第115話 打ち合わせから騒がしい

 それでもすぐに蕾は先に行ってしまい、それにつられて薫も行ってしまう。

 莉亜もオロオロしていたものの、結局鏑木さんのいる方に行ってしまい。残ったのは俺と葉月だけ。


「どうするの、お兄ちゃん?」


 クイクイっと子供のように、俺のカッターシャツの裾を引っ張ってくる。


「行こうか……」


 槻さんの言う通り、あれは放置でいいような気がする。だって俺には手が付けられないんですもの。



 結局打ち合わせは、戸水さんと高畑さん無視で始められた。

 それから数分、鏑木さんから妙蓮寺祭で披露する演目の台本を手渡されたところで二人が戻ってきた。


「あ。わかちー戻ってきた」

「酷いわよ私らほっとくなんて」

「だってわかちー、あぁなったら手がつれられないじゃないすか」


 その癖して、こういう放置プレイもありかもしれねぇ! なんて言ってたけども。

 最近はそんな兆候が見られなかったから忘れてしまったが、この人ドMなんだった。ちくしょう思い出したくなかったってのに。それと暴走癖さえなければいい人なんだけどなぁ。


「酷いわよ水楓」

「いつも酷いのは部長のほうです。後先考えずに物事を決めるのだから、みんな苦労してるのよ」


 言っちゃいけないことだろうから心のうちで言うことにする。なんで鏑木さんが部長じゃないんだろう。絶対そっちの方がまとまりがありそうなんだけどな。


「始まってそうそうからすみません。騒がしくて」

「いえいえ。こちらの部長も似たようなものですから」

「似たようなって何よー詩織ー」


 槻さんにそう言わせているのは、紛れもなくあなただということを自覚してください。でないとずっとこのままですよ。

 槻さんが戸水さんのどういうところに惹かれたのかといえば、勧誘当時の戸水さんの熱心さだと思う。しかし今となってはどうなのやら。


「てか待て待て待て」

「なんですか部長」

「見てみればなかなか濃いのが揃ってるじゃないのよあんたら。月見里さんに教皇ヒナギクまでいて……」

「我は預言者ヒナギクであるぞ」

「え? ひなちーこの前は神託者とか言ってませんでしたっけ?」

「ほんとにコロコロ変わるのね……」

「姫奈菊……干場さんはこんな感じですので」


 これだからこの人は面倒なんだよ。もうこういう振る舞いについては干場さんの個性ってことで理解してますから、せめて肩書きは固定してください。堕天使でも大魔姫でもダークフレイムマスターとかでもいいんで。


「桐谷さんもそうだけど……他の一年もなかなかクセ者揃いなようねぇ……」


 薫から始まって、そこから左に流れるように吟味していく高畑さん。

 ジロジロと見られて顔を赤くしてる蕾を他所に、莉亜がこう聞いてくる。


「私達ってそんな風に見られてたの煌晴?」

「知らん。先輩達が校内でもかなり目立ってる存在だから、俺らもそういう風に捉えられてるだけだろ」

「そうなの。それにしてもすごいわねあんた。まさかあんたの考えたやつが採用されるなんてね」

「何度も聞いたそれ」

「私に感謝しなさい。私が色々と手助けした手前もあるんだから」

「そうだったかねぇ……」


 蕾の隣に座ってた葉月の吟味に高畑さんが行こうとしたところで、鏑木さんが彼女の右肩を掴む。


「部長。時間がないのでこのくらいにしてください」

「ちぇー……」


 テーブルに乗り上げる勢いでグイグイと迫っていた高畑さんを、彼女の首根っこ掴んで引き戻す鏑木さん。

 コホンと咳払いしてから鏑木さんは説明を再開した。


「まずはお渡しした台本に目を通していただけると」


 台本を開こうとしたところで放置されてた部長コンビが介入して、話の流れがめっちゃくちゃになっていたのでまだ中身を見てもいなかったのだ。

 ようやく台本を開いて完成されたストーリーを確認する。

 あの時は簡単な文章と莉亜の描いてくれたラフ画だけだったものが、繋がった一本のストーリーに仕上がっている。

 前の会議からまだ数日しか経ってないのに、あれだけの資料とこの前の会議で起こした情報だけで、よくこれだけのものが書けるもんだと感心してしまった。


「凄いですね……これ」

「なんだかんだ、こういうことはうちの部長の専門分野……というか得意技でして」


 演劇部部長、高畑さんの担当は脚本なようで、こればっかりは他の部員もその凄さを認めているんだとかで。彼女の普段の評価については……ここでは触れないこととしよう。


「一部繋ぎや幕引きについては、こちらで話し合って決めさせて貰ったのですがよろしかったでしょうか、大桑煌晴さん?」

「構いません。むしろ俺としてはそのような配慮をしていただけてありがたいくらいです」

「大桑君。この話の原作は君なんだから、もうちょい強気に言っちゃってもいいんだよ? もっとここをどうにかしてくれとか、ここよセリフをーとか」

「いえいえ。俺はこういうの詳しくないですから、意見もへったくれもないですよ。こうしてまとめてくれるなら、ありがたく任せたくもなりますよ」


 戸水さんはそう言うが、俺にはそれほどの度胸も知識もありませんので。こういうことに、にわかはあまり関わっちゃいけないと思うんだ。

 さもなくばとんでもない方向に飛んでいきそうですし。もしくは完成したものが分解される羽目になりそうですから。


「ありがとうございます。では早速ですが、確認という意も兼ねて、演目の練習にお付き合いしていただけると嬉しいのですが」

「はいもちのろんで喜んでー! 私らがお力添えしようじゃあないかー!」

「若菜、うるさい」

「役者って、なんか楽しそーっすよねぇ!」

「湊も。静かになさい」


 打ち合わせも終わり、ここからは演目の練習に入ることになる。今日は漫研との合同練習ということで、向こうの方々も戸水さんや月見里さん程ではないものの、かなり気合いが入っているようだ。

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