ダメ女の話

「スファニ様、あの……浮気した人がこちらに来ています」


気を失いそうな状況で、侍女は追討ちをかける様に言ってきた。


見ると、先に男を屋敷に向かわせて、浮気した女はのこのこと私の馬車へ歩いて来た。


「嘘、でしょ? ……あの女は一体、何をしに来たのよ」


女はトントンと馬車の扉を叩き、何か言いたげな表情でこちらを見ている。


「私の夫と浮気しているのに、随分と堂々としてるじゃない」


「それはこっちの台詞よ。夫が浮気しに行ってるのに、平気な顔して送り出してるのはそっちでしょ?」


扉を開けて話した瞬間、彼女の言葉に腸が煮えたぎりそうになる。


「私は何も知らなかったのよ。夫が仕事と嘘を言って浮気をした挙句……子供まで作っていたなんて」


人々が行きかう道端で、声を荒げるのはみっともないから我慢してるけど、思わず叫びたく気分。


「へぇ、そうなの。別に貴女の事情になんか興味ないけど、浮気の事は黙っていて頂戴ね」


「えっ……?」


浮気相手の戯言に、怒りを通り越して呆れ果ててしまった。


「だって、浮気がばれたら困るのは貴女もでしょう? 既に私とスリムトの間には子供もいるの。その事がばれたら、貴女の家名に傷がつくわよ」


「……」


「黙っているという事は、納得してくれたという事でいいわよね。それと、子供の事を隠して離婚するのも無しよ」


「……どうしてよ」


「そんな事をされたら私が困るからよ。今から会いに行く貴族だって、顔はいいけど貧乏だからね。ほんと貴女には感謝してるわぁ。既に無くなった借金の為に、わざわざお金を送ってくるんだもの。あっ、ごめんごめん、貴女の父親がだったわね」


「……言いたい事はそれだけ?」


「まぁ、そんな所ね。後は貴女から父親に、スリムトへもっとお金を送る様に伝えてくれないかしら? あんなせまっ苦しく貧乏くさい屋敷じゃ満足できないのよね。それじゃ」


浮気してきた女は私の返事を待たず、男の屋敷へ向かって行った。


「奥様、心中お察しします。ですが……どうか思いとどまって下さい」


侍女はそう言いながら、私の手を優しく触っていた。


気付けば私は手を震わせて、真っ赤になる程に握り締めている。


「安心して、殺したりなんかしないわよ。だけど、私がこのまま黙って彼女の行為を見過ごしたりなんかしないわ。覚悟してなさい」

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