冒険者嫌いのS級潜入調査官 ~冴えないおっさんなんて要らねえんだよって追放されたけどダメだなこいつら。ん? 元Sランク冒険者でギルド側の人間だって知らなかった? 今さら遅え、Eランクからやり直しな~
虎戸リア
第1話:調査終了
辺境の街――クンフェル。
Bランク冒険者パーティ――【撃破する戦槌】の拠点。
「おい、ブレイグ! 掃除さっさと終わらせろよ。拭き掃除に何時間掛けているんだ?」
「あ、はい……」
数人の男達が真っ昼間から酒を飲む中、三十代の男性が一人、なぜかプレートアーマーを着たまま床の拭き掃除していた。
「ちっ、返事に元気がねえな。根性足りてないんじゃねえか? おら、重し追加だ!」
それを見ていた魔術師風の男が、その三十代の黒髪の男性――ブレイグを蹴飛ばすと杖を向けて、加重の魔術を掛けた。
「や、やめてください! ぐえっ」
あまりの重さにブレイグが床へと倒れ身動き取れなくなるが、それを彼らは指を差して嘲笑った。
「ギャハハハ! 潰れたカエルみてえだな! ほら、もっと鳴けよカエルみたいに! ボズ! もっと加重掛けてやれ!」
「か、勘弁してください……もう動けません……」
「はあ? お前、Fランクのクセに俺に逆らう気か? それはな、修行なんだよ! 俺らも昔は良くやったよなあ?」
「やったやった」
笑う仲間を見て、【撃破する戦槌】のリーダー、ロンダスが嗜虐的な笑みを浮かべた。
「ほらな? 良いか、ここを埃一つない状態にできるまで帰るなよ?」
「む、無理です……」
「はあ……。あのさあ、ブレイグ君。お前、なんか勘違いしてるよな? 俺らはさ、Bランクなのよ。分かる? Aランク昇格に必須だからと言われて仕方なしに徒弟制度を使って、Fランクのお前の面倒を見てやってるわけよ? 戦力にもならねえ、雑用もできねえおっさんの世話なんてそうでもなきゃ見るわけねえだろ」
「せ、戦力と言っても……私は一度も依頼に連れていかれたことが……」
ブレイグの反論にいらっとしたロンダスが持っていた戦斧の柄で、ブレイグを殴り飛ばした。
「お前みたいな冴えないおっさんが戦力になるわけないだろ!? 俺達はBランクだぞ!? 良いか、Bランクってのは一握りの奴しかなれねえんだ! お前みたいにその年になってもまだFランクのような落ちこぼれとは違うんだよ愚図!」
そう言って、ロンダスが何度も何度も何度もブレイグを足蹴する。血が飛び散り、ブレイグの折れた歯が床へと落ちた。
「……す、すみません」
「おい、ボズ! 徒弟期間はいつまでだ?」
ロンダスの言葉に全員が首を傾げた。
「知らねえよ。お前がリーダーだろ? 把握しとけよ」
「ちっ、お前らもほんといい加減だな。そんなんだから資金難になるんだよ」
「それはリーダーがギャンブルに使ったり、女買ったりするからでしょ」
「うるせえ! 誰かギルド行って確認してこい」
ロンダスが、そう言うと一番下っ端の男が慌てて拠点を飛び出した。
「ちっ、Aランクになると専用の受付嬢が付くらしいから、楽なんだけどな」
「マジッすか」
「おう。そしたらお前、ヤリたい放題よ。受付嬢なんてどうせ冒険者目当てのビッチしかいないって話だからな」
「うひゃあ、早くAランクに上がりてえ」
「ま、依頼も十分にこなしたし、戦力も申し分ねえ。間違いなく上がると俺は踏んでるね」
「流石リーダー!」
そんな会話をしている間も、ブレイグは床に潰れたままだ。
しばらくして、下っ端の男が帰ってくると、嬉しそうにこう叫んだのだった。
「り、リーダー! 徒弟期間は……先週で終わってました!」
「かはは……ったく。一週間無駄に過ごしてしまったな。というわけでだ……ブレイグ君」
ロンダスは床に倒れたままのブレイグの首を掴み、持ち上げた。
ブレイグの身体が宙に浮く。
「もうお前は用済みだ。お前を俺のパーティから――追放する! あと、今後俺達の事を悪く言ったり、ギルドにチクったりしたら――どうなるか分かるよな? お前は知らねえと思うが高ランクの冒険者はな……多少の殺人も場合によっては許されるんだぜ? お前もまだ死にたくないだろ? だから……ずっと口を閉じとけ。良いな?」
「……こ、後悔するぞ!」
ブレイグのその言葉に、その場の全員が笑った。
「おいおいおい……聞いたか? こ、こうかいするぞ! だってよ!!」
「ぎゃはははは!! 面白え!!」
「……はあ。まさか最後まで感謝の言葉一つ言わないとはな。俺はがっかりだよブレイグ君。じゃあ達者で……なっ!!」
ロンダスは勢いよく振りかぶると、そのままブレイグを外へと投げつけた。吹っ飛んだブレイグは扉を破壊して地面を何度かバウンドすると、そのままゴロゴロと転がっていった。
「ぎゃはははは!! あー、でもストレス解消要因がいなくなるのは、ちょっとあれだな」
「あん? 前みたいにこいつにすればいい。な?」
そう言われて、ロンダスに肩へと手を回された下っ端の男が震え上がった。
「そ、そんな……」
その後、その拠点からは男達の笑い声と悲鳴が上がったのだった。
だから、彼らは気付かない。
盛大に地面を転がっていったブレイグが、まるで何事もなかったかのようにむくりと起き上がったことを。
彼は口内にあった血の塊を地面へと吐き捨てると、ズボンのポケットからくしゃくしゃになった煙草を取り出し、魔術を使って火を付けた。
「ふう……煙草がうめえなあ」
空を見上げるその顔には、先ほどまで虐げられていた冴えない中年男性とは、まるで別人のような表情が浮かんでいた。
彼は下ろしていた黒髪を掻き上げると、横目で今しがた追い出された拠点を睨む。
「戦力はB、チームワークはC、計画性はE、人間性は――はん、評価付ける気も起きねえな。やれやれだ。さて、この鎧ももう邪魔だな。〝
そう言ってブレイグは清々したとばかりに――
その顔や身体にあった、ロンダスから受けた暴行の傷が一瞬で治っており、ブレイグはゆっくりと身体の各部をストレッチして伸ばしていくと、そのままギルドへと向かって歩き始めた。
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