【ユキはやオフコラボ】初オフコラボ。内容未定。緊張する【灰猫ユキ/早川はやて】
運命の日。早川はやてと、灰猫ユキのオフラインコラボ当日。
なんでもいいからアヤカの特別が欲しくて、日程やコラボ内容どころか本人の許可すら取らずに計画したこのオフコラボだけど、アヤカが許可してくれたおかげでなんとか配信当日を迎えることができた。
「アヤカ、入るね?」
「うん、どうぞ」
今も昔もアヤカに嫌われることが1番怖い。
そんな事を思っておきながら、今回の件も含めて嫌われてもおかしくないことをアヤカにはしている自覚はある。
でも、ちょっとしたことで自分の中の醜い嫉妬心が恐怖心を遥かに上回って暴走してしまう。
仕方ないとは思えない。
冷静になった直後の、後悔する感覚には慣れる気がしないし忘れることもできない。
「配信準備は万端だからいつでも始められるよ。でもいいの? 私が配信内容まで全部1人で決めちゃったけど」
「うん、いいよ。あたしはアヤカと一緒に配信出来れば」
「なにそれ」
「アヤカが好きってことだよ」
これでいい。
2人だけの空間なら嫉妬もない。あたしの見せたくもない心を見せなくて済む。
昔から言葉がなくともアヤカはあたしの心なんてお見通しだったけど、言葉のあるなしでは全然違う。
昔と違うのは、あたしからアヤカの考えもわからなくなっていることだけだ。
あたしが普通じゃないと知った、あの日。
あの日を境として、あたしはアヤカの考えが全然わからなくなってしまった。
顔を見れば何を考えているかなんて丸わかりだったのに。
生まれてから20年弱の付き合いだから感情の推測ぐらいは今でもできるけど、そんなのは他人でもできる。
あたしとアヤカは他人じゃないのに。
どうして、あの日を境にアヤカの気持ちがわからなくなったのかがわからない。
「はい」
「はいー!」
『はい』『きちゃー!』『はい! こんばんはやてー!』『正座して待ってました』『告知から1週間も正座してたニキ凄い』『足の感覚無くなってそう』『悟り開いてそう』『この日の為に有給取ったぞ!』『俺もこの日の為に会社やめてきたやで~』
「というわけでね、今日ははやてとのコラボ配信です。もう何度目だったかな……10回は越してるはずだけど、いつもと違って今回はオフラインでのコラボだよ」
「ユキちゃんの部屋からお送りしてまーす! 配信終わった後はお泊りまでしちゃうんだー!」
『テンション上がってきた』『お泊り……いい』『閃きそう』『阻止』『阻止』『健全なコンテンツだからな』『頭中学生大杉』
配信が始まると、いつも通り【早川はやて】のスイッチが入る。
現実のあたしとは違うあたし。
自分の醜い心とは違うあたしになろうと、無駄にテンションの高いあたしになる。
いつもはそれで上手くいくんだけど、今日は隣にアヤカがいるからちょっと調子が狂う。
さっきもお泊りなんて言うつもりはなかったのに、無意識に口から出ていた。
これくらいなら、まだはやてがユキちゃんとのコラボにテンションが上がって発言したと思われるだろうが、自分の事は自分が1番よくわかっている。
あれはただのマウント行為だ。
自分の優位性を敵に見せつけているだけの行為。ただ気持ち良くなるだけの自慰行為と変わりない。姿が変わっても変わらない、浅ましい自分の心が嫌になる。
「実は私、今日けっこう緊張してるんだ」
「えっ、そうなの? 全然そんな風に見えないんだけど」
「ほんとに。初配信より緊張してるかも」
「そう言われるとあたしまで緊張してくるんだけど……」
『俺も緊張してきた』『お見合いですか?』『ユキちゃん 初配信 緊張……?』『配信慣れしてないから手際は良くなかったよな』『緊張してた記憶ないゾ』『ユキちゃんが2期生トップバッターで淡々と配信しちゃったから、2番手のリンゴンの緊張凄かった記憶しかない』
『林檎ちゃん噛み噛みだったなぁ、懐かしい』
「まぁ1番緊張したのは、ライブイベントで初めて1期生2期生の皆と顔合わせする時だったんだけどね。今日は2番目かな?」
「……ユキちゃん、そろそろ今日何するか発表お願いしていい?」
