ドノー・ファンには縛られない ジオル騎士団独立日記

あか

全ての始まり

「これは、己の過去を乗り越え

未来へと進む物語


または、考えることをやめず

常に思考を張り巡らせ、

あらゆる問題に立ち向かう物語」


一人の教師と思われる男性が

チョークを手に取り、大人数に語りかける


「……今一度考え直してほしい。

本当に"この"世界はこれでいいのだろうか?

考えることをやめ、物語はただただ薄っぺらいだけ

そこにあるのは、薄い本と大差ない内容……」


周りの人は黙々と聞いている

窓の外の空でも眺めているのだろうか?


「……もう一度問い直そう。

本当にこの世界はこれで良いのだろうか……?


オレは理想的な人、世界、名言が好きだ。

本をひらりひらりとめくっていけば

紙が重厚に重なっていくように

物語は進んでいく程面白くなる。


そんな物語を、オレは追い求め続ける。

世界にまだない物語を……オレは観たいんだ。」


……


周りは静かなままだ


当然だ。


オレは影響力がないくせ口が回らない

ただの凡人


誰にも振り替えられず、

期待されずに死んでいく


凡人以下の人間だ……




パチパチパチパチ


「……?」


「……おれは感動しましたよ!!

"先生"!!」


「!!」


人は、誰しもが救いを求めている

たった一人の男性に、世界が問いかけている


「救いはない。あるのは闇だけ」だと……


その男性は、こう言った


「……………………には縛られない」


その声は、世界中に届けるにはあまりにも小さく

世界は聞きそびれた






全ての人間は、救いを求めている……





ドノー・ファンには縛られない


第一話


全ての始まり




黄色いレンガの道


生い茂る草木


真上に昇る太陽


地平線に見える山々


時折来る風に

髪が答えるよう、ゆらゆらと揺れる




ここは長閑で平和な集落に続く道だ

茶色のブーツで、私はその道を

一歩一歩、確実に踏み歩く



「……見えてきた」



今の時代は、人類が出てきておよそ850年


まだ周辺地域では、国の中央に位置する都の

発展した街並みとは違い

道中は獣が出るほど大雑把なもので

集落では木材の家が乱雑に並んでいる




……黄色のレンガ道の先に、その家が見える




自己紹介をしよう。


年は25歳 身長は普通 体重は最近少し減り気味

私は"ドーヴェル騎士団第七騎士群隊長"

    "ジオル・ドーヴェル"


騎士群とは、騎士団本部とは別に

いくつかに分かれており

一騎士群、一大隊ぐらいの規模の人が所属する


そして私は第九まであるうちの七番目の隊長を

任されていて、この周辺で何かあれば

その問題を解決するのは私に一任される



朱色の服を着ているが、

これは騎士群の隊長の証の制服で

これを着ていなければ、隊長とは見られない程

重要なものだ



今回は調査で

どうやら、正体不明の魔獣が出て

死傷者が出たという報告があったのを聞き

私一人でやってきた




スタスタスタ


私は、ぽつんと一件家があったので

尋ねることにした


コンコンコン


木製の扉をノックする


「ごめんください」


ガチャ


「……誰かね」


ドアノブを左手で押して、半身だけ出てきたのは

男性の50歳ぐらいの老人だった






「第七騎士群隊長、ジオルです。

正体不明の魔獣が出たということなので

お話を聞きに来ました」


「おぉ、あの聡明で有名なジオル殿か

この儂が、この集落の村長です。

ようこそ参った、ささ、御寛ぎくだされ」


「お邪魔します」


と、村長は扉を開け

私は中に入る…………





スタスタ


そこには、赤いジュウタンを敷き

木製のテーブルに木製の椅子

そして、左にはガレージがあり

ガラスも張ってある

田舎にしては、豪華な内装だった


私はその木製の椅子に座った




「それで……正体不明とは?

どのような外見していましたか?

どのような行動パターンを?」


「おやおやジオル殿、少し急ぎ過ぎでは?

