第12話 猫の大暴走
「ご主人……遅いにゃ……」
自分のご主人様は他の女と楽しんでいると言うのに、自分はこうして残り香をスンスンとすることしか出来ない。
そんな現実が彼女の胸をキュッと締め付けていた。
「……もうすぐ帰ってくるにゃ?」
独り言を零しても答えが返ってくるはずもなく、もしかしたら帰ってこないかもという不安だけが大きくなっていく。
それを振り払おうとする度に、ねね子の頭の中では悪魔と天使が言い争いをしていた。
『きっと帰って来ますにゃ! もし迎えになんて行ったら、邪魔しに来たと思われちゃいますにゃ!』
『いやいや、暁斗が他の女に盗られてもいいのかにゃ? 私にゃら覗きに行くにゃよ?』
『悪魔にゃん、ねね子を困らせるようなことは言わないでくださいにゃ!』
『天使にゃんこそ、こいつの幸せを奪うんじゃないにゃ。もしねね子が捨てられたら、責任を取れるのかにゃ?』
『そ、それは……』
『今すぐ乗り込んで連れ戻すんだにゃ。それが私たちが幸せになれる選択なのにゃ!』
『……確かにそうかもしれませんね!』
結局、悪魔にゃんに天使にゃんが丸め込まれ、気が付けばねね子はベランダに出ていた。
夏穂の部屋はこの真下だと言っていたから、ここから降りれば窓から様子見ができる。
ぬいぐるみと言えど猫としての身体能力は備わっているため、以前交換したしっぽを手すりに巻き付ければそう難しいことではなかった。
「くっ……カーテンが閉まってるにゃね。一体二人でなにをしてるのか、隙間からしか見えないにゃ」
何とかほんの1cmほどだけの隙間から覗いてみると、何とか2人の姿が部屋の中にあることは確認できた。
ただ、何をしているのかは分からない。ベッドの上に寝転んだ夏穂の上に、我がご主人が乗っかっているように見えるが……。
「……待つにゃ。このシチュエーション、ご主人が見てたえっちなビデオにあったにゃ」
思い出すのは夏の暑い日。暁斗が取り出してきたDVDを再生すると、女の人がマッサージをされている映像が流れたのだ。
その後の流れはご想像に任せるとして、とにかく男の子が女の子へマッサージをするということは、体が触れ合うということ。
えっちなことに発展しても何らおかしくはないのだ……と、ある意味で世間知らずなねね子は思い込んでしまった。
実際は単にゲームで負けた罰ゲームで肩を揉まされているだけなのだが、ご主人を取り返したい一心の彼女にはそんなことが分かるはずもなく……。
「にゃぁぁぁ! ダメにゃ、ご主人はねね子のものにゃ! 返すんだにゃ、泥棒猫ぉぉぉぉ!」
窓の鍵が開いていることに気がついた瞬間に我を忘れ、部屋に飛び込んで暁斗をベッドから引っ張り下ろす。
それから代わりに自分が飛び乗ると、慌てる夏穂の首筋にカプっと噛み付いた。
「ひゃうっ?!」
「ご主人に破廉恥なことをした罰にゃ! 甘噛みで済ませてあげるんにゃから感謝するのにゃ!」
「ちょ、ねね子ちゃ……んぁっ?!」
「二度とえっちなことをしないと誓うまでやめてあげないにゃ!」
「なんのことか分からな……も、もうやめてぇ……」
結局、ねね子の暴走は暁斗が抱きしめて宥めるまで続き、その頃には夏穂は疲れてぐったりとしてしまっていた。
彼からすれば突然目の前で美少女が美少女に襲われるというシーンを見てしまったわけで、襲われている側も悩ましい声を漏らしている。
そんな状況で男の部分が出ないはずもなく、「ご主人、どうして前かがみにゃ?」と言われてからしばらくうつ伏せのまま動けなかったことは言うまでもない。
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