列車

バブみ道日丿宮組

お題:振り向けばそこに列車 制限時間:15分

列車

 せいせいしたといえば、もちろんそうだろう。ケンカばかりして気分がいいことなんてなかった。

 どうしてあんな人と付き合ってたのか、今では疑問でしかない。

 好きという感情はやはり人に必要ないのでは? いや……姉弟愛はあるから、いらないものではないね。 

 今だってこうして弟と歩いてる。

「それでどこまで行くの? お姉ちゃん」

「ずっと遠く。あの人の空気がないところまで」

 深い溜め息が弟からもれる。

「地球から出てかない限り同じ空気だよ」

 正論だった。

「でも、薄まるでしょ?」

「薄まるにしたって僕らにはそれは目に見えないよ。顕微鏡ですらわからないかもしれないよ」

 そんなに薄まるだろうか? 彼という存在はうざい。ならば、吐き出した空気はそれ以上にうざいと思う。

 いいからいくわよと、弟の手を掴む。

 相変わらず肉がない痩せ細った手。スカートを履かせてるからまるで女の子のよう。

「制服姿も似合ってるわよ」

「あまりうれしくないよ」

「弟としてのあなたはもう死んだの。今からあなたは私の妹。姉妹での逃避行よ」

 よくわからないといった顔を返された。

 私だってよくわかってない。

 なぜ、弟に女装をさせるのか……これは一種のサスペンス劇場に入ってるかもしれない。

 いや……ただ単に彼という男を思い出させる要素が嫌だったのかもしれない。

「可愛いから安心して」

 元より弟は女の子っぽかった。男の子に告白されたこともあるらしいし、そういう時期なのかもしれない。女の子になるっていう。

 そう……そうできる国へ向かうべきね。

 そのほうがきっと弟の未来に役立てる。あぁでも……彼が弟と付き合うかもしれないという可能性を作ってしまうかもしれないのか。いや……仮にそうだったとしても私ではない。

 彼と一緒に反対側へ行ってもらえれば私は問題ない。

「お姉ちゃんひどいこと考えてるでしょ? 僕はいつだってお姉ちゃんの味方だけど、犠牲者じゃないからね」

 ほんとそうだ。弟を犠牲にはできない。

「わかってる。だから、こう一緒に逃げてるのでしょ」

「そうだね」

 2人で笑いあうと、乗ってきた列車が出発した。

 肩越しに見えたそれは間違いなくーー黄色い救急車のような色合いをしていた。

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列車 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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