オンライン会議

梅野語呂良さ男

第1話

今日もオンライン会議。こうも自宅での作業ばかりだと、流石に疲れてくるのは言うまでもない。あー今日もこの家でかぁ...と

アパートの大家さんに申し訳ないから普段言わないけど、正直もっと気兼ねなく暮らしたい。もっと広くて、日当たりの良い...てか床とか絶対薄くね?

今日の画面は資料作ってる時より変わらない。1人2人が同じ周回で映り変わり、話も堂々巡り。

いちいち人の意見を折るおっさん上司はまるで高校生の時の俺みたいに(顎をさすりながら)全てを知ったかのように、打ち立ちそうになる釘をラバーポールみたいに折り曲げていく。


「いや、そんなん妄言やで。もっとここをな...」


粉砕ジジイがよぉ...俺は思わずマイクをオフにする。

「まだ喋ってんのかよ...」言葉が漏れる。変わらず堂々巡り。おじさんのトークショー。おじさんの粉砕ショー。女子社員の苦笑。おじさん。おじさん。おじさん。女。おじさん。おじさん。おじさん。ちなみに俺は喋らない。さっき粉砕おじさんに発言権ごとぶち壊してもらったから喋れない。頭の中で、48の曲が流れる。


へーびーいーろおてーしょーん♪

てれれれって れってってって 

れーーれーーれーーれれれれーー


いつの間にか某スーパーのBGMになっていく 


れれれってれーれーれーれー

レーーレーーレレレレーー

ズチャ ズチャ ズチャ ズチャ...


ちゃん ちゃん、 んちゃっららっちゃ 

ちゃんちゃらっちゃ、 ちゃんちゃらん   

レーーレーーレレレレーー

ズチャ ズチャ ズチャ ズチャ...


☆♡□ところのー、お買いーーーーーもーーー


もうええわはよ終われ!そう思い叫んだ。(マイクオフで)

「もう長いねーーーーん!!!!」


ながいねーーーん、ながいねーーん、ながいねーん...PC中を俺の声がこだまする。


あれ...?聞こえてね? え? 何でだ!?マイクはついてないよな!?ついてないぞ!!何で!?なん...

カメラの下の方で、ひょこひょこ動いていた黒マリモがふと顔を上げる。画面上のみんなが息を止めて、なんか真っ白な空気になっている...のも束の間、会話がゆっくりと再開。俺は焦りを取り戻す。ああ駄目だ意味がわからん。え?なんでこれなんでこれ聞こえたの?やっぱりあれかな?声を抑える容量超えたら聞こえるもんなんかな?

目を鬼のようにフルで泳がせてあらゆるアイコンに矢印をかざし、何故かマウスの右クリックを連打し、あらゆる可能性を探る。


「田中さーん!」

突然、女の声が響く「あれ?聞こえてますかね...?田中さーん」


俺はしまった!と「はい!聞こえます!」と裏返った声で返答。しかし、何も聞いていなかった。空っぽの記憶を意味もなく呼び起こし、あーだの、うー、そうですねぇ...だの、出るはずもない意見を滲み出させようとしていると


「ちゃんと聞いとらんやないか!!」

と今度は男の声が響く。


叱責の言葉に俺は、合わせる顔も...あった。いや、ないけど、俺がこの時画面に堂々と晒していた顔は、「驚愕」を表していのだ。

あの、全ての辻褄が合って言葉が出ない時のあの顔だ。


そしてもう一人俺と同じ顔をした人物がその中にはいた。俺とそいつは確かに、確かに、その瞬間、お互いを見つめ合っていた。そいつは隅っこの音の無い画面で口をパクパク、何かを言っている。間違いない。やはり俺が聞いたその声はこのPCからでは無かったのだ。

俺が、「長いねーん!」と叫んだあの瞬間、お前は咄嗟にマイクをオフにしたのか...


粉砕おっさん......


お前は俺の声に驚いてか思わず、いや会議の邪魔にならないようにか...?そして、そのままマイクオフを忘れて怒鳴り声を...なるほど、粉砕おっさん...お前は俺のアパートの、上の住民だったってわけか...

丸くなったおっさんの目を見て、俺は思わず言葉を漏らす。


「綺麗な瞳じゃねえか。」


そのまま周りの沈黙は、いや二人の沈黙は、長らく続いた。

あれから一年、青空の朝、今日も俺はスーツに着替える。前よりも広い部屋、いや二人だけの、家。


「あ、今日はもう出るの?」

可愛らしい声が今日も聞こえる。


観葉植物に水をやりにと、スリッパの音をたてながらリビングに現れたのは、パジャマ姿の、ひどく寝癖のついたままの、バーコード頭。



二人でよろしくやってます。



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