「あ、うん。じゃあ改めて、今日は私たちのコラボ配信に来てくれてありがとう。配信が始まる前から鳩でハッシュタグ#ユキはやオフコラボ で呟いてくれたのも見たよ」
「今日のサムネ画像も鳩で呟いてくれたものなんだよね! 他にもたくさんのイラストありがとう!」
「他のも良かったけど、このイラストが1番良かったからサムネで使わせてもらったよ……せっかくのオフコラボだし、このイラストと同じポーズしてみよっか?」
「へっ?」
『え?』『ふぁっ!?』『あっ……』『ありがとうございます!』『本日初てえてえ頂きました』『まだ開始直後なのに昇天してたら命持たないぞ』『命のストック用意してきた』『命ストック兄貴こわすぎ』『2Dだから俺たちに見えないけど、心の目で見るからオッケーです』
アヤカに右手を繋がれて、一瞬何が起きたのかわからなかった。
最近は、あたしから触れることはあってもアヤカから触れてくれることなんてほとんど無かったから、不意の接触に心臓が跳ねる。
久しぶりにアヤカから手を握ってくれたとか、今日は2Dだからこんな事したってリスナーには見えないし意味ないとか、ずっと手を握っていたいとか頭の中を様々な感情が巡っていく。
その時、繋がれた手の中にふと違和感を覚えた。
何かあたしたちの手の間に異物が挟まっている、比喩ではなく現実にその感覚があった。
これが何か問うためにアヤカの方へ視線を向けると、あたしと繋がれていない自由な右手をPC画面に伸ばしピースサインを作っている。
アヤカからの視線は、あたしもイラスト通りに左でピースサインを作れと言っており、この行為の意味も異物の正体もわからないまま、言う通りに画面へ腕を伸ばした。
2人してイラスト通りのポーズをすると、満足したのかすぐに繋がれた手は離れてしまった。
久しぶりの姉からくれた温もりが離れていくのは寂しかったが、それによって先程の異物の正体が明らかとなる。
ソレは1枚の紙きれで、そこにはアヤカの筆跡でただ1言『ちゃんと、私を見てほしい』とだけ書いてあった。
「はやてが恥ずかしがって中々ピースしてくれなかった」
「えっ、いやだって……恥ずかしくはなかったけど、見えないのにやる意味あるのかなっては思ったよ」
「オフラインじゃないとできないことだから、どうしてもやりたかったんだ……嫌だった?」
「嫌、でもないけど……」
「手を繋ぐのも?」
「うん……嬉しかったよ」
「そっか、よかった。じゃあ今日は1日手繋いであげるね」
『は? てえてえ』『オフラインに感謝』『ありがとう。ありがとう』『ユキはやのおかげで持病の癌が治りました』『俺も持病のニートが治ったゾ。今度初任給で投げ銭するから覚悟の準備をしておいてください』『はやちゃん大丈夫? 限界化しない?』『ユキちゃんとはやちゃんの手の間に挟まりたい』『百合の間に挟まるのはNG』『お前は紙くずにでもなってろ』
アヤカからの謎のメッセージと、帰ってきた右手の温もりであたしの頭の中は配信どころではなかった。
『ちゃんと、私を見てほしい?』
あたしはいつでもアヤカを見てきたつもりだ。
いつもアヤカだけを見てきた。
さっきまで話していた友達の顔をすぐに思い出せないことはあっても、アヤカの顔を忘れたことなんてない。
「それで今日の内容なんだけど、私たちってコラボするときは大体ゲーム配信だったからさ、あんまり2人の時に雑談ってしたことなかったんだよね。というわけで今日はマシマロと鳩のハッシュタグで募集した、質問返しです」
「わりと雑談してた記憶だったけど、あんましてなかったんだ」
「裏でも話すからね、配信には乗ってないだけで」
「あ、そっか」
「そういうこと。……じゃあ1つ目の質問、お2人は姉妹の仲が良いことで有名ですが、リアルでも姉妹や兄弟がいたりしますか?」
『リアルの質問かぁ』『ユキちゃんもだけど、意外とはやちゃんもリアルの話題出さないんだよね』『まぁヴァーチャル世界だからな、リアルの話はあまり詮索するものじゃない』『でもちょっと気になる質問だな』『妹属性ユキちゃんと姉属性はやちゃんとか、想像するだけでギャップ萌え案件』
なんだ、この質問は。
なんでこのタイミングでこの質問を選んだ?
