元おっさんが勇者として異世界に勇者として召喚されたら、召喚したのが女神じゃなくて魔女だった件

琥宮 千孝(くみや ちたか)

第1話 召喚

フェンリーは、いつもの通り荷物運びの仕事をしていた。

その日の天気は相変わらず良くて、今日も滞りなく終わる筈だった。

戦争もなく、お伽噺のような悪魔や天使など存在せず、ただひたすら繰り返すだけの日々。

だが、フェンリーにとってはその日常が幸せだった。


だが、その日常は突然崩れる。

グラントが走らせていた馬車を突然光が包み込んだ。


「な、なんだ一体!?」



しばらくすると、薄暗い部屋にいるのが分かった。

何が起きたのか頭が追いつかない。

いや、俺は夢でも見ているのか?


そんな事を考え終わる前に急に声が聴こえた。


「やったわっ!遂に成功よ、これで世界は私のものよ!」


 ・・・見たことも無い服を着た女性が両手を挙げて喜んでいる。

 というか、肌が露出していて目のやり場に困る。


「なんという破廉恥な恰好なんだ」


思わず口にしてから、ハッとする。

その人物の目がギラっと光ったからだ。


「だ~れがハレンチやねん!」

「ぐはっ!」


 一撃の元、屠られたフェンリーの人生はあっけなく終わるのであった。

 彼が最後に考えた事は、『ああ、よく見たら綺麗な人だったな』であった。




「いやいや、そう簡単に死んでもらったら困るわよ!」


「・・・あれ?生きてる」


「えーと、正確には一回死んだわね」


「えええええっ!?」


「アタシの名前は、アシュタル。この世界__せいふくの為、勇者を召喚した筈なのだけど…アンタ、どう見てもただの村人のおっさんよね…」


 おっさんは失礼かと思うが、そろそろいい歳である自覚はある。

 しかし、勇者とかなんのお伽噺だろうか?

 そういえば、昔読んだ本にそういうお伽噺があったかと思うな。

 たしか…。


「勇者を召喚出来るという事は、貴女は女神様ですか?」


「女神みたいに綺麗って意味かしら?まぁ、それはあっているけど、女神じゃないわ。アタシは魔女。この国で一番偉いから、魔王とも言われているわね」


「えええええええーっ!?」


 こうして、魔女アシュタルに召喚されたフェンリーは無理やり勇者にさせられ、その実力を付けるべく地獄の訓練をさせられるのだった。


「うげえっ、なんだこの死ぬほど苦いのは!」

「それは飲むとオーガ並みに強くなる秘薬よ。効果は一時的だけどそれでトレーニングすれば格段に強くなる筈よ」


 とある日。


「ぎゃああ、体中から激痛がああああ!!」

「ああ、筋肉痛ね。昨日のトレーニングの成果が出ているようね。このポーション飲んだら痛みは消えるから飲みなさい。まぁ、完全に治すと効果なくなるから痛みが消えるだけだけど…」


 その次の日。


「う…、もう動けません・・・」

「もう、筋肉痛くらいでだらしないわね!召喚、『パペット』!この男を操ってトレーニングさせなさい!」

「うぎゃああああ、もう無理ですって~~~!」


 ………

 ……

 …


 そんな地獄の日々が1年続いた頃。


「うん、幾分かマシになったかしら?」

「もう、いっそ殺してくれと思うほど辛かったのに、幾分かマシ程度なんですね・・・」

「じゃあ、あのドラゴン倒したら合格って事で!倒せなかったら…、やり直しね!」

「そんな嬉しそうに言わないでください!ちっくしょー、こうなったらやったるわーーい!」


 ──哀れに転がるは、さっきまで人だったモノ。

 魔女アシュタルが何か呪文を唱えると元の形に戻っていく。


「あら、意外と原型留めたわね」

「それが哀れにも死んだ弟子に言う言葉ですか・・・?!」






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