14:暗殺者のお仕事
「簡単な話、明日ザミノの花を奪取し仕事を終わらせる。以上、良い子は寝ろ」
「おい‼︎」
雑過ぎる作戦会議の始まりと終わりにタオは思わず席を立ち上がる。流石に不満があるのか依頼主の魔女にまで無表情に過ぎる顔を向けられ、渋々とアバカスは中身を話した。
「理由は単純だ、ザミノの花の開花期間の限界も近かきゃ、そもそも時間を掛けた段階で本来の仕事だけじゃなく俺達が詰む」
「それはなぜ?」
「それはですねマタドール卿、俺達が明日ぐらいしか手を貸せないと言った時にキキララは渋ったでしょう? それしか手を借りられないから渋ったんじゃない。間違いなく後詰めがいる。キキララは援軍が到着するまでの時間を安全に確保したいんですよ」
キキララの話を鵜呑みにするなら、リデイア伯爵の存在は国にとって
キキララの動きは噂の真偽をある程度確かめた後で、後から来た援軍と共に本格的に取り調べる為で間違いない。そうスニフターは説明し、アバカスは同意した。
つまり──────。
「時間を掛ければミミリリ
「なら詰むのは貴様の所為なんじゃないか」
「まあまあタオ、元々時間がないんだし、早く仕事が終わる分には構わないでしょ? 実際長い目で見ても後二日でザミノの花は枯れちゃうんだし」
「明日が忙しくなるのは確定だから必要のねえ体力使わずさっさと寝ろって話だ」
以上で話は終わりとばかりに、アバカスは一度手を叩く。そういう事ならとタオも納得するが、寝具へと顔を向けると眉を
エルフにとっては聖地だのなんだのと言ったところで、ミモの街は首都外れの街であり、王国への旅行者がそもそも多くはない事から、五人用の宿泊部屋など存在しない。ので、二人用の宿泊部屋を無理矢理五人で使う形。
二つしかないベッドの数をあっという間に数え終え、タオは再びアバカスへと顔を戻す。
「……どう寝ろと?」
「嬢ちゃん達で使えばいいだろ。俺とスニフは起きてるから遠慮はいらねえ」
「いや、ならっ」
私も起きていると口を動かそうとしたタオの背をニコラシカが押し、言葉は発せられる事はなく喉の奥へと消えて行った。
「偶にはいいじゃないタオ、一緒に寝よ!」
「お、おいニコっ」
マタドールは一番体が小さいながら当然とばかりにベッドを一つ一人で使うらしくタオ達が使っていないベッドへふわりと降り立ちすぐに横になる。女性陣がなんだかんだと寝床についたのを見送って、アバカス達は窓辺へと椅子を持って行くと二人揃って腰を下ろした。
「おやすみ」とニコラシカが言いながら手を振って部屋の
横になった以上は眠った方が効率的とタオは目を
隣ではもう寝てしまったのか、眼鏡を外したニコラシカが規則正しくすやすやと呼吸を繰り返している。静寂なる空間でタオの鼓膜を
他の三人は消えてしまったのかと思うほど静かで、恐る恐る
「さて、どうするかアバカス? そろそろ視線が鬱陶しいし狩るか?」
「先に手を出されるまでは待った方がいいだろう。見ている事しかできねえ腰抜けだろうが。何より尋問や拷問しようにも場所がない。嬢ちゃん達にはキツイだろう、スニフのは特にな」
「やり方ぐらいは選ぶさ。それに後で選ばれた事を光栄に思うだろう、拷問の目的は殺す事ではないからな」
「雑魚の相手をするぐらいなら、伯爵相手に頭を回していた方がマシだな。『
「お前さんとしてはどの辺に生えていると見る?」
暗闇の中を焦げ茶色い瞳が泳ぎ、灰の瞳を見つめる。アバカスは身動ぐ事もなく友人の瞳を見つめ返した。
「ザミノの花は満月の日に開花する、月明かりを吸い込んでな。なら少なくとも開けた場所である事が条件だ。木の根元を探しても見つからないだろ、上空からの写真でもあれば分かりやすいんだが」
