第6話 古代のおもちゃ箱
「ふぅ~、こんなものか?」
必要な荷物を馬に載せて、落ちないようにしっかりと縄で結う。
馬の背も脇も荷物だらけで、私の乗る場所など残っていない。
脇にぶら下がっているニワトリ入りの籠を横目に、馬へ声をかける。
「頼むから、ニワトリが突然鳴いても走り出すようなことを止めてくれよ」
「ぶるるぅるるぅ」
馬は鼻水を盛大にまき散らしながら首を縦に振った。
「おい、鼻水を掛けられるのは二度目だぞ。返事はもう少し大人しめで頼むよっ」
「ヒヒン……」
「ん、返事に元気がないな。少し言い過ぎたか? 悪かった。荷運びはお前だけが頼りだから、これからも頼むぞ」
馬の首を撫でて、手綱を持ち、彼の隣を歩く。
するとそこへ、中年のだみ声が飛び込んできた。
「なぁなぁ、そこの変わった色の瞳を持つ兄さん。旅の人かい?」
「何か用か?」
声に惹かれ、振り向く。
そこには地面にござを敷き商品を並べて、背後に木箱を置いている胡散臭い旅の露天商がいた。
いかつい顔の彼は黒眼鏡を光らせ、無精ひげを撫でながら話しかけてくる。
「どうだい? 旅の土産に何か一つ買ってかないかい?」
「土産ねぇ」
ござに置いてある土産品を上から覗き見る。
織物や人形におもちゃに陶器に懐中時計と、全くもって統一性のない商品だ。
「色々な品を扱ってるな」
「適当に買い付けて並べてるからな。でもよ、全部いい品だぜ。どうだい、この織物なんか? 嫁さんが喜ぶんじゃねぇか?」
「私はまだ独身だ。だが、たしかに織物の質は良さそうだな」
私は土産品の前にしゃがみ、いくつか商品を手にする。
「織物だけじゃない。この装飾品もなかなかのものだ」
「お、兄さん。良い目してるねぇ。その銀の瞳は伊達じゃないってか」
「それで褒めてるつもりか?」
「褒めたつもりなんだけどなぁ。だっはっは」
中年の親父は豪快に笑う。
胡散臭く見えるがなかなか人懐っこそうな人物だ……いや、まんまと親父の口車に嵌っているんだろうか?
現に、土産品などに興味のない私がそれらを手に取っている。
「ふふ、いつも調子の良いことを言って、私のような善良な旅人から巻き上げてるんだな」
「そんなこたぁねぇよ。押し売りなんてしないしな」
「フ、どうだか……ん?」
商品の中に奇妙な銀色の陶器箱を見つけた。
その表面をつるりとして傷一つない。
「これは? 何かの密閉容器に見えるが?」
「これかい? あ~、これは古代人のおもちゃ箱だよ」
「古代人の?」
「ほら、古城トーワの荒れ地のどっかに遺跡があるっていうだろ。そこから発掘された品とか聞いた」
「聞いた、とはずいぶんとあいまいな話だな」
「そういうなよ。俺も買い付けた時に聞いただけだしな。そいつが言うには、そのおもちゃ箱はまだ、ランゲン国が存在していた頃に古代遺跡の探索が行われ、そこから発掘されたとかなんとか」
「ランゲン国か……」
ランゲン国とは、二百年ほど前に我がヴァンナス国に滅ぼされた国の名だ。
当時はこの『クライル半島』を統治下に置いた、ビュール大陸の最大国家であった。
「親父さんの言う遺跡はたしか、ヴァンナス国統治後に調べられたが汚染されていて中には入れないと聞いたが?」
「ああ、ランゲンの時も発掘作業中に謎の病気が蔓延して、たくさん死んだらしい。なにやら、古代人の呪いだって噂もあるな」
「おいおい、そのような場所から発掘された品を売って大丈夫か?」
「な~に、俺におもちゃ箱を売った奴は病気になってねぇし、死んでもいねぇ。んでもって、俺もな。だから、大丈夫だろ」
「いい加減だな。だが、少し興味が湧いた。中身を見せてもらうぞ」
「どうぞどうぞ」
箱に手を伸ばし、開ける前にまず観察をする。
(傷一つない。古代の品としたらあり得ないのだが……最近、誰かが作った容器か? いや、それにしては奇妙だ。肌触りは陶器のような感じだが、この硬さ。まるで金属。おや?)
箱の正面中央にボタンがある。
おそらく、これを押して開閉するのだろう。
早速、ボタンを押して箱の蓋を開け、中身を拝見し、そこで思わず声を漏らしそうになった。
(こ、これはっ!?)
私は驚きを中年の親父に悟られぬように、そっと箱の中のものを取り出す。
そして、取り出した物の一部を横に押し出し、回転させる。
その様子を見ていた親父が声をかけてきた。
「なんか、その部分がグルグル回るんだが、なんで回るのかわかんねぇ。ま、そこの部分だけ見て、なんとなく古代人のおもちゃだったんじゃねぇかなって話だ」
「そうか……」
視線を箱の中に戻す。
内部には柔らかな布が敷かれていて、あとは取り出した物があった窪みがあるだけで他に何もない。
布に触れて、他に何かないか確認をする。
すると、布に隠れた場所に長方形の窪みを見つけた。
「親父、この窪みは?」
「ああ、中に何か入ってたけど、一度箱を開けた時に木箱に散らばっちまった」
親父は親指でくいっと木箱を指す。
「そうなのか? ならば、ちょっと見てもいいか?」
「ああ、構わんが……なんか気になることでも?」
「いや、なんだか面白そうなおもちゃだからな。買うなら、ちゃんと完品で買いたい」
「お、買う気があんのか。なら、いくらでも覗いてくれ。でもよ、売ってる俺が言うのもなんだけど、そんなのが面白そうなんて、相当変わってんね、兄さんは」
「はは、よく言われる」
私は背を見せたまま返事をして、木箱を弄る。
(どれ、散らばったのが予想通りのものだとありがたいが……あったっ)
それらは親父の言うとおり、木箱に散らばっていた。
(1・2・3・……全部で6か)
「親父、散らばったのはこれだろ?」
「ああ、そうだよ。よくわかるねぇ」
「なんとなくな……親父はこれなんだと思う?」
「さぁなぁ。金属の粒が六個……首飾り? 紐を通す場所はなさそうだけど。兄さんはなんだと思うんだい?」
「私も首飾りだと思うよ。それで、このおもちゃセットはいくらかな?」
「そうだなぁ。用途不明とはいえ、古代の品っていう題目がついてて、そこそこの仕入れ値だったから、二万ジユでどうだ?」
「それは子どものおもちゃの値段じゃないだろ。それだけあればリンゴが二十ダースは買えるぞ……まぁいい。旅の記念と思い、いただこう」
私は懐から二枚の紙幣を取り出し、親父に渡す。
「ども、毎度あり。しかし、記念に妙なものを選ぶねぇ」
「記念は変わった物の方が記憶に残るだろ?」
「ま、そうかもな」
「ではな、親父さん」
私は金属の粒とおもちゃを箱に入れて、古城トーワへと続く東門へ向かう。
そして、土産屋から十分に距離を取ったところで、購入したおもちゃを確認した。
手にするのは、真っ黒な筒を持つ、持ち手の部分が僅かに湾曲した物体。
穴の空いた胴の部分を押し出し、そこに金属の粒を納める。
手にしているのはおもちゃ――ではない。
「ふふ。まさか、こんなところで『銃』に出くわすとは。王都でもそうそうないぞ。親父には悪いが、まともに手に入れようとすると二万ジユどころではないからな」
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