『ほげぇ!ほげぇ!』

…… あのう? リラさん?

前話から引き続き、青い銃ナロゥを壁に打ち付けている所、お邪魔しますが…


「何?! ユウト。文句ある?」

「文句はありませんが、ナロゥに試練を与えてモンク僧侶にするつもりですか?」

 

 僕の言葉に『わおんっ!』と、吠えるハム。途端に僕達を包む防壁内が温かな空気で満たされた。ナイスジョークに喜んでくれたのかな?


 そんなナロゥの様子に真紅の刃カアクはケタケタと笑っていたが、『ふぅ、笑わせてもろたわ』の言葉に続き真面目な声で呟いた。

『リラちゃん、覚悟は出来てるか? 親の欲望を断ち切る心構えが…』

 それに深く頷くリラは、迷いの無い瞳をしていた。


「……おやぁ? ちょっと、カアクちゃん?」

『なんや?シリアスキラー真面目な話壊しのユウト。『親』と『おやぁ』なんて寒すぎるわ。大阪湾に沈めたろかワレ?』

「いや、違うんだカアクちゃん。腕が… 血が止まって動く様になってるんだよ。疲労も回復しているし、これはカアクちゃんの力かい?」

 カアクの『え?!』の言葉からも、どうやら彼女の力ではないらしい。これは、一体……?

 その僕の疑問に答えたのは、リスタだった。

『ユウトよ。ハムのギルティが変化したんじゃ! 今までは『自分の身を守りたい』という望みだったが、今は『ユウト達を助けたい』になっておる。 その想いが、お主の傷を癒したのじゃ!』

 その言葉に千切れんばかりに尻尾を振るハムの姿があった。

 ……ああ、ハムぅ! 邪神とは違って、なんてお利口さんなんだ!! いっぱいヨシヨシしてあげるよぉ。

『なんか言ったか?ユウトワレ?』

 カアクのお告げを華麗にスルーし、僕は右手に刃を持ち直した。途端に全身に力が漲って来るのを感じた。

「リラさん、僕が君の呪縛を断ち切るよ。任せてくれるよね?」

 そんな僕の問いに、リラは目を背けずに言った。

「ユウト。私の未来をあなたに任せるわ」

その表情は照れた様に赤みががっていた。


 ……リラさん、熱あるのかな?

 そう思った刹那、ハムの尻尾が動きを止め、『アホンッ』と、小さく吠えた。


 僕とリラは共に肩を並べ、階段を駆け上がる。襲いくるイヴェや擬態を薙ぎ倒し。

「この上が、社長室よ!!ユウト、行くわよっ!」

 非常階段の扉を開けフロアに出ると、やはりと云うべきか夥しい擬態アリイヴェが待ち構えていた。

 正面には『社長室』とプレートが掲げられた重厚な扉が見える。

「…あそこに、『巣』があるんだね?」

『せや。行くでっ、ユウト!』


 僕は、擬態イヴェの群れに飛び込み、刃を振り抜いた。

 閃光の如く走った刃はイヴェの頭を捉え……『ガキンッ』……ん?

「うわぁああ!!倒せねぇええ!!」

ちょっと待って!? 皆んながパワーアップする流れだったよね? ねえ? 僕は?!


 次の瞬間、響く銃声と共にイヴェの大群は消滅していた。そしてリラの一言。

「ユウト!しっかりしてよね!」

 ああ、さっき大見栄張ったのに恥ずかしいッ! 僕の扱いっ、どうなってるの?!

『ユウト、カッコ悪ぅ』

カアクの心無い言葉に、疑問をぶつけては見るものの『せやから、は罪…望みの力や言うたやろ?』と、まともに取り合ってくれなかった。

『それに……ユウトの罪は……』

 ふと、呟いたカアクの消え入りそうな声に、僕は、これ以上の詮索はよそうと思った。


「ユウト。準備はいい?扉を開けるわよ?!」

 金メッキされたドアノブに手を掛けたリラは、僕に視線を送る。

 それに、頷くと同時に扉は開かれた。

続いて目に映った光景に、僕は無意識に口が動いていた。

「なんだ…こいつは……」


 そこには部屋を覆い尽くす程の大きな女王蟻が待ち構えていたのだ。


    次回! 『罪』

         お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!

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