番外編 最良だったはずの世界

第347話 番外編1 玄関をぶち破る猫

――まえがき


フィナ?「やっほ、久しぶり! 新たなケントたちの物語・番外編。番外編なので肩ひじ張らずにサクサク進められるように描かれているんだけど……トータルで四万文字超え。サクサク進めてコレ……その分、ボリューム満点ってことで」


フィナ?「え、その『?』は何だって? そうだねぇ、本編をじっくりと読むと、『フィナ?』的な存在に気づくかも。まぁ、私の存在のことは作者もすっかり忘れてたから気づかないよね。エンディングにも出してくれないし。ともかく、私の正体は番外編のあとがきで。じゃ、番外編、楽しんでね♪」―――――――――――――――――――――――――



第二十章 彼女の成長は仇となる――からの分岐点


 ギウが住んでいた洞窟の前に立つフィナ。

 ギウは何かを知っている。隠している。


 選択肢は二つ――洞窟へ入る・入らない。


 当然、謎を知ろうとすれば入るの選択肢しかない。

 あの時、彼女は入らないを選択した。

 だが、このフィナは……。



「ギウには悪いけど、頼んでも入れてくれなさそうだし……ちょっとだけ」



 洞窟に入ったフィナ。

 彼女は洞窟の奥にあった機構を手にして、世界の真実を知る。

 これにより、失うはずだった存在の多くを失わずに済んだ。


 レイもアイリもギウも、百合も地球人たちも救えた。


――最良の選択。


 だがその選択は、大切な機会を奪うことになってしまった。

 最良だったはずの選択が、最悪へと変わる――

 



――二十四年後・クライル王国・王都アグリス



 顔に僅かばかりの皺を刻んだケントは城壁の上から空を見上げて、王都を取り囲む飛龍の群れを見つめている。

 飛龍たちの背には魔導の力を光として放つ長槍を持った兵士たち。

 彼らは首都を覆う結界を破壊しようと絶えずアグリスへ攻撃を仕掛けている。


 ケントは近くの部下に声を掛ける。

「結界の損耗率は?」

「32%です。これ以上、被害が大きくなると街の内部に被害が出始めます」

「これは困ったな。武器システムを真っ先に破壊されたのは痛恨の極みだった。だが、あと少し持ちこたえることができれば、新たな結界――いや、シールドが起動する。そうなれば敵も諦めるだろう」



 そこに一人の兵士が息を切らせて現れる。

「報告です! 南西より火龍を筆頭に飛龍の群れ! 数は一万!」

「なんだと!?」


 再びケントは空を見上げる。

 そして、銀眼で飛龍たちを睨みつけ寂しげに言葉を落とす。


「それほどまでに、私が憎いか……フィナ=ス=テイロー」




 これは、最良の選択を行い、素晴らしい未来を得られるはずだった世界。しかし、最良を最良のまま未来へ繋げることができず、最悪へと追いやった世界。


――ケント=ハドリーとフィナ=ス=テイローがいがみ合い、殺し合う世界――



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



――この世界より遥か離れた場所。皆が手を取り合い、困難を乗り越えたスカルペル――



 ケントがクライル王国の王となり、一年の時が流れた。


 白の法衣に黒の外套を纏い腰に銃を装備したケント王は、二十歳になったフィナと共にトーワに存在する古代遺跡の完全なる封印の最終段階に入っていた。



――遺跡・中央制御室


 ここには何もなく、ただの広間。

 そこでケントがフィナへ話しかけている。

「今日でこの遺跡も炉を落とし、沈黙するというわけか。フィナ」

「そうね。まぁ、眠らせることに反対の声もあったけど、何とか押し切れたし。ともかく、あとはこのボタンワンプッシュでおしまい」


 フィナは自身の前に浮かぶ半透明のモニターをケントへ見せる。

 モニターにはどくろマークのついたボタン。

 それを見て、ケントは小さな息を漏らす。



「なんで封印のボタンがどくろマークなんだ? 君はアーガメイト一族のセンスを馬鹿にしていたが……君もなかなかだぞ」

「は? どこが!?」

「センスのない人間に説明してもわからないだろう」

「うわ、嫌味な奴~。王様になって性格の悪さに磨きがかかってない?」

「元から悪い扱いか。とはいえ、政治という言葉を武器にする世界に身をひたし、皮肉を言う場面が増えたのはたしかだな。先程の発言は撤回する。申し訳ない」



 ケントは小さく頭を下げた。

 その姿からトーワの領主だった頃の覇気を感じ取れない。


「かなりお疲れのようね」

「まぁな。王などやるものではない。君の方はどうなんだ? トーワの領主様」

「まぁ、なんとかね。オーキスさんが助けてくれるし……おばあちゃん並みに厳しくて怖いけど」


「そのオーキスだが、先程まで見かけたが、どこへ?」

「今は施設の最終点検。ついでに、こっそり誰か隠れてないかの確認」

「ふふふ、封印となると反対派が強硬な手段に出る可能性もあるからな」

「そうね。だから、少数で最終プロセス。その少数の中に、なんであんたがいるのか謎だけど」

「私は王だぞ。式典もなく寂しげだが、重要な封印日だ。訪れて当然だ」


「で、本音は?」

「……少しでもいいから……王都から離れたかった……」


 