まだその魔獣は、一度しか出没してない上

すぐに逃げられてしまいまして……」


「……すまない、久々の調査ではしょってしまった。

何でも構いません。

その魔獣の特徴や何で攻撃してきたのか

それが聞ければ問題無いのですが……」


「うーむ、特徴は……」


と言ったら、村長は右手を顎に置き

考える仕草をし、村長は言った


「発見者に聞いたのですが、それはそれは

人のような形をしており、非常に毛深く

口には大きな牙を生やしており

とてつもない身体能力だったそうな……」


「……その牙でやられた、ということですか?」


「はい……」


「……やはりな」


「?」


村長が不思議そうな顔をしている


「いや、実はこのような事例は初めてではありません

他にも各地に、これによく似た事例が発生しています」


「そんな……騎士様はいつ対応してくださるのですか?」


「……」




この国の騎士団は厄介で

自分達の脅威となるもの以外は

全て保留にしてしまう。


今現在、騎士に被害者が居ないから

動きは全くない……





さて、どうしたものか。




ガリッ!!!


すると突然、扉の方から

木を乱暴に削るような、大きな音が出た



「なんだ……!?」


「おぉ……神よ…………」


ガン! ガン! ガシャァァン!!!


「!!」


扉ごと破壊した時

そこに立って居たのは

口からはみ出る程大きな牙と

朱色の一本5センチはある毛

それに、手の先にはギザギザの爪があった!!




シャキン!


俺は咄嗟に、腰に携えた長剣を左手に持ち

腰を落とし、前屈みになって、戦闘体勢になる!


(扉を素手で破壊する程の身体能力……!?

本当に、勝てるのか……!!?)



ガオォ!!



その獣は、両手を前に出し

口を大きく開いて、俺の方に襲いかかってきた!!



ゴッ!!


ガキン!!


「くっ」


俺は素早く内側に入り込み

両手の爪からの攻撃を避け

牙での噛みつきからは

剣を横向きにして防いだが

魔獣は剣に噛みつき、離れようとしない……!!


「このっ!!」


俺は左足で魔獣を蹴ったが

全然びくともしなかった


ガッ


魔獣が抱きついてきた


ガリガリガリ……


「ウッ!!」


魔獣は、1センチぐらいある鋭い爪で

俺の背中を上に抉っていく


「ぐ……うおおおおおおおお!!!」


俺はこのままではまずいと思い

咥えられている剣を押し出した…!!


ガキィィン


ギャオン!!!


スタタッ



そうすると、魔獣の牙は折れ

のけぞった時、後ろに間合いを取る



…………


スタ スタ スタ


魔獣はカッとこちらを睨みつけると

後ろを振り向き、歩き出した


「……」


俺はそのまま構えを止めずに魔獣を直視し続ける



そのまま魔獣は歩き続け、

山の方へ歩いていった……





「大変助かりました、ジオル殿!」


「今は話しかけないでくれ……傷が広がる」


俺は痛みに耐え、冷静に上着を脱ぐ


「!!その背中の傷……!!」


スタスタ


「……くそっ」


俺はガラスの前に立った。

そこから見える背中は、皮を引き裂かれ

肉が少しだけ見えてしまっている程だった



「今消毒しますぞ!」


「すまない……包帯も巻いてくれ」




手当をしてもらっている最中


「……あの魔獣、何か知っているか?」


「……いえ、儂からは何とも………………

いや、もしかしたら……」


「何か心当たりがあるんですか?」


「定かではありませんが……

村の言い伝えにこうあります……

「世界に現れし謎の獣"ビースト"は

人々を蹂躙し、魔王へと昇華する」

……もしかすると、あの獣は

"災厄"なのかもしれませぬ……」


「……」





私は、椅子に座り、村長の手当を受けた

意外と手際が良く、すぐに動けるようになった



その時



ダッダッダッダッ


「村長!!?」


「おぉ……アーフィンか」


村長が名前を言う


そこには、18歳ぐらいの青年が居て

鉄の剣を持ち、布の服を着て、皮のズボンを履いている


髪は上げてバンダナを巻き

いかにも「ひよっこ戦士」と言える外見をしていた




「村長も襲われて……!?」


「「も」とは……まさか!?」


「えぇ、村にも例の魔獣が現れて……!!

しかも今回は、山の方から大勢!!」


「……何?」


私は隣に座っていたので

その会話を聞いていた


「……あなたは?」


「失礼、私はここら辺を担当している"騎士"だ

異変を聞き、駆けつけたが……

大変なことになっているようだな」


「大変なことって、そんな他人事じゃない!!

たった一人でここにきて……!!

他の騎士はいないのか!!」


青年が言う


「……ここには調査に来た。

今は言い合いをしている場合ではない!!

