俺の周りには、普通じゃないものが溢れている

如月夘月

大桑煌晴は大いに悩む

第1話 理解したくなかった

 『普通』って言葉は、一見シンプルなようで、とても奥の深い言葉だと思う。一体なんなんだろうかと、時々そんなことを考えてしまうんだ。


 将来は普通の人間になりたいだの、普通の生活がしたいだの。普通が一番だってよく言うよ。ならそれってどんなもんなのって思うわけだ。その『普通』っていうのはそもそもどんなもんなのだろうか、と。

 誰かによってはっきりとした基準が決められている訳では無い。ならばそれを決めるのは、果たして誰なのだろうかと。

 自分自身か、それとも周りの人間か。時と場合によっては、その裁量は変わってくるものだとも言えよう。だからこそ奥の深い言葉だと俺は思う。



 パソコンやスマホの検索ボックスに『普通』と打ち込んでみるなり、自分の持ってるスマホに向かって「普通ってどういうこと?」とでも言ってみるなりすれば検索結果として、最初にはこんな文言が出てくるであろう。


 いつ、どこにでもあるような、ありふれたものであること。

 他と比べ特に異なる性質も持たないこと。広く通用するようなこと。


 つまり……そういうことさ。気取ってそう言ってはみたが、正直に言うならば、俺にはそんなものよくわからない。ざっくりしすぎているってか、あまりに広大と言うか。俺にはちんぷんかんぷんなこって。



 普通の人ってなんだろう。芸能人やアスリートみたいに有名でもなくて、特に目立つことなく毎日を生きている人のことなんだろうか。

 普通の生活ってなんだろう。何不自由なく暮らせているというのなら、それで良いということなのだろうか。貧しいわけでもなく、富に恵まれすぎているというのもまた違う。世間一般に言う庶民というもののことなのだろうか。


 普通という言葉は、簡単に口に出せる。でもしかしだ。ならその普通とはなんなんだって聞かれてみたら、答えるのに難しく悩んでしまう。

 自分では普通だと思っていても、他者から見ればそうでなかったりもするわけで。またその逆も然り。自分や他者はその人の振る舞いをおかしいと思っていても、その人にとってはそれが普通のことだったりと。

 万人に通じる常識でないのだから、はっきりとした答えが出せないんだ。だからこそ面白い。





 ところで思うんだが……。どうして俺は急に哲学なんかを語り出したのだろうか。

 とうとう頭がおかしくなったのだろうか。朝起きてみて、よくわからんことになっている俺自身が少しでも冷静になりたかったからか。それとも今の状況を否定したかったからか。


 考え事の中で普通と言いすぎて、それを紙にでも書きだせば、間違いなくゲシュタルト崩壊を起こしてしまいそうだ。

 すぐにでも取り乱しかねない自信が、今の俺にはある。そもそも、そんな状況で至極まともな高校生であれば、哲学なんかを語っていること自体が既におかしいのかもしれない。なんにしても俺は今、冷静ではいられないであろう。



 自分らしくもない話をしてしまったが、いい加減に現実に戻ることとしよう。無い頭でらしくないことを考えて現実逃避でもしようとしたところで、ますます俺の頭が痛くなるだけだ。そんなもん、余計に迷宮を複雑にさせるだけのこと。

 この俺、大桑煌晴おおくわこうせいは普通の高校生だ。まぁ厳密に言うならまだ高校には入学しておらず、堂々と高校生と宣言できるのは来月の四月からにはなるが。まぁそんな些細なことは、今はどうでもよくてだ。

 どこにでもいる、ありふれた一人の人間だ。誇れるような類稀なる特別な才能も、ましてや超常現象を起こせる異能力なんかも持ち合わせちゃいない。そういう普通の人間だ。



 そんな俺が今、よくわからん状況に瀕している。朝、目が覚めてみればこんなことになっていたんだ。だがしかし、はっきりとわかることは一つだけある。

 この状況は誰がどう見ても、どう考えたとしても普通じゃあない。そのはずだ、そう思って欲しいと切に願う。こんな状況に陥ること自体が、まず異常なことであろう。


 ならば今、何が起こっているのか。ここはとりあえず落ち着いて、5W1Hをもって状況分析、整理しようじゃあないか。


 この場所には俺と、付き合いの長い幼馴染。二人の人物が居る。でもってその幼馴染の少女は、ベットの上で横になっている俺から少し離れたところで座っている。何をしているのかはわからんが、今は俺に対して背中を向けているようだ。

 土曜日の、スマホのアラームが鳴って目が覚めたから時間帯はおそらく朝の七時過ぎ。現場は自宅の俺の部屋でのこと。

 なんでこんなことになっているのか……。起きたらいきなりこうなっていたんだ。理由や経緯など、現時点ではわかったものでは無い。

 Hについては……今回ははっきりとした説明ができないので割愛させてもらおう。


 でもってこれが一番重要なところ、最後に一つだけ残ったW。今何が起こっているのかなんだが……。








 ベットの上に横になった状態で、手足をおもちゃの手錠によって拘束されています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る