彼と僕
バブみ道日丿宮組
お題:愛と死の勝利 制限時間:15分
彼と僕
その生命は誰のために散るの?
「……」
物言わぬ置物になった彼に告げる言葉が見つからない。
彼は愚者であり、保菌者だった。
ただそれだけで生命を世界中から狙われた。
そんな彼の最後を僕がとったという事実は、親友という枠組みでいえば当たり前のことだったかもしれない。いや、愛するものとして当然のことだったかもしれない。
けれど、
「……悲しいよ」
涙が止まらない。
世界から否定されるような奴じゃなかった。
死ぬことを望まれるのなんてそんなのは世界がおかしい。
「……」
死に顔は笑ってる。
僕に刺されても表情を変えなかった。
痛いと叫ぶこともなかった。
受け入れる……ただそれだけをした。
これから、僕は讃えられるであろう。この世に産まれたすべての生き物たちが賛美する。歴史にも名が残る。
彼とセットで名前が広まるのであれば、それは幸福なことかもしれない。
「……やっときたか」
外が騒がしくなってきた。軍が到着したのだろう。もう少し彼という空間を支配してたかった。
けれど、それはおしまい。
彼のきれいな身体もこれからいろいろな実験に利用され研究される。
世界を滅ぼす因子を持つ生命体として。
胸がちくりと痛む。
彼と生き延びる選択肢もあったのに、僕はこの結果を選んでしまった。
世界のために、名の知れぬ誰かのために、感情を殺した。
僕に殺されるとわかってたのに、彼は連絡をよこした。
誰もいない古びた廃墟ーーそれはかつて一緒に探検した場所だった。そこで彼は僕を待ってた。
『さぁはじめてくれ』
そう彼に言われるがままに僕は刃物を彼に突き刺した。
拒否権などどこにもなかった。
「ここでしたか?」
「あぁ、あとはお願い」
肩越しに振り返れば、もうひとりの親友がこちらに歩いてきてた。
「お別れはすんだか?」
「もうちょっと時間が欲しかった」
それはできないという言葉を背に浴びながら僕はその場を去った。
彼と僕 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます