では石造りの通路だったが、今はまるで洞窟の岩肌と言った方が合っている様に感じる。


「なんだか、魔獣とか出てきそうな感じよね……まるでダンジョンみたいな……」


 ダンジョンというのは魔石が取れる洞窟の総称だ。

 周囲の魔素が高く、その魔素を吸収した獣が変異して魔獣になると言われていた。


 魔獣は一般的に普通の獣より獰猛どうもうで、強靭な肉体を持っている。

 危険な場所だから、私みたいなのは足を踏み入れることなどないのだけれど。


「まぁ……建物の中に魔獣が出るわけないんだけど……って。なんだかこの通路、傾いてるわね。すごく歩きづらい……きゃあああああああ!?」

「うわああああぁぁぁぁ!?」


 文句を言いながら通路を歩いて、突き当たりを曲がった瞬間。

 私の目の前に複数の影が現れ、思わず叫んでしまった。


 一瞬魔獣かとも思ったけれど、どうやら服も身に付けているし、相手も発した声を聞けば、人間だと分かる。

 ひとまず安心した私は、今の状況を色々訪ねようと思い、向こうへ駆け寄ろうとした。


 ところが……


「動くな! 止まれ!! 一体何者だ!?」


 先頭に立つ男性が、金属製の剣の切っ先を私に向け、そう叫んだ。

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