また逢えたときには
ナジ
1
――気づいた頃には、もう手遅れだった。
私の人生でこの言葉は当たり前になっている。この前のスーパーのセールだって、ヴァイオリニストになりたいと思った時だって、なんだって遅いのだ。とりわけ後悔したのは、育てていたサボテンを枯らしてしまったことだった。あんなに別れを惜しんだことは、これまでもこれからもないと思っている。自分で枯らしたくせに。
サボテンは、日当たりの良い部屋の窓際に置いていた。定期的な水やりのため、目に留まりやすいところに置いたはずだった。しかし、数週間も経てば慣れてしまうし、目に留まった時にはサボテンだから大丈夫と思ってしまっていた。それがダメだった。ホームセンターの多肉植物コーナーの片隅に置かれたサボテンを私は放っておけなかった。小ぶりで丸っこくて、トゲも柔らかい可愛らしいサボテン。世界に取り残されたサボテン。一人では生きられないサボテン。
――ピピピッ、ピピピッ、
私の一日は、目覚まし時計を止めることから始まる。
――ピピピッ、ピピッ、
彼氏からのメッセージを返した後、朝日を全身いっぱいに浴びる。それから、身支度をして仕事に出かける。毎日同じ時間に起きて、たまに寄り道して帰る。
「西染さん、このミス何回目?」
仕事でミスを連発してもへこたれない。私が気づいた頃にはもう手遅れだから、楽観的に生きた方が得なのだ。さっき話したサボテンを除いては……
仕事終わりの帰り道、ぼんやり高校時代のことを思い出していた。主に思い出すことといえば、友達と旅行に行ったことや当時の人間関係だった。当たり障りのない高校生活だったと思うし、それなりに楽しかった。その中で一際輝いていた人がいた。私はたまにその人のことを思い出しては、ニヤニヤする。誰にも見られたくない時間だ。
私はその人をあゆくんと呼んでいた。あゆくんは、他校の男の子で友達の紹介で出会った。私より30㎝も背が高く、黒縁メガネがよく似合う男の子だった。初対面なのに、それなりに会話も続いた。放課後には何度もデートに出かけたし、手を繋いだことだってある。ただ、それだけ。全く煮え切らない関係だった。高校生にありがちで幼稚な恋愛経験を何度も思い出してはニヤける。きっと、高校生の私は、そんな未来ちっとも想像していなかっただろう。想像していたとすれば、あゆくんとの未来だった。何度もデートをして、告白され、結婚を夢見ちゃって。私の頭の中は、完全にお花畑だった。
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