01-05 狩りになんか行かない(4)


 お腹が一杯になると眠くなるのは人間も魔族も同じらしい。ソファーで本を読んでいたらいつの間にか眠ってしまっていたようで、目を開けるともう窓の外は暗くなっていた。二時くらいまでは読書をしていたはずだけれど、もう六時を過ぎている。あと一時間もすれば夕食の時間だ。


 固まった体を伸びでほぐし、廊下に視線を向ける。寝すぎてしまったので散歩くらいしないと夜に眠れなくなりそうだ。どこに行こうかなあと考えながら廊下を歩いていたら、ザークシードに呼び止められた。


「これはディアドラ様。ザムドはこちらに来ておりませんか?」


「ザムドなら狩りに誘いに来たけど、断ったら帰ったよ。ザムドがどうかした?」


「帰りが遅いのでこちらかと思ったのですが……」


 今日の狩りは諦めてくれたんだと勝手に思っていたけれど、一人で狩りに行ってしまったんだろうか? 首を傾げてみたところでわかるわけもない。


「まあ、そろそろ帰ってくるんじゃない? 一人で狩りに行ったとしても、ザムドなら平気でしょ?」


 なにせ未来のナンバーツーだ。当然肯定が返ってくると思ったのに、ザークシードはご冗談をと大口を開けて笑った。


せがれを評価いただいているようで、親としては嬉しい限りですが……倅に一人で魔獣を狩る力などありませんよ」


「え!? そうなの!?」


 狩りの記憶は怖いのであまり思い返さないようにしていたけれど、そう言われてみると、いつもザムドが炎魔法で追い立ててディアドラが狩っていた。ザムドの魔力では一撃で狩れないので、結果的にディアドラが仕留めているだけだとしたら? ザークシードの今の話からすると、私の予想は当たっているんだろう。


 さぁっと血の気が引いていった。


「どうしよう、私、狩りがしたければ一人で行けばって言っちゃった……」


「む……?」


 ザークシードは一瞬真顔になったが、すぐに笑って私の背中を強く叩いた。


「まあ、丈夫なのが取り柄の奴です、大丈夫でしょう。我々が探しに行きますので、ディアドラ様はお部屋でお待ちください」


 くれぐれも一人で探しに行かないようにと言い置いてから、ザークシードは早足で去って行く。配下の魔族とザムドを探しに行くんだろう。


 夜は昼よりも強力な魔獣が徘徊するから、夜は出歩かないようにとディアドラも言われている。ただ、ディアドラがその言いつけを守っているように見えるのは、ただ暗すぎてよく見えないからつまらないというだけだ。


 窓の外に目を向ける。話している間にも外の暗さは増し、すっかり夜の冷たい空気が満ちていた。窓から見える夜の森はただの闇にしか見えなくて怖い。けれど、私の言葉のせいで小さな子が森に行ってしまったのだとしたら、と考えるといても立ってもいられなかった。


 窓を開けて背中の羽に魔力を込める。ふわと体が浮くのを感じ、私は窓の外に飛び出した。


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