今の、オフライン状態で。手を繋いでいる状態で。私をちゃんと見てほしいというメッセージを伝えた後で。
先程から困惑が収まらない私を横目にアヤカは自由な右手でマウスを操作し、おもむろにスタートメニューからメモ帳を起動した。
そのままサブモニターに表示されているコメント欄に重なるようにドラッグさせ、覆い隠せるまで拡大させる。
『これでコメント欄は見えなくなった。私達2人だけの世界だね』
『花菜は何も操作しなくていいよ。私が好きに書き込むだけ』
『だから、ちゃんと私を見てね。お願い』
「あんまリアルのこと話しても面白くないだろうから話さなかったんだけど、私は妹が1人いるよ。1つ下の」
『世界で1番大切な、最愛の妹が』
「へー、そうなんだ」
「うん。昔はお姉ちゃんお姉ちゃんって可愛かったんだ。今はちょっと生意気に名前呼びしてくるんだけど、それも可愛いの」
『名前呼びが反抗なんだよね? お姉ちゃんと妹だけじゃ嫌なんだよね?』
「なに、それ……」
「名前呼びは嫌じゃないんだ。けどそれとは別に、姉離れかなーってことがあって」
『でもね、花菜』
「妹ったら最近、私以上に好きな人ができたらしくて。取られちゃったみたいで寂しかったり」
『あなたの頭の中にいるアヤカと、あなたの姉の高森彩華は別人だよ』
頭が真っ白になった。
何を言っているのかわからない。
何を言われたのかわからない。
あの人は今、なんと言った?
アヤカと彩華が別人? 意味が分からない。
だってアヤカは今、あたしの目の前にいる。別人なわけがない。
あたしがアヤカの顔を間違えるわけがない。
あたしは間違ってない。
「……それって、ユキちゃんの勘違いなんじゃないの?」
「ううん、本当。これでも私はお姉ちゃんだから、妹の事はよくわかるんだ」
『間違ってるのは花菜、あなた』
「……あたしは!」
『あたしは、間違ってない?』
「……あたしは」
『花菜、こっちを見て』
言われるまま顔を上げると、あたしを見つめるアヤカと目が合った。
相変わらず何を考えているかわからない。
視線だけは交わっていても気持ちが交わっていない、昔なら考えられなかった気持ち悪い感覚。
……視線だけが交わっていても気持ちが交わっていない?
——それはつまり、あたしがアヤカを見ていなかった何よりの証拠で。
いや、違う。あたしは確かにアヤカを見ていた。
ならば間違っていたのは前提。アヤカを見ていて、彩華を見ていなかった。
……なんだ、間違っていたのはあたしだった。
「あたしは……」
『高校で離ればなれになったから私を見なくなったわけじゃないよね。それ以前、名前呼びが始まった時から』
「お姉ちゃんが1人いて……」
『自分の感情を理解して、姉妹でそんな感情を抱くなんておかしいと思って』
「でも……」
『だから私と同じ名前、同じ姿のアヤカを作った』
「いつからか、気持ちがすれ違っちゃって……」
『同じ名前だけどアヤカと彩華は別人だから、恋人みたいなことをしても問題ないもんね』
「あたし、酷い事たくさんしちゃって……」
『私がユキになったら、花菜がはやてになって追いかけてきた。そして、そこでも自分の知っている私と違う私を見て、理想のユキをつくった』
「ずっと逃げてばかりだったけど……」
『ねぇ、花菜。私を見て。あなたの好きな、あなたを好きな私はどこにいるの?』
「話を、してみようかな……」
涙に滲んだ世界で、お姉ちゃんを見つけた。
久しぶりに見たお姉ちゃんは前に見た時より、ずっと愛おしかった。
お姉ちゃんから、あたしに向けられる視線にも愛情を感じて。
あたしは、お姉ちゃんとまた会うことができた。
「あ、もう2時間じゃん! 楽しい時間が経つのは早いなー!」
「ほんとにね。もっと話したいけれど、終われなくなっちゃうから今日はここまでかな」
『あっという間の2時間だった』『2人の事色々聞けて楽しかったよー!』『ユキちゃんのリアル話とか貴重どころではない』『ていうかユキちゃんがリアルにいるとは思えないわ』『そりゃヴァーチャル世界の住人だからな』『まぁ言いたいことはわかる。非現実的っていうか』『はやちゃんは1学年に1人はいそう』『カーストトップのアレね』『陰キャの敵な』『はやちゃんはオタク君に優しい……はず』『あんなのラノベの世界にしかいないぞ』
「それじゃあお疲れ様……ってわけじゃなくて、最後に1つだけ」
「え、なになに? まだ何か用意してたの?」
「うん。ていうか、個人的には今日のメインイベントなんだよね。これの為に枠取ったみたいなものだし」
「えー! 何それめっちゃ気になる!」
『俺も気になる』『えっ、今日はまだ配信終わらないのか!?』『ああ……しっかり楽しめ』『うめ。うめ。うめ』『ユキちゃんのサプライズ……期待!』『まだまだ正座できます』『正座ニキまだやってて草』『PC前で正座しながらコメント打ってるの想像したら草』『癖になってんだ……正座して視聴するの』
「と言っても、ただの自己満足なんだけどね。だから本当は配信でやることじゃないし、リスナーさん達には退屈かもしれない。ここでブラウザバックしてもらっても大丈夫」
「い、今からあたし何されるの……?」
「実は、はやてに手紙書いてきたんだ。……仲直りの手紙」
『仲直りって、ユキちゃんとはやちゃんケンカしてたの?』『えぇ……全然見えなかったんですが、それは』『ケンカしててこれなら、ケンカしてない時は一体どれだけ凄いんだ』『ケンカはケンカでも、犬も食わないケンカってなーんだ?』『世界最強の親子喧嘩とかですかね……』
「うそ……だって、悪いのは全部あたしなのに……」
「ううん、私にも悪いところはあったよ。実際、ちょっと前までは別に今まで通りでいいかって思ってたし。……じゃあ読むね。はやてへ。あなたにはたくさん伝えたい気持ちがあります——」
「お疲れ、花菜」
「お疲れ、お姉ちゃん」
配信が終わり現実世界に戻ってくると、自然に【早川はやて】のスイッチが切れた。
まぁ、今日はちょくちょく切れていた気もするが。主にメモ帳の時とか手紙の時とか。
というか、この姉はいつの間にあんな手紙だったりを準備していたのか。
あたしは姉のことが大好きだし、姉もあたしのことを好きなのはわかっていたが、最近は少し自信がなかった。ただあたしの1人善がりだったのかと思っていた。
本当にそうだったし、あたしが全部悪いので何も言う資格なんてないのだが。
「ていうかお姉ちゃん。ちょっと前までは今まで通りでいいって思ってたなら、何がきっかけだったわけ? さっきは聞けなかったけどさ」
「あぁ、それ? それはね……花菜に、襲われたときだよ」
「へぇ!?」
「だって花菜ってば、私を通して私じゃない私と楽しんでるんだもん。今までは、私も花菜も向きはちょっとズレてるけど同じところを見ていると思ったのに……」
「つ、つまり……」
