邂逅

「残り300メートル!必ず間に合ってみせるっ!!」

 僕こと『仲間ナカマ 勇人ユウト』は、息も絶え絶えになりながら走っていた。

 運動不足のせいか心臓は異常なまでの鼓動と共に血液を全身に巡らせ、必要な酸素を取り込むための肺は呼吸による交換作業に悲鳴をあげていた。

 額を伝う汗が目に入り、ボヤける視界の先にヤツらの勝ち誇る表情が浮かぶが…


「今日こそっ!必ずっ!!」

僕は目的の場所に駆け込んだ。

しかし、無常にも敗者となった事実を告げるべく頭に響く声が…


『本日のタイムサービス!玉子1パック59円は只今を持ちまして完売しました!皆様有難うございます!』


 ……バ…バカな!?

僕は放送部に根回しまでして、終礼のチャイムを3分早めて貰ったのに!

 それでも…駄目なのか! まさか…店長の陰湿な謀略、略して陰謀か!?


 そんな僕を横目に、玉子パックを買い物カゴに入れた主婦ヤツらが勝ち誇った様にすり抜けてゆく。

 しかしその時見えた、一筋の光明こうみょうを僕は見逃さなかった。

「ちょっと、奥さん!お一人様1パックまでですよね!?」

 そう、彼女のカゴには何と3パックも入っているではないか!?

 

あらあらククク…あなた買えなかったのね敗者が今更何を語る?……これはね……教えてやろう…

 人はここまで残忍な表情が出来るのだろうか。

彼女は勝利を確信した者のみに許される伝説の『ドヤ顔』で言葉を続けた。


「この子達も合わせて3人なのよ」

その言葉で彼女の背中から顔を覗かした…

あら?可愛い双子ちゃん?その姿は正にケルベロスっ


バブぅ…バカめ…

アゥあうぅ!負け犬の遠吠えか!

 そのたたずまい…まさに外道っ!!

彼女達は『残念だったわね』という言葉を残し去っていった。


……完敗だ…完膚かんぷなきまでに…

僕はその場でひざから崩れ落ちた。

 これで決定した。今週の主食は、『パンの耳に塩胡椒を添えて』…だ。


「ふっ、これでは痛いベジタリアン…

略してイタリアンじゃあないか…ああ、パスタ食いてぇ」


 高校から無理に親元を離れ、一人暮らしを望んだむくいだろうか?

 だが、自分の決めた事だ!

一切のしがらみを捨て、趣味に生きるんだ!

今更…後戻りは出来ない!2次元に囲まれて暮らすんだぁ!!!

 しかし…何だろう…

妙な視線をさっきから感じるのだが…

こんな所にしゃがみ込んでいれば当然か?


 そんな意味のない自己分析に浸る中、背後から、「ふふふっ…よくぞ見破った!選ばれし者よ!」という少女の声が。

 僕は驚きと共に振り返ると、心の中で呟いた。

 …はて?両手を腰にあてた、なんだか偉そうな少女が…知り合いでは無いな?、と。


あがめよ、たたえよ、こうべを垂れよ!我こそは玄界神…カアクやでぇ!」


 頭が限界のカアクちゃん?…はあ…若いのに気の毒な事で…

「お嬢ちゃん、ママの所に帰りな。お兄さんは挫折ざせつで忙しいんだ」

 そう言った途端のことでした…

まあ、何と云う事でしょう!カークちゃんが『子供ちゃうわ!』と、激おこブンブンと暴れ始めたのです。


 周りの客は見えていないかの様に華麗にスルーを決め込んでいるね…

 世も末だね。ここはお兄さんがビシッと…


『バキッ!!』彼女に警戒も無く近寄った僕も悪いですが、カアクの拳が僕の頬に触れました。

 その重みたるや、一瞬で僕の意識を刈り取るには充分すぎる破壊力でした。

 …親にも殴られた事が無かったのに……



そして…


………い…


 お……い


「おい!いつまで寝てんのや!?この腑抜ふぬけが!」


 目覚めた僕が耳にしたのは、彼女の気遣いどころか罵倒。

 この日を境に僕の日常は非常へ…


運命の歯車は回り始めたんだ。


       【次回予告】

 突如としてユウトの目の前に現れた、自称神を名乗るカアクという少女!

 彼女はユウトに告げる…

この世界を救え!と…

  次回!『投げてよこされた使命』

            お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!

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