大人の階段

『…… ユウトくん。私、アナタのことが好きよ。 キスしよっか?』

 そう言って瞳を閉じるリラさん。


 …… わかってます。コレが夢である事を。

アジトに辿り着いた途端に僕は意識を失い、倒れ込んでしまったのです。

 きっとそのまま、この素敵なディスティニーなランド夢の国に来ているのでしょう。


 これは頑張った僕への、きっと神様のご褒美です…… 夢なら、少しくらいいいよね? 

『リラさん、僕も…』

 僕は、リラさんに顔を近づけます。

 心臓の鼓動は激しくなります。

 リラさんの顔が、目前に迫ります。

 目の前がチカチカしてきます。


 ––– その時!! リラさんは『カッ』と、目を見開き、僕の顔を舐め回してきました!!

 何たる激しい愛情表現! ちょっと思っていたのと違うけど、僕は今とっても幸せです!!

 ああっ!! リラさんの舌が僕の口に!

あああああああ!ふぅ……

 

 ––– …ウト。

      ––– ユウト!!


「………我が眠りをじゃまするのは……誰だぁあ?!」

 幸せな夢の国から、例に漏れず僕を覚醒させたのは邪神カアクだった。


「なんでだぁ! 夢の中だけでも、大人の階段に足を掛けさせてくれてもいいだろぅ?」

「…いや大人の階段どころか、ハム人外との蜜月で怪談を駆け上がる姿を見ておれんかったんや。…口の中も舐め回されとったで?」


 ––– くぅっ!! 僕の記念すべき異性との初キッスは、犬ですか! ハムは僕を心配してくれたんだよね? でも、僕の心肺は停止寸前ですよ?!

「……なんてね。ハム、リラさん、ツカサ先輩。助けてくれて有難うございました」


「何を言っているんだい? 俺達は仲間じゃないか… 俺は、あまり役に立てなくて悔しいよ」…ツカサ先輩の、はにかんだ笑顔と、「本当にユウトを見ていると、寿命が縮みっぱなしよ!」と、腕を組むリラさんの姿に僕は安堵を覚えた。


「あれ? そういえばネムさんの姿が見えませんが……」

 僕の疑問にカアクが答えるに、彼女の力は残り少なく、『節電』が必要との事だった。

「まあ、あんまり姿を現せんって事や。別嬪さんに会えんで残念やなぁ〜 ユウト」

 …カアクの冗談はさておき、リラさんの視線が怖い。いや、痛い。 ––– 何故か僕の脚を踏んでるんだもん。


「ところで、カアクちゃん。モノガタリの言ってた事だけど……」

 僕の問いにカアクは頷くと、

「…真実や。この世界は物語の中の世界。せやけど、ユウトらが自我を持ち観測された時点で、ここは紛れもない現実になったんや」と、天井を見上げた。

「それにな…… 観測者の世界かて、なんらかの作品の中の世界かも知れんのや。…並行世界、異世界、呼び方は色々あるけど始まりの世界なんて誰も見つけられんわ」

 そして、ふふっと笑う。


「ねえ、カアク? モノガタリが何か落としてたけど、あれは何?」

 リラの質問は、僕も聞きたい内容だった。カアクは黒い結晶を取り出すと、僕達を見渡し、「これはな、『媒体』や……」と、語り出した。

 カアク達 神々は観測者の欲求を満たす為の存在だと云う。

「せやけど、モノガタリは世界を破壊する為に、その欲求を暴走させとる。……欲求の到達点、『七つの大罪』それが『ネスト』の正体なんや」

「じゃあ、IVEイヴェの正体は?」

「七つの大罪から生まれし者……

Introducing a Virus that will End the world 』…つまり、終焉を引き起こす為のウイルスや。それに対抗する手段、神への叛逆、それがあんたらの欲求の力…『ギルティ』って訳なんよ」


「…… という事は、ユウト君の力の源は、性欲……」

 ––– ツカサ先輩!! やめて!! お願い!!

 そんな切望の中、カアクは微笑を浮かべ、

「ツカサとリラは純粋な社会的欲求と承認欲求やな。でも、巣を破壊するには相反する力が必要や。そこでユウトのギルティ、性欲を含めて生理欲求を『諦めていた』者の力が必要やった訳や、せやから巣はユウトしか破壊出来ひんのや」


 ––– 僕、惨めな奴だったんですね?

カアクちゃん、フォローになってるのか分かりませんが、助かりました。


「ほんで、リラの質問に戻るけど、この黒い結晶…… ウチの作ったメダルと同じ物質なんやけど… ウチらは、この物質と人間を介してこの世界に干渉しとる。モノガタリの使ったあの力…きっとコレが封印されてた中で、奥の手やったに違い無いわ。これで当分、モノガタリの封印は……」


 カアクが握り拳を突き出したその時、一陣の風が吹き抜けたかと思うと、シブとリスタが姿を現した。

 シブの表情からも、あまり良いニュースでは無い事は見てとれた。

「みんな、モノガタリの封印が…もう長く保たないわ。封印結晶に亀裂が入りはじめたの、急いで残りの『巣』を破壊しないと…」


 ––– 風雲急を告げる。

僕達には、更なる大きな試練が待ち構えているらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る