トカゲの尻尾




名誉騎士城 一階食堂


ワイワイ


ガヤガヤ


大きなテーブルが並び、

複数の飯屋に人混みが入り混じる




ザワザワザワ


「イェーイwwww脱獄したったおwwww」


「……おい、何の写真を

Winstagramにあげようとしてるんだ?」


「いや、最近のバカッターに憧れてよ。

って言っても本当に悪いことしちゃまずいから

こんな風にッ!!牢屋から抜け出した所をッ!!

写真に納めてSNSに上げればッッ!!

フォロワーがっぽがっぽよぉ!!」


「でも誰も見てないでしょ?

ていうか、脱獄ではなく解放な。」


「まぁ……そうだけどよ。

俺たちもネットの世界ぐらいは主役になろうぜ……?」


「リアルでもネットでも、俺らは

アーフィンと一人称が被っている脇役でもないモブ……

いつかアイリスさんと一緒に居たあの人のように

いつのまにか死ぬんだ………………」


「うぅ……言うなよそんなこと…………

何で俺達はいつもこんな扱いなんだ…………」




スタスタスタ


「一般団員は既に居るようだな」


「……言っておくが……

ここは神聖なる名誉騎士城……

くれぐれも……無礼のないようにな……」


黒魔術師が途切れ途切れで言った



私達は一度息抜きの為、

一旦飯を食べることにした




「アーフィン、ラーメン好きねぇ」


「やっぱ醤油こってりが最強だって!!

逆に日本のラーメンに勝てる食べ物ある?

て、おめーうどん派かよ!?」


「えぇそうよ。○亀のうどんは最強だわ!!」



ガヤ組はハンバーガーやポテトを、

シュヴァルツはステーキ、

先生はサバの味噌煮を食べていた


皆安心して食べている感じだったから、

俺は嬉しいぞ!!




「これからどうすんだ?」


アーフィンが疑問を言う


全員が食事を終えた夕暮れ時

その全員は、思い出したようにジオルの居る所に集まり

指示を待っている


「……これから私達は試されることになる。

グリーンを使う時が来たということだ。」


!!


「それってつまり……」


カレンが察したように言う


「あぁ、やっと医者らしく

患者の病気や怪我を治すことになる。

腕試しだよ。」


オオ……


カツ カツ カツ


高級そうな黒いブーツが美しい音色を奏でている


「飯は済んだか?」


「ヴァーズさんか。あぁ、いつでも良い。」


「ならば話は早い。

……君達を待っている人が大勢いるからな」





スタスタ スタスタ


名誉騎士城の地下に繋がる石で出来た階段を

私達は降りている


「……どこに向かっているんだ?」


私が問いかける


「なぁに、君達も見覚えのあるやつの

「地下後処理場」と考えれば良い。」


………………


暫く降りた後、大きな空間が広がっていた


私達が居るのは観客席のような場所で、

その下には地面が土のコロシアムのような場所だった


ギャォォォォォ!!!


「移動式大砲用意!!

……撃てぇぇぇ!!!」


指揮官が一人上から指示をしている


観客席の最前列より前に敷かれたレールと

その上に土台を乗せた大砲が乗っている

そこに大砲の弾を入れる人が一人


指揮官の周りには研究者だろうか

何かをメモしている


ガラガラガラガラ

ドカァァァン!!


ギャグァ!!


!!


「あれは……ビースト!!」


「……そちらから流れてきたビースト達だ。

生憎、我々が真正面で戦って勝てる相手ではなかった

しかし、強力な麻酔を使い眠らせた後

こうして上から移動式の大砲で個別に撃破する。


不幸中の幸いで、どうやらこのビースト達の行動原理は

ただの獣と変わらない。

安心して各個撃破出来るというものだ。」


「なぜ私達を?」


「……実は、ビーストの動きが素早しっこく

こちらの移動式大砲もその動きに合わせるべく

速くしなくてはいけないのだが……

そのせいで移動式大砲から落ち、

ビーストに大怪我をされてしまうという事故が

多発している。」


「寝ている間に攻撃は出来ないのか?」


「睡眠中に何らかの攻撃をしようとしたが、

全員野生の感で起きてしまったという

研究結果が出た。

そう簡単にはやられないらしい。」


「……分かった。その患者さんは何処にいる?」


「こちらだ。」




地下 医務室


「あなた方が医者の……」


ベッドに横たわっていたのは、

左腕に包帯を巻いた、20代の男性だった


「あぁ、第七医師団総出であなたの怪我を治します。」


(なんか騙してるみたいで気が引けるな。)


アーフィンが小声で本音をこぼす


(一応普通の人じゃ治せない病気も治せるし

名乗ったって罰はないわよ。)




私は左腕に巻かれた包帯を外し、

左手が欠損しているのを確認した


「……始めます。」


「これから何をするんですか?

もう義手を使うしかないって……」


「シュヴァルツ」


「はい」


シュヴァルツが患者の左腕を右手で触れると、

集中するように目を閉じた


「……」




剣が折れても、また新しい物に変えれば良い


しかし、自分の体の代わりは他にはない


まだまだ世界平和とは言い難いこの世の中で

戦士が五体満足で寿命を迎えるということは

奇跡とも言えるだろう


それは戦士になった人の夢であり、

欲深いとも言える。


戦いになれば、生きることにも必死で

腕が一本無くなっても運が良い方だ。


……ここまで語ったけど、

小生は少し納得出来ていない。


それはなぜかと言われれば、

なぜこの魔法を作った人は魔法を広めず、

独占したのか……


そして、この魔法を普通に使えば害はないというのに

先生もなぜ広めないのだろう。


この魔法は、言わば薬と一緒だ。

使い方を誤れば相手を死なせることも出来る


……しかし、薬と一緒ならば

使い方さえ間違えなければ

今まで救えなかった人でさえ救えるようになる

天使のような物だ。


物自体は悪ではない

その物を悪に変える人が悪い


それは分かってるんだよ。

この魔法の勝手を知れば、簡単に悪用出来てしまう


だけど、救える人を救えないのはやるせない


救える人が大勢いるのに……

小生達は、そんな人達を見殺しにしているのでは……




「ルツ……シュヴァルツ!!」


「……?」


先生に揺さぶられて意識を取り戻した


そこまで集中していたのか


「何なんだこれはぁぁぁぁぁぁ!!!」


患者が叫んでいる


すぐさま左手に目線を合わせると……


「……あぁ!!?」


患者さんの再生するはずの左手が

なんと逆さまになってしまっていた!!


「す、すぐ治します!!」


チャキィ……


「な、なんであんた折れた剣を……!!?」


「大丈夫です、痛みはありません!!」


シャキィィィン!!!


「……うわァァァァ!!!

また無くなったァァァァァ!!!」


「……グリーン!!」


ぽわぁぁぁ……


「今度は足かよォォォォォ!!」


「やっちゃった!!う、動かないで!!」


「あんた何言ってってまさかまた」


シャキィィィン!!!


「左手腕足がァァァァァ!!!」


「……グリーン!!」


へなぁ……


「……今度はチ○コかよォォォォォ!!!」


シャキィィィン


「勝手に切るななァァァ!!!」

 



その場は騒然とし、

結局、左手の再生はアズキが代わりにやった


この時のシュヴァルツの失敗は、

第七騎士団に入ってから初めてだと言う……

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