船酔い

 ––– おお、カミよ…

     あなたは僕に試練を与えた。

      カミよ…

 それは余りにも無慈悲で残酷な現実。

  僕は無力と共に天を仰ぎ、い願う。


カミをくれぇぇええ!!」

新幹線車内のトイレに響く魂の咆哮!

それは雷鳴の如き僕の願い!

 だって、大きな用を足した後に必須とされる、本来あるべきモノトイレットペーパーが無いんだよ?


 …ところで、新幹線のトイレを流す時、怖く無いですか?

 あの『ゴッ!』って、最後に吸い込む時。

ああ、怖い怖い。現実逃避している僕の思考が怖い!


そんな僕に神の声が、福音が舞い降りた。 

『お客様? 如何されましたか?』

僕はこの時、カミを願った。


「えらく長いトイレだったね。大丈夫かい?」ツカサ先輩は優しい笑顔を向けてくれる。

「すいません、何だか緊張しちゃって…お腹が痛かったのですが、問題はその先にありました。でも、もう大丈夫です」


 後ろの席に鎮座していたカアクは、背もたれ越しに、「昨日、うまいもん食べて腹壊したんちゃうか?」と、ニヤついた顔を覗かせた。

「うん、困った時に助けてくれない邪神カアク様、お気遣い無く…ところで、神様は乗車賃を払わなくていいんですか?」


「神様に金せびるって、バチ当たるで?それにウチらは保有者アンタらにしか見えんから迷惑は掛からんやろ?」

 偉そうに腕を組むカアクに、シブは呆れた様子で首を振る。

「カアクは、その汚い言葉を何とかしなさい。神の威厳が感じられないわ」

 …こらこら、シブさん。車内で邪神戦争ラグナロク勃発させないで下さいね。


 そんな中、車窓に流れる風景を一人眺めていたリラは、視線はそのままにナロゥに話しかけた。

「尾染島って、海が綺麗な…自然豊かな小さな島だったのよ。なのに、三谷マテリアルの工場が出来てから『汚染島』なんて呼ばれる様になって、とんだ皮肉よね」

 彼女の向かいで足を組むナロゥは「人間の利便性を求めた代償だな。住民には金で解決しているみたいだが、自然は金で解決しないからな」と、苦虫を噛み潰したように答えた。


 リラは細い溜息を漏らし、車窓を眺め続けている。きっと大企業にしか分からない悩みもあるのだろう。

「リラさん、イヴェの巣を破壊すれば改善に向かうと思うよ。頑張ろうね」

 気休め程度かも知れないが、僕は彼女に声をかける。 が……


「え、ええ、そっ、そうね」

明らかに動揺しておられるご様子。

「リラさん?僕、何か変な事言ったかな?」

そういえば、今朝から僕に余所余所よそよそしい態度だった。

 彼女は席を立つと、僕を皆んなから遠ざけ小声で囁いた。

「ユウト?あの…その、昨晩の…年頃の男性だから仕方無いとは思うけど…ああいう事は…どこかで…してくれない?」

 ……昨日の晩? ああ、身体を鍛える為に筋トレを始めたけど…声が漏れて迷惑だったかな?

「リラさん? 昨晩、うるさかったかな?これからは外でやるよ」

 何故でしょう? 彼女は『駄目よ!変態!!』と、怒ります。

 僕は「筋トレを外でやったら変態なんですか?」と、返した途端、彼女は『えっ!?』と驚き、顔を真っ赤にしました。

 ……何か、話が噛み合っていない。

何か…ナニか…まさか!? とんでもない勘違いされてました!?


 僕は気付かないフリをして、その場をそっと離れます。

 席に着くと、向かいのツカサ先輩が笑いを堪えるのに必死の様子で…

 僕の…扱いって……酷くないですか?

 暫くして目的の駅に到着し、改札を抜けた僕達の目前には大海原が広がっていた。

 波も無く穏やかな海面は、太陽の欠片が踊る宝石箱の様に煌めいている。


「ユウト!乗るのはフェリーよ!」

弾む声のリラさん。よかった、誤解は解けた様だ。


 フェリーに向かい歩く中、リラの隣で額に手を翳すナロゥは、耳を疑う言葉を口にした。

「リラ、船酔いは大丈夫か? 何なら俺に酔ってくれてもいいんだぜ?」

 ……何だ?この邪神は。僕は船酔いしないけど、その言葉で酩酊めいていしそうだよ!? 


「何だ?あいつ!?ユウトくん、負けるなよ」

 …よかった。腹立たしげに呟くツカサ先輩は僕の味方だった。

 でも、何に『負けるな』なのでしょう?


 と、まあ色々と有りましたが、僕達は無事フェリーに乗り込んだ。

 甲板に出ると強い海風が身体に吹き付け、視界には徐々に近づく島の姿…

 目的地である『尾染島』が僕達に迫っていた。


       【次回予告】

 二つ目の『巣』があると言う『尾染島』

そういえば、武神リスタと4人目の仲間が合流するんだったね!

 とっても強くて問題児という前評判だけど…

    次回!『シヴァの咆哮』

            お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!

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