第137話 週末のお誘い

「それじゃあ今日はここでお開きねー。続きはまた明日にしましょうかー」

「おつかれーっす」


 今日の部活、終了。やることはいつもとだいたい変わらず、漫画とかアニメとかについての何たるかを語る会のようなもの。時期が時期というのもあったので、今日の議題は昨日に引き続いて冬イベントについてだった。

 アニメや漫画において大定番とも言えるクリスマスやバレンタインデーを始めとして、スキーやスケートなどのウィンタースポーツ。浮上することの少ないお正月なんかと。

 挙げて行けば色々と出てくるし、それらを事細かに語っていこうものなれば、時間なんてあっという間にすぎてしまうのだ。次のイラストの、漫画のネタのためにとあれだこれだとアイデアが出てくるんだもの。

 今日の活動が終わってからも、それぞれでこういうイベントはこうだのという会話がチラホラと聞こえてくる。早いもんで、もう十二月になったんだよな。実際この部活でいくつかやるようなイベントなんかもあるんだろうか。


「お兄ちゃん」

「ん。どした葉月」


 テーブルの上に出していたペンケースをリュックにしまっていると、葉月が声をかけてくる。


「お兄ちゃん、いつもより口数が少なかったなーって思う」

「そうか?」

「そうそう。いつもに比べたら口数が三割くらい少なかったし、今日はあんまりキレがなかったし」

「そういう日もあるって」


 発言が少なかったことは認める。でも普段から戸水さんや月見里さんみたいに揚々と話せるわけでもない。


「あとはほんの少しだけ反応が遅かったり、あまりに返しが素っ気ないことが多かったりで……」

「えやだぁ……こわい」


 でもそこまで観察されると怖いんだけど。妹でないとすれば葉月、あなたは俺のなんなんですか。


「そんじゃ、おつかれっしたー」

「煌晴、またあしたー」


 解散になってから、用意の済ませたものから順々に部室を出ていく。


「早く来てねーおにーちゃーん」

「葉月ちゃん待たせると怖いわよー。私が」

「お前がかい。……さてと」


 今日の鍵当番は俺だ。全員が出ていったのを確認してから窓を閉め、そして部室の鍵をかける。

 鍵を二階にある職員室に戻してきたら、それで当番の仕事は完了だ。


「気をつけて帰れよ」

「はい。さようなら」


 近くを通りかかった男性職員に挨拶してから、職員室を出た。入口に下ろして置いたリュックの右側だけに腕を通して背負い、生徒玄関へと向かう。その途中のこと。


「……ん?」


 蕾が壁に寄りかかって立っていた。視線は右手のスマホの方に向いていたが、俺が通りがかったのに気がつくと、あわあわしてからスマホをブレザーのポケットにしまった。


「あ、こ、煌晴……君」

「どうしたんだ」

「ちょっと……話が、あって」

「話? もしかして部室に忘れもんしちまったか?」

「あ。そうじゃ、ないの……」


 忘れ物したとかではないようだ。別に要件があるみたいなんだけど、その一言が出てこないのかまたあわあわしだしてしまう。どうしたんだ、って聞いた方がいいのか……それとも彼女が勇気を振り絞るのを待った方がいいのか。選択に悩む。

 声を掛けたら掛けたで余計彼女が緊張してしまいそうだし、かと言ってこのままだと話が進みそうにもないし。

 なんて悩んでいたら、やっと彼女が口を開く。


「えっと……その……しゅ、週末の土曜日……なんだけど……」

「土曜日か。その日は部活、なかったよな」

「うん。それで……なんだけど。空いてるかな……って」

「ちょっと待ってろ」


 胸ポケットからスマホを取りだし、カレンダーのアプリを起動して予定を確認してみる。今のところは、特に予定は入っていない。


「土曜日だったら大丈夫だ。特に予定は入ってない」

「そっか。えっと、ね……」


 蕾からの質問に答えると、彼女はカバンから茶封筒を取りだし、その中身を見せる。何やらチケットのような紙切れが入っていた。


「えっと……槻先輩から、映画のチケットを貰ったんだけど、良かったらどうかな……って」

「映画か。何の映画なんだ」

「先週から、公開された……アクション映画なんだけど……」

「あーあれかぁ」


 テレビのCMで宣伝を見ていだから、どういう感じの映画なのかは大体わかる。ガンアクションがメインのSF映画だ。

 有名な某アメコミ映画の監督が手がけた映画の吹き替え版がいよいよ日本で公開されるとあって、注目度も高かった作品だ。


「きっと興味あるだろうからって貰ったの」

「そっか」

「それで、その……チケットが二枚入っていたから……」

「あぁそれで。正直この映画、予告見ててなんか面白そうだったし、気になってたんだ」


 映像にグイッと引き込まれて気になるってのだが小学生臭い感もあるだろうけど、あぁいうのって男心をくすぐるものがあるから気になってしまうんだよ。

 そんな映画を見に行けるとあれば、断らない理由もないってもの。


「じゃあ……良かったら」

「お誘いしてくれるんだったら、お言葉に甘えようかな」

「……ありがと」

「公開されるのが、この時間だから……こっちの時間の、それより早めに」

「じゃあ十時くらいかな」

「うん。楽しみに、してる……」


 てなわけで。週末の予定がひとつ決まった。


「そろそろ行かねぇと。下で葉月達待たせてるんだ」

「そっか。待たせるの、良くないから、ね」

「そういうこったな。んじゃあまた明日」


 週末の話をしたとこでこっちも解散。こん時はあんまり深いとこまで考えてなかったんだけど、土曜日に蕾と映画館に……って考えて、家に帰ってようやく我に返った、っていうか重大なことに気がついた。

 それってつまり……二人っきり?

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