試練の代償
クゥは『これからは一緒に戦おうね』と言い残すと姿が消えた。
そのあと、ツカサ先輩はヨロヨロと立ち上がると、「ユウト君、俺は自分が世界で一番不幸だと思っていた。だけど、君の運命はそれを凌駕している。俺は、自分に甘えていた…本当に済まない」と、僕の肩に手を掛けた。
「先輩…は、強い人です…よ…… 」
僕の舌も次第に慣れてきたのか、ようやく話せるようになり、ここエデンでの出来事を皆んなに黙っていて欲しいと告げると、先輩は「君ばかりに…」と、苦虫を噛んだようにうめきながらも、首を縦に振ってくれた。
僕は、黒い結晶に包まれたモノガタリを見据えると、心に誓う。
お前の思い通りにはさせない…この世界は必ず、救うと。
「ホンマ、突っ走りよって、アブないデカも真っ青やで」
そんなにアブナイでっか? って……?
背後からの声に振り返ると、そこにはカアクとナロゥの姿があった。
カアクは『よう頑張ったな』と、僕に微笑みかける。その瞳には僕の決心を喜ぶように、しかし悲しみの光が宿っていた。
「ほんじゃあ、皆んなで帰ろうか?」
ツカサ先輩を許す様な、優しいカアクの言葉だったが、対してツカサ先輩が口にした内容に僕は息を呑む事となった。
「皆んな…済まなかった。だけど…これから俺は、皆んなと戦えない様だ…」
先輩の手の中には砕け散った白いメダルの破片があったのだ。
•
•
•
その後、僕達はカアク達の作ったゲートでダフニの館の地下室に戻ったが、そこで目にした光景は見るに耐えないものだった。
放射線状に並べられた石のベットの上には数人が仰向けに横たわり、その中には今日、出会った少女の姿もあったのだか…
彼女のそばには剥げ落ちた肉の塊が残っており、姿はその名の通り脱皮していたのだ。
その肉片が放つ異臭は、この地下室に充満する臭いの元なのだろう。
「ユウト、あなたって!!本当にっ!!」
「あほんっ!!」
すぐさま僕に駆け寄って来たリラとハムの罵倒が飛んでくるが、それほどに心配を掛けてしまったのだろう。
僕の『ごめん…ね』の言葉に両手で顔を覆うリラの姿に、僕の身勝手を反省した。
僕達はチームなんだから……って。
「カアクちゃん、ここの人達は…どうするんだい?」
僕が『巣』を破壊した事で、アルマの暴走は止まった事だろう。しかし、ここに残された人々はどうなるのだろう?
その疑問にカアクは「ウチらは神様やで?手は打っといたさかい大丈夫や!」と、久々に邪神の様な笑みを浮かべた。
だが、それが僕には安堵をもたらすのだから不思議なものだ。
カアクの隣に立つナロゥが言うには、モノガタリとは異質の『創造主』にこの状況を書き換えて貰うらしい。
僕に意味は全くわからなかったが、ここの人達は以前の記憶が戻るという。
そんな中、気が付いたのか身を起こした少女は「ここは……わたし、記憶が…残ってる!?」と驚きの表情を浮かべていた。
「あのっ!ちょっと!!服!!!」
そして、僕は彼女の一糸纏わぬ姿に驚きの声を上げていた。
こうして、僕達は翌朝ダフニの館を後にした。
ツカサ先輩がギルティを使えなくなってしまった為に、呼んだタクシーの後部座席で揺られながら僕は館を振り返る。
苦しむ者を生み出す社会と、それを救う為に奔走したアルマ…… 本当の悪とはなんだろうと。
僕は…自分を犠牲にしてでも、この世界を救いたいと願った。
それは正しい事だと信じている。
しかし、それは悪では無いと言い切れるのか?
「浮かない顔ね? ツカサさんの件の他に、何か私に隠してるでしょう?」不意に、隣のリラが僕を疑いの目で覗き込んでくる仕草に焦りを感じつつ、「そ、そんな事ないよ。ただ…僕が間違っていないか心配になっただけ…だよ」と、声を捻り出した。
「ふ〜ん? まあ、いいわ。今回は色々嫌な思いもしたし、アジトに着いたら豪勢にパーっとやりましょうね」
……ツカサさんの
リラはその言葉を飲み込んだはずだ。
状況は変わりゆく……
その中で僕達は足掻き続けるのだろう。
【次回予告】
カアク様、仰る通りダフニの館の人々に過去の記憶を戻しました。目が覚めたアルマは、ここを社会復帰支援の施設として続けていくみたいですね。
ええ、勿論、遺伝子改造の記憶は消去されて居ます。
そうそう、ツカサのメダルは復元出来ても彼の『罪』社会的欲求が消えているので、ギルティーの発動は出来ないみたいですよ。
これは、どうにもなりません。
……はい、次の『巣』の位置ですか?
それはですね、皆さんがご存知の…人物に関係があります。
はい、そうです。次の『
そう、彼女のお父様です。
次回!『闇の鍋』
お楽しみに!!
––– 僕の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます