Sランク冒険者を追放された強化魔法使いは、派遣冒険者となり悠々自適に魔法の研究に勤しむ

ななよ廻る

第1章 Sランクパーティ『胡蝶の夢』からの追放

第1話 Sランクパーティ追放


「ゲーベン、お前をSランクパーティ『胡蝶の夢』から追放する」

「……は?」


 Sランク冒険者『胡蝶の夢』が保有する共有のパーティハウスで、リーダーの剣士であるエイストからゲーベンは解雇通告を受ける。

 急な申し出に理解できないゲーベンは、落ち着けるように息を整えながら問い返す。


「俺を?」

「ああ」

「『胡蝶の夢』から?」

「そうだ」

「追放する?」

「その通りだ」


 一瞬の静寂。

 頭の中で何を言われたか理解した瞬間、ゲーベンは吠えた。


「ふっざっけんなぁあああああああああああああ!!」

「ギャハハハハハァアアアアアアアアアアアアッ!!」


 エイストは大笑いだ。円卓を囲み、ゲーベン達と同じように座っている女魔法使いのソルシエールと女僧侶のヌンも、控えめながら瞳にドロリとした悪意を宿し笑っている。

 言っていることも態度も悪意に満ちた三人。ゲーベンは額に青筋を浮かべて机を強く叩く。


「どういうつもりだ! この俺を追放? ふざけんのも大概にしろ!」

「ふざけてねぇさ。お前はもういらねぇんだよ、なぁ?」


 同意を求めるように顔を向けられたソルシエールとヌンは、嫌らしい笑みを浮かべたまま頷いてみせた。


「そうよぉ。貴方のような強化魔法を使ったら石像みたいに固まって守られるだけの人なんていらないのぉ」

「その通りです。むしろ、貴方様のようなお荷物をこれまでパーティの一員として迎え入れていた、私達の心の広さに感謝していただきたい」

「黙れ厚化粧で万年男日照りの魔法使いに、股を開いて男に金を貢がせる淫売僧侶が」

「「ぶっ殺すぞ!?」」

「こっちの台詞だ糞共がぁああああっ!!」


 一転、嘲笑から殺意へと二人の感情は変化したが、ゲーベンの怒りは二人以上だ。

 もし、彼らを殺す手段があれば即実行するほどに、ゲーベンの感情は昂っていた。

 そんな感情を露わにする三人を見ていながらも、エイストは笑い続ける。


「落ち着けよ、二人とも。どうせ、こいつはこのパーティを辞めたら終わりだ。負け犬の遠吠えぐらい聞いてやろうじゃねぇか」

「うるせぇ包茎短小不能野郎が」

「「うわぁ」」

「上等だぶっ殺してやるよぉおおおおおお!!」


 隠していた弱点を暴露され、しかもパーティの女性二人に引かれる。

 股間も短ければ気も短いエイストは、怒りのままに筒から剣を抜くとゲーベンに襲い掛かろうとした。


 流石に殺すのはまずいとパーティメンバーに止められたエイストは、どうにか気を落ち着けると血走った目でゲーベンに告げる。


「と、ともかくだ。お前みたいなお荷物野郎は今日で解雇だ」

「……ほんっとうにいいんだな?」

「当たり前だ。ああ、ただ」


 ニチャリと、悪意に満ちた笑い。


「お前がどうしても残りたいというのであれば、床に頭擦り付けて『エイスト様お願いします』と靴を舐めるなら、考えんでもねぇがなぁ?」

「糞して死んどけ」


 ゲーベンは吐き捨てると、荒々しい足取りで部屋を出ていく。

 壊れるほどの衝撃で閉められた扉に亀裂が入る。

 あたかも『胡蝶の夢』とゲーベンの決別を象徴するかのようであった。

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