エピローグ



 電車を降りてから自宅への帰り道、ずっと心臓が小さく高鳴っていた。


 これから、どんなふうに連絡をしよう。

 どんな場所に出かけて、どんなふうに告白をしよう。

 何を考えても楽しかった。


 ずっと、ひとりでいいと思っていた。むしろ、ひとりがいいと思っていた。

 それだって、ひとつの幸せだと今でも思うけれど。


 億劫で、自分にはいらないと思っていたものがこんなにも形を変えたことに感動をしていた。

 恋をするって、こんな気持ちなんだ。

 きっと怖いことも、情けなく思うこともあるだろうけれど、それを押しのけても好きでいたい相手を見つけることができた。


 いろんな想いが頭を駆け巡って、興奮していた。


 わたしは地元の駅を出て、夜の街を年甲斐もなく駆けた。


 こんなに全力で走るのなんて、学生時代以来だった。そんなことを、しようと思ったこともなかった。


 わたしには大人になって、する必要がなくなって避けていた、そんなことがたくさんあった。


 そんなことを、ひとつ、またひとつと見直してみてもいいんじゃないかと思えてきた。


 だから走ってみた。

 すぐにスピードが落ちた。

 足が重くなって、息が苦しくて、ぜんぜんぐんぐんとは進めなかったけれど。

 それでも、わたしは前進している。


 通り過ぎる街の光はきらきらして見えて、どこにでも行ける気がした。


 部屋の前で息を整えた。部屋に入ってすぐに連絡をした。連絡をするために急いで帰ったような気もする。すぐに返事があって、わたしはしばらくそれを眺めていた。


 それから、わたしはやっと見つけた大事なことを祖父に報告しようと思い立つ。

 電話をかけようかと思ったけれど、時間が遅かったのでメールにすることにした。


 たくさんの文章を作った。


 電話だったら色々話していたかもしれないけれど、文章にしようとすると、どれも余計な装飾や余計な言い訳みたいな感じがして、結局ずらずら書いたものは全部消してしまった。

 そうして、手紙ができあがった。


 わたしは短いメッセージを送信する。


 内容はごく短くて、書き出しにはこう書いてある。



『好きな人ができました』



 細かなことはあまり書かなかったけれど、祖父はすごく喜んでくれる気がした。




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