01-05 狩りになんか行かない(6)


 巨大鳥と戦ったときの音と光のおかげで、すぐにザークシードが私とザムドを見つけてくれた。


 予想どおり魔力切れで飛べなくなっていたザムドはザークシードの背中に乗せられている。魔力は空っぽになったようだけれど、幸い体はかすり傷程度でなんともないらしい。


「まったく驚きましたぞ。部屋でお待ちくださいと申し上げたでしょうに」


 ザークシードに言われ、目をそらす。確かに聞いたけれど、わかったとは言っていない。


「ですが、倅を見つけていただきありがとうございます」


 ザークシードに真っ直ぐな目で見つめられ、照れ笑いを返した。夜の森もあの巨大鳥もかなり怖かったけれど、それが吹き飛ぶくらいにはいい気分だ。でもそれもつかの間で、続けられた言葉に凍りつく。


「一人で夜の森に出かけられたことについてのお叱りは、グリード様から受けられてくださいね」


「そ、それはどういう……」


「戻られればわかりますよ」


 わかりたくない! 城に着き、直接部屋の窓から帰ろうとした私をザークシードがしっかりとつかむ。離してと暴れたが、逃げ切る前に城の正面まで連れてこられてしまった。


「……ディアよ」


「はひっ」


 いつもより低い声音で、明らかに怒りのオーラをまとったお父様がそこには立っていた。腕を組んで仁王立ちしているお父様を見て、私は顔を強張らせながら一歩後退る。助けを求めて振り返ってみたけれど、ザークシードたちは一歩どころか二メートルは下がっている。


 そんな! せめて近くにいて!


「夜の森に一人で行くなと私は伝えたはずだが?」


「い、いや、その、私強いし大丈夫かなって……」


「そういう問題ではない!」


 急に怒鳴られてびくりと肩を跳ね上げる。お父様は一つため息をつくと、私をひょいと、小さな子供を持つみたいに抱き上げた。


「心配するだろう。お前が強いことは知っているが、夜の真っ暗な森では足元も見えないし強い魔獣も多い。何が起こるかわからないんだぞ」


「……ごめんなさい」


 真剣な目を受け止められなくて、私は視線を落とした。けれど同時に、むずむずするような、くすぐったい気持ちに襲われる。


(心配、してくれたんだ……)


 すごろくを準備してくれた時にも思ったけれど、この人は優しい。ちゃんと娘のことを想ってくれている。いつも無表情で何を考えているかわからないし、ディアドラも積極的に関わろうとはしなかったから、気がついていなかったみたいだけど。


 ――いいなあ、こんなお父さん。最高じゃない。


 もうちょっとくっついてみたい気持ちに駆られたけれど、すぐに地面に降ろされてしまった。お父様がザークシードたちに視線を向けると、ザークシードはお父様の前まできて膝をつき、頭を下げる。


「愚息のせいでご息女を危険に晒してしまい、大変申し訳ございません。いかなる罰もお受けいたします」


 私は慌ててお父様を見上げた。


「違うの! 私がザムドに一人で行けって言ったの! だから――」


 お父様は私をちらりと見てからザークシードに視線を戻し、「そなたを罰するつもりはない」と頷く。


「娘を無事に連れ戻してくれたこと、礼を言う。どうやらそなたの息子は娘の大切な友人であるようだ。これからも仲良くしてやってくれ」


「はっ。もったいなきお言葉にございます」


 ザークシードが更に深く頭を下げる。お父様はまたもう一度頷くと、今度は私に向き直った。


「だが、私の娘には何かお仕置きが必要なようだ」


「えっ!?」


「そうだな。心配で仕事が手につかなくなった私のために、夜食でも運んでもらうとするか」


「……いいよ」


 お父様推しの私にとって、それはお仕置きではなくご褒美なのでは? と思ったけれど、その考えはそっと胸にしまっておくのだった。



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