第31話 白雪姫の母、登場。


「お~、忙しそうだね~」

「そ、そうですね……」



 海老原さんに促され店内に入ると、やはりというべきか忙しそうだった。


 以前と変わらないゆったりとしたクラシックBGMに、落ち着いた雰囲気の電球色の照明。リラックスの出来る落ち着いた雰囲気の店内。あの時と違うところといえば客の多さ、つまり賑わい位だろうか。


 ゴールデンウィークも残り一日とはいえ、見る限り家族連れやカップルが目立つ。勿論カウンターには食事やコーヒーを楽しんでいるご老人や妙齢の女性などがいるのだが、みな笑顔を浮かべていたり安心しきったような表情で各々この空間で寛いでいるようだった。


 それほどまでにデ・ネーヴェは親しまれているということだろう。


 晴人と一緒に店内に入った海老原さんだが、次々にお客さんから挨拶されている。にこやかに挨拶を返している訳だが、彼女自身、温厚な人柄ゆえ声を掛けやすいに違いない。


 そんな彼女の様子を視線で追っていると、海老原さんは自然な流れでこちらを振り向く。そしてぽわぽわとした柔和な表情を浮かべながら口を開いた。



「はるくんはゆきちゃんに用事があるんだもんね〜。ここで待ってるのもアレだし、休憩室に行こっか〜」

「えっと、あの大丈夫なんですか? あの後冬木さんの案内で休んだことはありますが、そもそも俺、従業員じゃないですし……」

「良いの良いの〜。私からゆきちゃんと店長に伝えておくから〜」

「は、はぁ……」



 本来ならば、こういった飲食店では関係者以外を休憩室に招く行為はNGの筈だが、そこら辺は緩いのだろうか。


 きっと海老原さんは、晴人が冬木さんの友達ということでただ単に純真な気持ちで休憩室へ向かおうとしているのだろう。ここは彼女に信用されていると喜ぶべきなのだろうが、前回含め、言葉を交わしたのはせいぜい数回程度。当の晴人自身が思わず心配してしまう程の警戒心の弱さである。


 何はともあれ、ただぼーっと突っ立っているだけだと従業員とお客さん、ひいては営業自体の邪魔になるかもしれない。どうやらここは素直に海老原さんの言う通りにした方が良いようだ。


 海老原さんを先頭に歩みを進めようとした晴人たちだったが―――ふと店の奥側から一人の女性が姿を現した。



「――――――あら?」

「っ……!」

「あ、奈津美なつみさ~ん、おはようございます~」



 デ・ネーヴェの制服に身を包んだその女性は、とても綺麗で端正な顔立ちをしていた。


 艶やかな黒髪で髪型はロングボブなのだが、誰かに似ている気がする。

 きょとんとした表情でこちら(主に晴人)を見つめており、その視線にはどこか無性に既視感を感じてしまう程である。


 すると奈津美さんと呼ばれた従業員らしき女性は、晴人から静かに視線を外してにこりと笑みを浮かべる。何処となくそれが能面というか、怒りの気配がするのは気の所為だろうか。彼女は「おはよう、つくしちゃん」と凛とした声音で声を掛けると、海老原さんの前にやってきて―――、


 突如、両頬を手で掴んでぐにぐにと引っ張り出した。



「い、い〜た〜い〜で〜しゅ〜っ」

「つくしちゃんは一体何度言ったらわかるのかなー? 従業員は正面の扉じゃなくて裏口から入ってって、口を酸っぱくする程言ってるよね~?」

「ご、ごめんなひゃい~っ。だって、こっから入った方が近道だし~っ」

「確かにそうだけど、お客様のお食事中の邪魔はしちゃダーメ。今後も続けるようだったら、今度からつくしちゃんの分のまかない、少しだけ量減らしちゃおっかなー?」

「つ、次から絶対にしましぇん~」

「よろしい。―――さて」

「……っ」



 涙目になっている海老原さんの頬をパッと離した女性は、改めて晴人へ視線を向ける。


 まるで品定めするかのようにまじまじと全身を眺める彼女だが、もしかしてこちらの格好に変な部分でもあっただろうか。



「もしかして、晴人くん?」

「は、はぁ……そうですが」



 女性は神妙な面持ちで暫く晴人を眺め見ると、ようやくその綺麗な唇を開いた。



「―――やっぱり! 一目見た時からそうじゃないかと思ってたのよね〜! 由紀那から聞いていた通りの男の子じゃな〜いっ!!」

「へ?」



 パンッと両手を合わせながら花が咲いたように満面の笑みを浮かべた女性は、楽しげな様子で声を上げる。突然の事態に中々状況を飲み込めず、戸惑ってしまう晴人だったが、ただ一つだけ気になるワードがあった。



「わざわざここまで来てくれてありがとう! ささっ、ちょっと向こうの休憩室で待っててね。由紀那にもキミが来たって言わなきゃだし……」

「あ、あの! もしかしてですけど……」

「ん? ……あぁ! 私の自己紹介がまだだったわね。ごめんごめん、ちょーっと浮かれちゃってた☆」



 てへっ、と舌を出しながら頭を手でこつんとする女性。

 少々年代的というか、一昔前の仕草を見せる彼女だがおそらく元々こういった明るい性格なのだろう。通常ならば年上の女性がこういった仕草をすると見た側は多少のイタさを感じるものなのだが、彼女に限ってはそれが無い。


 綺麗でとても若々しいので、寧ろ似合ってまでいる。どうやら冬木さんの美貌は母親譲り・・・・のようだ。


 晴人は半ば確信を得ながら思わず小さな笑みを浮かべていると、間もなくして彼女は言葉を紡いだ。



「うふふ、どうも初めまして、晴人くん。私の名前は冬木ふゆき奈津美なつみ。冬木由紀那のママです♡」



 彼女はそう言って、にこりと太陽のような柔和な笑みを浮かべた。



















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どうもぽてさらです。(/・ω・)/

更新が遅れてしまってすみませんでした!m(_ _)m


新年明けましておめでとうございます!(遅い&殴)

これからも何卒お付き合い下さると嬉しいです~!


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それでは失礼します! 執筆頑張ります!!

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