三度目の真実

「ゆうとくん、何とかなったね」

いつの間にか右手のガントレットは赤い結晶に戻り、僕の手の中で握られていた。

 隣に姿を現したクゥは、僕の肩に手を添えながら真紅の瞳を細めると、「カアク達もに来るだろうけど、ゆうとくんにはこれまでの事を伝えておくね」と、眩ゆい空を仰いだ。

「始まりは…姉ちゃんからだったんだ……」

 そして、ゆっくりとクゥは話しはじめた。


 この世界を構築する5人の神。

カアク、ナロゥ、シブ、リスタと、モノガタリ……

 神々は平和の為に世界を管理していたが、ある時、モノガタリが『このままだと腐敗した未来になる』と、声をあげたらしい。

 そもそも、この世界は神々から『ライトノベル』と呼ばれており、人の快楽や欲望を色濃く反映された世界らしく、その未来にモノガタリは警鐘を鳴らしたのだ。

「そこで、モノガタリはこの世界を一旦滅ぼそうと考えたんだ…… だから、カアク達はそれを防ぐためにモノガタリを封印する事にしたんだよ」

 その為に…と続けるクゥの瞳に哀しみの色が宿るが、彼は一呼吸ついたあとに口を開いた。

 神同士は争えない中で、カアク達はモノガタリ封印の為、人間に協力を仰いだのだと…

 方法は異世界転生。クゥ達はこの世界の住人では無く、他の世界から転生してきたのだという。

 そして、初めにこの世界に来たのは、クゥの姉『ネム』という少女だった。

 彼女は人間の欲求を力に変え、チートともいえる強さと、具現化された武器でモノガタリと戦った。

 だがしかし、モノガタリの能力『創造』の前では、ネムといえど太刀打ちできなかったらしい。

 

 そして、その闘いでネムは命を落とす事となったが、ここ『エデン』にて、モノガタリの脚を封印する事が出来たらしい。

「だから、ボクは姉ちゃんの敵討ちの為に、カアクにお願いしたんだ。モノガタリを完全に封印したいって」

 その願いはカアクに受け入れられた。

そして、クゥはこの世界に転生しモノガタリを封印する事に成功するも、力を使い切ったクゥはモノガタリが最後に放った光の矢で射抜かれ、彼は姉と同じように息絶えたという。

「……でも、不十分だったみたいだね」

 クゥの表情がかげり、モノガタリが封印を破り復活しようとしていると、僕の瞳を直視する。

「本当はボクで終わらせるべきだったのに、ごめんね…ゆうとくん」

 …世界の恩人なんだから謝る必要はないよ。

 それを言葉には出来なかったが、クゥは嬉しそうに目を細めた。

「ボクが戦えたのは『欲求』の力のおかげだったんだ。それが尽きるって事はつまり、魂が無くなると同義なんだよ。だから、カアク達は今回モノガタリを消し去る為に…その戦いの為に欲望を分けたんだよ」

 ––– じゃあ、始めからそうしておけば良かったじゃないか!

 またしても僕の気持ちが伝わったかのように「ゆうとくんは優しいんだね」と、クゥが微笑む。

「神サマはね…人の欲求なんて理解出来ないのさ。でも、カアクはそれを知ろうとしたんだよ。モノガタリを為に、『堕神』してでもね…」

 クゥの話は衝撃だった。カアクは、僕達のメダルを作るために人間界の食べ物を口にしたのだという。つまり、人の感情を得る代わりに神では無くなり、人と同じ様に寿命が設定され『死』の概念を得てしまったのだ。

「カアクが他の神と違って、人間っぽい子供の姿だと感じた事はないかい? それに、君が唯一『物語』を破壊できるのも、カアクが神から外れた存在になった為なんだ。つまり、人である君との共鳴……。 思い当たるだろう?」

 ––– なんだよ、カアクの奴。本当に慈愛の女神じゃないかよ……

「そして、カアクはモノガタリを消し去った後は消える覚悟もしている。もう、彼女に居場所は無いからね…… だから、守って欲しい。カアクとこの世界を、君に」

 …僕の世界は、知らぬうちにクゥ達に守られていたんだ。

 彼らの犠牲を無駄にしない為にも、僕がモノガタリを終わらせなければならない。

 その気持ちと共に、僕は深く頷いた。


       【次回予告】

 大きな試練を乗り越えた私、いや、ユウト達。

 残す『ネスト』も、あと三つ!

物語も遂に後半戦!!この世界を頼むぞ!

『みんな!!』


    次回!『試練の代償』

            お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!

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