ハル風散る桜の下で

福風 あぐり

第1話 春先の瞬間

 この学校帰りの小さな一本道が好きだった。春になれば、桜が舞い散り、夏は虫の泣き声が小さなさざ波みたく聴こえる。

 秋には、道一面紅葉色に姿を変える。冬は、木々の間に雪が積もり、そこから差し込む日差しや月の輝きが私の濁った心を透き通してくれる。


 私の中学三年は、あまりにも無慈悲な環境のなか、四季で姿を変えるこの一本道を独りで歩き続けた三年間だった。

 卒業式には出席しなかった。多分、誰も私がいない事なんて気にもとめてない。進学もしようか迷ったが結局は地元から離れた田舎の学校に進学を決めた。春からの一人暮らしも当然のように決定した。

 卒業式から数日後、私は証書を受け取りに学校へ向かった。

 私は挨拶も何も言わず学校の門を通り過ぎて、いつもの一本道を進み歩いていた。この色褪せることのない景色。

 私は、やっぱりこの時期の散り落ちていく桜の様子がどの季節模様の中で一番好きだ。これが見られなくなるのは、私にとっては家族や友達のような拠り所がなくなるような感じだった。

 そう思うと片目から一粒の滴が頬を伝った。ふと上を向くと両目から通り雨のように滴がこぼれ落ちた。

 「ありがとう・・・」自然と口から流れた言葉。これにどんな意味があったのか、私にもよく分からなかった。ただひたすら同じ言葉を言い続けていた。

 「どした、大丈夫?」

 気付けば私の横には、同じ制服を着た女の子が立っていた。髪が黄色がかっていて、首や指に無数のアクセサリー。如何にも不良という感じの子だった。

 こんな子が私なんかにと思ったが、私の顔は涙で紅くなっていた。心配して話し掛けてくれたみたいだった。

 「あ、いえ。大丈夫です。すみません。」私は裾で顔を拭った。

 「いや、謝んなくてもいいんだけどさ。こんなところで泣きながら『ありがとう』なんて連呼してたら誰でも気になるし。」

 確かに彼女の言うことはご最もだ。

 「あんた、神木中でしょ?この時期にこんなとこ歩いてるってことは、あんたも証書貰いに来たんだ。私も。」

 彼女は見ず知らずの私に話し続けてきた。

 「はい。私は、今、受け取りに行った帰りです。」思わず私も返事をした。いままでの私なら最低限の挨拶だけして、逃げるようにその場を去ってたのに。

 「私も今、貰ってきたんだ。やっと、つまらない学校生活とおさらば出来た。あ、私、苗木なえき 蜜葉みつは。よろしく。って言っても卒業したからもう会うこともないか。」 

 彼女は、笑いながら話していた。「で、あんた。名前は?」

 「あ、私は、中野なかの 芽衣めいです。」



 これが、私の初めての友達と言える存在が出来た瞬間だった。。。

 

 

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