 ケントは片手で顔を半分隠し、心底苦し気に言葉を吐き洩らす。


「そんなに大変なんだ?」

「口うるさい貴族たちや二十二議会は何とか抑え込んでいるが、フィコンとキサがな。特にキサが日を追うごとに手強くなっている。そこは奥の手を使うことにしたが」

「奥の手?」


「アルリナからキサのご両親を招いた。キサの母はキサにとって天敵。キサのブレーキ役になってくれることを願うよ」

「せこっ」


「せこくて悪かったな。天才少女相手に真っ向から勝負など凡才では到底かなわない。だから、大人の汚さで対抗することにした」

「ひどっ」

「だから、そう言うな。そちらの様子はどうなんだ? エクアや親父さんやカインは?」



「エクアは友達ができて仲良くやってるよ。二歳年上の配達員の女の子と特に仲が良いみたい。学業の方も成績は上位で、芸術の方もめきめき頭角を現してるって感じ」

「友人に勉強。そして、確かな成長か。エクアは学生生活を満喫しているようだな」


「んで、親父は行商人やりながら冒険家みたいなことしてる。その延長上で、盗賊退治とかも。そのおかげで行商人よりも凄腕の冒険家で名が通ってる。あと、カリスの人たちともかなり距離が縮まったみたい」

「真の自由を得た親父さんはその自由を謳歌しているようで何よりだ」


「カインは忙しくてあんまり会えてない。だけど、病院の評判は上々よ。あと、看護士さん情報だけど……最近入ってきた女医さんとなんだか良い雰囲気だって」

「ほ~、彼は奥手に見えたがそうでもないのか。みんな、良き道を歩いているようだ。私以外は……」



 と、また疲れた様子を見せるケント。

 それにフィナは眉を顰める。


「普段からそんな疲れた感じなの?」

「いや、さすがに人前では。しかし、ここには君しかいない。少しくらいならいいだろ」

「甘えないでよ。そう言えば、来年頃にマスティフさんが軍事顧問になるって?」

「その予定だ。おさの引退とあわせてな」

「マフィンさんも長をスコティに譲って、なんでか建築業界に殴りこみかけたみたいだし……はぁ、私もこの遺跡を封印したら領主を誰かに譲りたい……」



 と、疲れた様子を見せるフィナ。

 それにケントは眉を顰める。


「そんなに疲れているのか?」

「さすがに人前では見せないけどね。ま、今はあんたしかいないし……」

「お互い、大変だな」

「そうね……」


「だが、君にはグーフィスがいるだろう?」

「は?」

「グーフィスのことだ。喜んで君を支えてくれるのでは?」


「支えるどころか、ウザいんだけど」

「あはは、そうか」

「笑い事じゃないって。でも、あいつはあいつで大工仕事頑張ってる。ほら、さっきマフィンさんの話したじゃん」

「建築業界に殴り込みだったな」


「そうそれ。それのパートナーにゴリンさんがついたから、トーワ城の管理は主にグーフィスがやってる」

「ふふ、皆、それぞれの道を歩んでいるというわけか」


「ついでだけど、ノイファンさんは軍務に力を入れて、息子にアルリナを任せようとしているみたい」

「彼の年齢で新しいことを行うには相当な苦労があるだろうに。ふふ、生気の漲る老人だな」

「その軍務の両脇を支えているのが、あの小柄な戦士の人と無骨そうな戦士の人」

「え、そうなのか? しかし彼らは、アルリナの民から恨まれているだろう?」


「だから、役職は与えずに軍の調練のコーチ役に。二人は相当な罪を背負ってても、一応、半島中に魔物が溢れた際に半島を守った実績もあるから。それと役職なしってところで、民衆に納得してもらい彼らを雇っているみたいね」

「なるほど」


「さて、おしゃべりもここまでにして。封印と行きますか」

 