「アヤカに嫉妬したから、アヤカを消したの。私を騙って花菜とイチャイチャしてくれたんだし、消えてもらうしかないよね」
「その、してる時に無反応だったのは……?」
「自分の好きな子が、自分のそっくりさん相手に楽しんでるのを見て楽しむ趣味はないってこと」
本当に恥ずかしい。
理想の姉を妄想しながら、現実の姉の体を使って楽しんでいたと思うと消えてしまいたい。
嫉妬してくれて嬉しいとかより、あたしの中の羞恥心が悲鳴を上げている。
このまま自室に帰ってしまいたい気持ちでいっぱいだが、せっかくのお泊りチャンスを無駄にすることなんてできないし、それより前に今なお繋がれている手を放すつもりもない。
つまり、あたしはこのまま姉の前で悶えることしかできないのだ。
それも悔しいので、せめて顔を見られないように姉の胸の中に顔を埋めることにした。
「わ、っと。ふふっ……花菜ってば甘えちゃって」
「いいでしょ、別に……これくらいは普通だよ。そう、普通なの」
「普通、ねぇ……普通ってそんなに大事?」
「そりゃそうでしょ? 普通じゃないからって、お姉ちゃんの事を迷惑扱いしてきた人たちの事、まだ忘れてないからね」
「そうじゃなくて、女同士とか姉妹でとか。そういう普通」
姉がこの発言を本気で言っているのはわかるが、いかんせん同意はできない。
だってそのことで散々悩んできたのに、はいそうですねとすぐ頷いてしまったら本当に自分が馬鹿みたいだ。
普通であることが当たり前で、普通じゃないことが間違いだということはよく知っている。
そしてあたし自身も普通じゃない側の人間だが、数の暴力には勝てないから大人しく普通を演じるしかないのだ。
自分と同じ存在しか認めない、認められないと生きていけない。
それならば弱いあたしは、普通であろうとすることしかできない。
「別に道行く人全員に、自分は同性愛者ですってカミングアウトするわけでもないしよくない? 私は花菜が好きで、花菜は私が好き。それだけじゃん」
「そう考えられるお姉ちゃんが羨ましいよ……」
「そこまでして普通でいたいならさ、私と普通の姉妹じゃしないこと……したくないんだ?」
「それって」
「私より花菜の方が詳しいでしょ? 私の体を使って、散々してたくせに。……まさかアヤカとはできて、あたしとはできないなんて言わないよね?」
あぁ確かに。普通であるとかどうとか、あまり関係ないのかもしれない。
今すぐ主張を変えることはできないが、今少しそう思ってしまった。
だって大好きな相手が、自分を誘ってくれているのだ。
好きな相手からの誘いを断る程には最低ではありたくないし、何より好きな相手と触れ合いたいと思う気持ちの何がおかしいのだろうか。
そう思ってしまった時点で、今だけあたしは普通を演じることをやめた。
「花菜へ。
あなたにはたくさん伝えたい気持ちがあります。
ちょっとしたことから大切なことまで、本当にたくさんです。
私としてはあなたに問題なく伝えられていたと思っていたのですが、全然足りていなかったことを最近になって実感しました。
なので、口があまり上手くない私は手紙という手段を使ってあなたに気持ちを伝えたいと思います。
まずは謝罪を。
花菜の気持ちを全然わかってあげることができなくて、ごめんなさい。
最近の気持ちがすれ違っている期間は私にとっても苦痛でした。
言い訳になってしまいますが、私は花菜に甘えていました。
花菜なら何も言わなくてもわかってくれると。今までそうだったから。
でも違った。ちゃんと言葉にしなくちゃ駄目だった。
花菜は私じゃないんだから。
そう思って言葉にしても、言葉足らずな私は花菜を余計追い込むだけでした。
姉として情けない気持ちでいっぱいです。本当にごめんなさい。
次に怒りを。
花菜は時々、私を通して違う私を見ていましたね?
私には、それがとても悲しかったです。
目の前に私がいるのに無視されるようで、花菜の理想の私を押し付けられているようで。
私にも非があったけど、これだけは言わせてください。
花菜の理想の私は存在しません。
だから現実の私を好きになってください。
私は私だけだから。高森彩華は世界で1人だけだから。
あなたの目で、きちんと好きな人を見てあげてください。
最後に感謝を。
私の妹になってくれてありがとう。
私を好きになってくれてありがとう。
高森彩華は世界で1人だけど、高森花菜も世界で1人です。
私の大切な妹で、最愛の存在は世界であなた1人だけです。
大好きだよ、花菜」
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