第117話 演目についてを語らおうか

「あらあらー。なんか楽しそうじゃないのー」

「……戸水さん」


 向こうで高畑さんと何してたのかは知らないけど、ようやくそれが終わったのかこっちに彼女ととやってきた。


「女の子二人に囲まれて、さぞかし浮かれてるんじゃないのかしら大桑君」

「浮かれていたらこうも淡々とあなたの質問には答えてませんから」


 顔色はなるべく変えず。近くに鏡がある訳では無いから今どんな顔してんのかは知らないけども、変な顔にはなってない……はず。


「なら何をしてたのよ」

「まぁ……三人で台本を読み返していたところです。物語の展開がどうとか、そんな感じで」

「私から色々と煌晴に指導していたところなんですよー」

「私も、いる……」


 俺が頼んだ訳ではなく、向こうから勝手に進めだしたことだってのは、黙っとくこととしよう。


「そっちは何してたんですか。二人がやることなくなったとか言い出す始末なんですけど」

「あぁーごめんごめん。高畑さんと今回の演目についてをあれこれ語っていたところでねー。気合が入っちゃうもんだからー」


 前もそうだったわ。俺が槻さんの代役で演劇部の打ち合わせに行った時だったか。その打ち合わせが終わったあと、二人だけであれやこれやと演目についてを話してきたんだったか。


「それで周りが見えなくなっちゃうのよー」

「そういうのをどうにかしてくれって言いたいですね」

「もうほぼ言ってるわよね煌晴」


 確かにそうだけれども。


「最初のシーンの方は、水楓中心でもう演技練習入っちゃってるし。その後についてを戸水さんと話していたのよ」

「皇子が国から逃れて、外れの農村にたどり着くまでのシーン。だったよね、大桑君」

「まぁそうですけど」


 台本にもある通り。皇子が国から逃れているシーンに切り替わる。


「その辺り、大桑君から詳しく!」

「詳しくって言われても……。この辺りのシーンは演劇部の用意した台本に書かれてることでほぼ相違無いんですけど。俺こういうことについては素人なんで、アドバイスもへったくれもないです」

「そうかしらねぇ……」


 そのページを開いて読み返してみる。すっかり弱ってしまった皇子のセリフがいくつかと、心情描写が書かれている。と言ってもこの場面に書かれてることほとんどがそういう描写だ。

 仮案時点ではそういうとこまではほとんど書いてないから、俺にそのへん聞かれても饒舌に語れる程ではない。この場面はこういう流れになって……くらいしかその時は書いてなかったので。


「だいたいここに書いてある通り……ってか、演劇部の方々が解釈してもらった通りなので」

「んんーそっかぁー……。それじゃあこのあとのシーンについてを……」


 グイグイと来るなぁー。


「このシーンは少女との出会いのシーンなので……」

「ならよりインパクトが必要ね。照明係にはビシッと言っとかないと」


 その後は時間の許す限り、この五人で台本をじっくり読み返しながら展開についてを話していた。

 二十から三十分を目安に考えたの物語であったので、じっくり台本を読みながら話していては時間がかかって収まりきらないかと思った。しかし下校時間を迎える頃には、幕引きまで終わっていましたよと。



 下校時間も近くなったので、今日はこれでお開き。

 これ以降も何度か、合同での打ち合わせをするかもしれないとのことだそうだ。


「本日はありがとうございました」

「こちらこそー! 今日は楽しかったでーす!」

「……若菜は、何してたの?」

「高畑さんや大桑君達と、台本読み返しながら打ち合わせしてましたー!」

「まぁ……嘘は言ってませんので」


 その証明にと、槻さんに、色々と書き込みをした台本を手渡した。


「すごいわね。こと細かくびっしりと……」

「うちの部長、こういうことだけは得意なんですから」

「こういうことだけって言わないでよ……。天職って言ってよ」

「ハイハイソーデスネー」

「なんで片言?!」


 このコンビはなんだかんだ、仲が良いのか悪いのか分からない。


「文芸部の方もかけ持ちしてるとの事でしたが、そちらの方は大丈夫ですか? 私達の身勝手なお願いのせいでそちらのご迷惑になっていなければ良いのですが……」

「大丈夫ですよ! そっちの方もバリバリ頑張っちゃってますから! 気にしなくたってオッケーですよ!」


 茅蓮寺祭当日に文芸部との共同で出すことになっている本に、漫研からも戸水さんと莉亜、蕾の三人も漫画を掲載することになっているのだ。


「莉亜と蕾はどうなんだ?」

「超順調って訳じゃないけども、原稿執筆に支障をきたすようなことはないわ」

「私も……大丈夫」

「なら、いいんだが。無理すんなよ……ってなんです戸水さん」


 莉亜と蕾に聞いたら、どういう訳か戸水さんがうるうるした目で俺を見てくる。


「私のことは心配してくれないの大桑君」

「何を求めてるんですかあなたは」

「ねぇねぇほらほら」

「……多分戸水さんならこれくらいは御茶の子さいさいでこなすと思うので、心配はいりませんね」

「その言い方はなんか傷つく!?」


 だってこの人だったらこれくらい余裕でこなしそうだし。即売会の時だって、一日で二十枚近くのスケブを描いていたじゃないですか。


「その……まぁ。そちらも頑張ってください」

「はい、そちらこそ。当日楽しみにしていますね」

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