知らない間に生まれたもの

バブみ道日丿宮組

お題:記録にない小説合宿 制限時間:15分

知らない間に生まれたもの

「えっと……これは?」

「あなたが作ったライトノベルですよ」

 手渡されたのは一冊の本。原作は私の名前で、挿絵は見たことのある人だ。とても可愛い。

 可愛いのだけど、

「記憶にないよ?」

「合宿で作ったじゃないですか。覚えてないんですか?」

 合宿というワードは頭に一切ない。

 なにせ、ここ一ヶ月外に出るということを全くしていない。もちろん、なにかのイベントを家で起こしたということはない。

「うーん、でも実本がここにありますからねぇ」

「これってもしかして出版とかされるの?」

「はい、その枠があってこうして本になったんですよ」

 なるほど。だから挿絵があるのか。合宿ってワードはよくわからないけど、ライトノベルで出版となれば挿絵があるのは当然だ。

 あとがきを読んでみると、担当者やら、編集者などなどへの謝辞が書いてある。うーん、まったく交流した記憶がない。

 もしかしてこれはいわゆる異世界転生ものなのだろうか。

「……」

 それにしたって普通だ。代わり映えしない世界が私には見えてる。もしかして、違う人には違って見えるのかと思い、

「ここって地球?」

 至極当然の事実を確認してみる。

「なにいってんですか。地球の日本に決まってるじゃないですか。寝ぼけるのもいい加減にして下さい」

 寝ぼけてるのは相手じゃないのかという疑問が頭を支配しそうになった。すごく信じられないものを見るような目で見つめられるとすごく気まずい。

「そ、そうだったね」

 適当に相槌を返して、思考を回転させる。

 これはひょっとして寝てる間に事件を解決する探偵のようなことが起きたのではないだろうか? 首を触ってみる。針に刺されたような感触はない。だいたい眠ってる間に小説を書き終えられるものだろうか。それは合宿でも変わらない。そんな短い期間で書いたものを無名が世の中に出版するなんてありえるのだろうか?

 ないな。

「これいつ出るの?」

「今月の末ですよ」

 末か……。それを考えるなら数週間前には原稿が出来上がってないとおかしい。やっぱり合宿で作ったというのはにわかには信じられない。

「もうちょっと喜んだらどうです? プロのラノベ作家になれるんですよ?」

「そうなのかな……」

 なりたくてなるわけじゃないし、知らないもので称賛されるのは不本意だ。

 でも……事実には変わらないのだろう。

「ちょっと読んでみるね」

 そういって私は自分が書いたという小説を読み始めた。

 開始してすぐに確かに私が書いたという実感がいたるところにあった。

 だとしても……やはり納得はいかない。

 そして次の日、友人は次の巻を持ってきたので謎は深まるばかりだった。

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知らない間に生まれたもの バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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