「帝国ならまだしも自然主義の王国でそれを求めるのは酷だな」
「他にも方法はあるぜ? 無造作に幾人かの住民に場所を聞いて泳いだ視線の先から統計を出し割り出すとかなぁ?」
本来ならそういった形で場所を割り出すのが時間は掛かるが安全だ。ただ、ザミノの花を探している帝国民という情報が何処ぞに漏れる可能性があるのが宜しくない。
周囲の者達がほぼほぼ一般人だとしても、味方である訳でもない。目を付けられれば、徐々にジリ貧になるのはアバカス達。王国騎士にアバカスと、監視の目が散漫としている間が好奇。
「伯爵の手合いを推し量るよりも、キキララの
「ミミリリが来ない間にか? バレた時が怖いな。俺はよく知らないが、お前さんとアラレは別だろう? どんな奴だ?」
「下手な女よか美人な男。風に矢を乗せて泳がせる変態だ。魔法も使わず遮蔽物の裏にいる奴を射ち抜きやがる」
「それはまた……会いたくはないな」
ミミリリは矢に命を吹き込むとまで呼ばれるエルフの異端児。それこそ陰謀に塗れた伯爵よりも、アバカスはミミリリが来るかもしれないという予想の方が恐ろしい。
一対一ならまだしも、仲間を引き連れてやって来るリズーズリ騎士団含めて戦闘になれば必敗は必然。第三王女が死ぬ前に、アバカス達が森の養分になってしまう。大戦時代を思い出し、アバカスは重いため息を足下に落とす。
「まったくだ。騎士団を辞めて三年、んで大戦時代の任務みてえな仕事をしなきゃなんねえんだ? いや、あの時は標的を取り敢えず殺せばよかったから、ある意味大戦時代の方がマシだな」
「五十歩百歩だな、大変さの種類の違いだ。俺としては最近暇すぎたから
「戦争中でもねえのに拷問官が忙しいとか末期だろ。あんたとの仕事は楽でいいがな俺も」
怖さに満ちた会話は、内容こそ平和ではないがどこか談笑めいた色合いを見せ始める。恐々とそれを寝付けないが故に寝たふりをしたままホッとタオが一息付いたのも束の間。
「寄って来たぞ? やるか?」
冷ややかなスニフターの声にタオは息を呑んだ。動かず静かに夜を消費するアバカス達の様子を伺うように、外から窓辺に寄って来る気配。音が聞こえずともそれを見逃さず、笑みを深めるスニフターにアバカスも笑みを返す。
「やる気満々で困るぜ、もうちょい待て、ほとんどは街の外で監視してるだろうが、二、三人はいるはずだ。一人残さず声を出される前に狩るぞ。情報を引き出し明日キキララが拾って来た話と擦り合わせる。まず
「了解だ隊長さんよ。ただ監視が戻らないと明日にはバレるな。どうする?」
「いいだろ別に明日仕事を終わらせれば。責任は王国騎士に押し付けるとしよう」
そう言い残し、キィッ、と窓が開く音を残して暗殺者二人の気配が消える。心臓の鼓動が駆け足に脈打ち、息を殺しながらタオは肌を冷たい汗に濡らした。
大なり小なり戦場に生きる騎士は日常と戦場で感情の落差があるが、アバカス達はその振れ幅が非常に薄い。談笑さえも武器として使い、明日の朝ご飯はどうしようなどといった会話をしながら平気で相手を殺せる。
アバカスと出会い多少タオの中でオーホーマー騎士団に属する暗殺部隊の印象は変わったが、それ以上に冷たさを知った。仲間である事を嘆くべきか、頼もしいと思うべきか。
同じ帝国騎士である以上、後者であるべきだ。ただ、分かってはいても、国をそこまで憂いているようには見えないアバカス達の心が分からないからこそ、タオの呼吸は荒くなる。
睡眠を必要とはしない魔女達は、タオと同じく寝たフリをしながら、帝国騎士の不安気な呼吸音を不思議そうに聞いていた。
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