第5話 【飛蹴兎】

 晴人は異世界転移を果たし、この『神の園』という名の森でサバイバル生活を始めてから初めての生き物と遭遇した。


 晴人は久しく【ふしぎな果実】しか食べていなかったので、こちらの世界に来て肉が食べられるかもしれないという可能性が出てきた事に心が跳ね踊る。

 

 晴人は兎に気づかれないように、兎から離れた遠くの木々に潜む。


 逃したらまた肉のないサバイバル生活を送ることになるので、どうしても晴人の体に力が入る。


 晴人は【スキルの果実】で入手した【鑑定SP】を使用して、兎のステータスを確認しようとする。


 すると兎のステータスが晴人の目の前に表示される。


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【名称】フライラビット

 Lv.39

【HP】18000

【MP】15000

【攻撃力】22000

【防御力】5000

【敏捷】20000

【知力】15000

【幸運】1000


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【スキル】


【跳躍】【飛翔】【風魔法】


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【称号】神の園に住まいしもの


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 晴人は兎、フライラビットのステータスを確認すると驚愕の表情を浮かべた。

 だが晴人の反応は同じ世界から来た人であれば同じだろう。


 というのもフライラビットは現世でいう可愛らしいとされる兎となんら変わらないにも関わらず、【ふしぎな果実】でかなり強化したはずの晴人それほど変わらないステータスだったからだ。



 晴人のステータスはというとこれ程に成長していた。


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【名前】竹中晴人(タケナカハルト)

【種族】人族

 Lv.1/♾

【HP】20100

【MP】18100

【攻撃力】25100

【防御力】15100

【敏捷】18100

【知力】18100

【幸運】15100


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【スキル】【鑑定SP】

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【称号】神の園に踏み入れし者

    異世界人


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 ステータス値だけを見れば数値は晴人の方が高いが、フライラビットは数値は晴人よりは低いもののスキルの多さ加味するとフライラビットの方にに軍配が上がるだろう。

 それに加えて戦闘など喧嘩でしか経験がない晴人にとって殺し合いという戦闘に関しては初体験で、晴人の体に緊張が走る。


 そして、晴人は今の今この世界にきて初めての戦闘を迎えようとしている。

 

 晴人は異世界系の小説も読むことがあったので、この世界が異世界と知ってからはいつかは魔物という存在にも遭遇して、戦闘するかもしれないとは漠然とだが予想していた。

 そしてその魔物が理性のない凶暴な存在である限り、命と命を駆け引きとした戦闘に興じるだろうことも覚悟していた。

 だがいざ命と命を賭けて戦えと言われても、上手く身体に力が伝わらない。


 確かに異世界ファンタジーであれば魔物を討伐して強くなるというのが醍醐味かもしれない。


 だが現実、本当に命を賭けた戦闘をしようという場面になると、どうやら緊張と恐怖、そして不安が体を強く縛り、拘束する。


 晴人は縛られるような感覚の身体に自身で叱咤をかける。


 このフライラビットを諦める訳もいかない。もしここで諦めれば念願の肉はまただいぶ先になってしまうかもしれないからだ。

 だからこの戦闘は晴人にとっては逃げられない戦いなのだ。


 晴人は『神の園』の木を使って、製作したお手製の簡易の水筒に以前発見した【新聖水】を入れている。

 簡易水筒を作製してからは万が一に備えて、【新聖水】を常備している。

 備えあれば憂いなし、【新聖水】さえあれば命ありとはよく言ったものだ。


「とりあえずのところどんな事があろうと【新聖水】がある限りは死にはしない」


 その安心感が晴人に襲いかかる死の恐怖から守ってくれる唯一のものであった。


 晴人は完全なる【新聖水】頼りで、フライラビットを討伐する為の算段を立てる。


 ある程度の作戦が立ったところで晴人とフライラビットとの戦闘の火蓋が切られる。


 木々の物陰からフライラビットの攻撃を観察してしていたのだが、観察に夢中になる下に落ちていた小足に気付かずに小石を蹴飛ばしてしまう。

  

 それにより、小石がコロリと音を立てる。


「しまった! このままでは俺の肉が!」


 物音を立ててしまった晴人はフライラビットが危機を察知して逃げてしまったと思った。

 だがしかし次にフライラビットがとった行動は晴人が知っている自然界の摂理からは反したものであった。

 逃げると思われたフライラビットは一切驚く様子もなく晴人に向かって一直線に跳んだ。

 そしてその勢いごとフライラビットは晴人がいる場所へと飛び蹴りをかます。


 バキンッ!


 フライラビットが放った飛び蹴りを晴人はギリギリのところで躱す。


 晴人が躱したことによりフライラビットの鋭蹴は晴人が身を潜めていた木へと炸裂した。

 その結果、かなり頑丈な幹だったのにも関わらず、蹴りが炸裂したところから見事に真っ二つに割れた。


 晴人は真っ二つに割れ、凪倒された木をみて放心状態。


「……………………………」


 え!? やばいだろ? やば過ぎだろ、この兎……いや、フライラビット

 蹴りの速さも尋常じゃない

 それに先程放たれた蹴りの威力……

 こんな攻撃をまともに喰らうなんて事があれば一瞬で即死だ……


 そんな事があれば【新聖水】を持ってきた意味も無くなってしまう。


 フライラビットは晴人が放心状態ということに容赦する様子もなく、フライラビットの鋭蹴がまたも晴人へと襲い掛かる。


 そして晴人が躱すたびに、どんどんと俺の犠牲になって薙ぎ倒されていく木々。


 晴人は何かしらフライラビットに一矢報いる為に折れた枝を拾って構える。


 フライラビットと対峙した晴人は拾った枝を剣に見立てた構えを取る。



「……さぁこい、この全然可愛くない兎め」

 

 

 スパンッ!


 威勢よく構えた枝の剣は呆気なくフライラビットがした何かによって切断された。


 切断された枝は居合斬りされたかのように切れ目から綺麗に滑り落ちていく。


 そして、晴人はその原因を探って一つの解を見つけた。そう、フライラビットは何と魔法、それも風魔法を放ったのである。


 晴人はこうしてこの異世界に来て、初めての魔法を見る事ができたのである。

 だが今は感動できる余裕なんてものは晴人にはなかった。


 なんたっても、この兎どう考えても異常に強すぎる!


 晴人の心の叫びを無視して、フライラビットの風魔法の乱撃が晴人へと襲いかかっていく。


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