 フィナはモニターへ身体を向けて、ボタンを押そうとした。

 そこに電子音が鳴り響く。



――ピピピ、ピピピ



「ん?」

 フィナは新たなモニターを呼び出して、電子音の正体を探る。

 後ろからケントが問いかけてくる。


「どうした?」

「今、確認してるところ…………え!? 空間へ干渉する巨大な力を計測! 場所は……外!?」


「外?」

「このサノアが作り出した宇宙の外側から、何か来る!?」

「何かとは?」

「わからないっ? 何かがこの宇宙に侵入しようとしているようね。クッ、仕方がない! アルバート!」



 アルバートはこの施設を管理するコンピューターの名前。

 彼女はアルバートへ、こう命令を伝える。


「施設の最終プロセスを一時停止! サノアの結界――ヨミの太陽にエネルギーを供給! 結界の力を高めて!!」


「フィナ?」

「何者かわからないけど、こちらの宇宙に侵入しようとしている者がいる。とりあえず、結界を高めて侵入を阻止することにした」


「侵入者に呼びかけは?」

「ヨミの太陽の干渉波が強すぎて無理。結界の強化で、少なくともこちらがアポなしの侵入を拒否していることが伝わればいいけど――クッ! だめ、無理やり押し通すつもりだ!」


「無理やり? そのようなことが可能なのか!?」

「こちらのシステムへ介入し、乗っ取り、利用するつもり! いい度胸じゃない。させてたまるもんですか!!」



 フィナの周りに無数のモニターが生まれ、彼女の周りを回る。

 彼女は両手を降ろして、モニターの中心にただ立ち尽くし、目を閉じて、遺跡の機構を操っているようだ。


「空間ポート閉鎖。次元干渉プロトコル開始。チッ、システムへの侵入速度が速い! かなりの知識を持った奴みたいね。だけど、こっちの方が一枚上! 空間の位置補正のためリバイスパルス発生。と見せかけて、妨害パルスで攻撃! これでどうよ!?」


「どうなった?」

「退けた。これで――嘘! 魔力による空間の干渉!? しかもなんて力! 力の計測値――九千万!! 何者なの!?」

「何が起こっているんだ、フィナ?」



「古代人並の知識と創生クラスの神並みの力を持った何かがやってきてる! 力はあのバルドゥルの十倍! 全盛期の百合よりも上! そいつが魔力で無理やりこちらの施設を抑えようとしてる」

「施設の何を抑えようと?」

「転送装置。それを利用して一気にこちらへ来るつもりなの! だけどっ、そうはさせるかぁぁぁぁあ!」


 フィナの周りを囲んでいたモニターが人の目では追いつかぬ速さで回り始めた。

 それと同時に、中央制御室内に稲光が走り始める。

 これを見たケントはある情景を思い出す。


「フィナ、以前これに近い光景を見た覚えがあるんだが? 君が転送装置を暴走させたときにこのような感じの」

「当たり! 似たような状況よ! ケント、部屋から逃げて!」

「了解だ!!」



 ケントは後ろを振り返る。

 その時彼に過ぎったのは、後ろを振り向いて柔らかい球体が後頭部にぶつかった情景と、転送の稲光が自分を打ち抜いた時の情景……。


「なんだかすっごく嫌な予感がするぞ、って!! ほら!! ぎゃっ!」


 中央制御室内を飛び交っていた稲光が、見事ケントに命中した。

 彼の姿は消失し、飛び交っていた稲光は沈黙する。

 フィナはモニターを注視して、言葉を漏らす。



「退けた。だけど、転送そのものは行われている。ケントは……生きてる。侵入者と一緒にいるのね。全く、私の馬鹿! 危険と感じた時点で、真っ先にケントを外へ逃がせばよかったのに……とにかく、侵入者がケントへ襲い掛からないことを祈りつつ、ケントと連絡をつけないと」




――???



 ケントは荒れ果てた大地の上に立っていた。

「はぁ、またこれか。ここはどこだ? 見たところ、荒れ果てていた頃のトーワの北の大地のようだが……かなり違う部分もあるな」

 ケントの瞳に映る北の大地。

 そこには土が盛り上がった遺跡の入口があったはず。

 だが、ここには――



「遺跡があるはずの場所に巨大な穴が……どうやら、私の知る世界とはかなり違うようだ。さて、どうしたものか?」


 そう、彼が唱えると、背後から少女の声が聞こえてきた。



「申し訳ないニャ。一度、侵入を試みたら、途中でやめちゃうとこっちの体が吹き飛んでしまうので無理やり押し通してしまうことになってしまったニャ」

「え?」


 ケントは声へ身体を向けた。

 そこに立っていたのは人の姿に猫耳を頭に乗せて、背後に真っ白なしっぽを生やした少女。

 少女は自身の名を語る。



「初めましてニャ。猫と空間を統べし魔女・ニャントワンキルの魔女王ミーニャと申しますニャ」

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