私は救助しに行く!!」


私は椅子から立ち、すぐに村へと駆けつけようとした時


「騎士様や、この青年は

この集落の"自警団"の隊員

力はあなたには及ばないが、それでも役に立ちます。

どうか連れて行ってあげてもらえないでしょうか。」


「……それなら君、早く来い!」


「村長がそんな言わなくたって

俺は集落に戻る!!」







スタタタタタッ


私は、六割程度の速さで走っている


私の後ろの方で、フォームがガタガタだが

必死に追いつこうとしている自警団の青年がいる


「ハァッハァッ」


「……自警団の君

もう少しペースを上げられないか?

私は集落の地理には詳しくないんだ」


「んなこと分かってるよ!!

でも、アンタが速すぎるんだよ!!」


スタタタタタッ



「……!!」


「な、なんだよ……これ……!!!」


そこには、家が全焼し黒焦げになった集落があった


周りの草木にも燃え移り

あちらこちらで炎上していて

まるで、地獄にいるようだった


「そこの方!大丈夫ですか!!」


スタスタスタ


私は、すぐそこに倒れている

綺麗な黒髪のロングの女性に近づき

声をかける


「うぅ……」


「……!!おい、嘘……だろ…………!!」


「知り合いか!?」


「俺の……幼なじみだッ…………!!!」


「……煙を吸いすぎていて呼吸困難になっている!!

待っていろ!!すぐに助け出して……」


私は、アーフィンの幼馴染だと言う女性を

ここから離れさせようとしたが……


「良いの……私のことは

もう…長くないことは分かってる……」


「そんなこと言うなよ!!"アミ"!!」


「……村に大勢の魔獣が来た…………

きっとこの村を滅しに来たんだわ…………」


スタ   スタ スタ


ひよっこ戦士の近づいていった時の歩幅が

一歩一歩違く、顔も歪んでいた


「アミ……くそっ、俺がもっと強ければッ…………!」


「あなたは弱くなんかない……

いつだってあの笑顔は、この村の皆を救ってた……

だけど……もうその笑顔は見れないんだね…………」


「!!!何言ってんだよ!!

昔から、ずっと一緒だったじゃねぇか!!」


と、彼は彼女は揺さぶる


「……村の人や自警団の皆んなはさ

殺されちゃった。それはもう酷かった…………」


「ッッッ…………」


「でもね……あなたを村長の所に向かわせたのは

皆、あなたに生きていて欲しかったの……

………………皆死ぬのは、覚悟してたのよ……」


「…!?何でだよ!!

何で俺も…………一緒に死なせてくれなかった……

"死ぬのも一緒"って言ったじゃねぇか……!!」


「あれ……何て言ったの…………?

もう……何も聞こえないや…………

…………もう、眠るね…………」


そうすると、彼女は全身に力が抜け

人形のように、眠りにつくのだった…………







「おい、おい!!!

……………………く、クッソォォォォォォォォ!!!」


「……ここに長くいると厄介だ。

君はその子を連れて逃げなさい。

ここから先は、"私の仕事"だ。」


「………………俺も行く。

……助けられる人が、何処かに居るはずだ…………」




そこから先は

凄惨な地獄がただ広がっているだけだった


大人の男や女の死体や

ちいさな子供まで、皆殺しにされていた


その死体を見つけるたび、自警団の男の目からは

静かに、涙が溢れていた…………




「これで57人目…………

まだだ、まだ生きてる人が…………」


「………もう良いだろう。

もう、目を覚ませ。

ここに居る人は皆……この世には居ない」


「んな訳ねぇだろ!!

一人ぐらい、生きている人が…………」


バチン!


「!!」


私は自警団の男に、ビンタをした


「このビンタは…………

壮絶な最期を迎えたここの村人全員のものだ……!!

赤の他人の私だが

あの最初の女の人なら、きっとこうしただろう……」


「……俺は、この状況が分からない…………

なぜこうなった………………

なぜ魔獣が出てきた…………

なんで…………………………この村を…………」


「……来るか?」


「……?」


「私の騎士群に…………来るかと言った。

ここの村人の死亡や、この村の全壊

魔獣の件と関係があるということは

騎士団も動くはずだろう……そこで、だ」


「……騎士団に入れってか?」


「……あぁ。お前は元自警団ということで

"父"に頼んで、新兵から特別昇級させてやろう。」


「……弔い合戦を、してくれるのか?」


「……約束しよう。この村の犠牲は無駄にはしない。」


「……強すぎてビビるんじゃねぇぞ?」




そう、全てはここから始まった


この世界の新たな人類の脅威

"ビースト"は、この後連日号外として新聞に載った


この"剣しかない世界"で

人類は果たして、対抗できるのだろうか……?

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