あべこべ世界に女として生まれる必要はありましたか?

@kasagokakegohan

第1話

 お約束、テンプレートというのは物語においてとても重要な意味を持つ。もちろんストーリーの全てがテンプレ通りに進んでしまっては、ごくありふれた面白くない話になってしまうが、しかしお約束が守られなければそれはそれでおかしな事になる。


 例えば、登校途中の男女が十字路でぶつからなければ、その後の教室での劇的な再会が無くなってしまう。強くなりたいと願う少年の前に現れるのが普通の老人では、その後の奇妙奇天烈な冒険活劇が始まらない。名探偵がいるのに殺人事件が起こらなければ、それは理屈屋の日常である。要するに、出来事には意味があり、登場人物は重要な役割を持ち、役割にはそれ相応のストーリーが必要なのだ。


 


 つまり、私の言いたいことはただ一つ。


 


 貞操観念逆転世界に女性として転生する意味があると思いますか?


 


 


 


  ◆◆◆


 


 


 


 みなさんこんにちは、貞操観念逆転世界に転生しました睦月スミレでございます。この世界はよくあるあべこべ物よろしく、男女比が1:30ととてつもなく偏り、何故か知りませんが女性による男性への性犯罪が多発し、男性には男護(男性護衛官)と呼ばれる国家資格を持ったボディーガードがつく、そんな世界です。


 男性に生まれていれば、無自覚ビッチとして周りの女性を誘惑しまくったり、ハーレムを築いたりと夢のような生活を送れたと思いますが(そのつもりで転生しました。)、女性に転生したせいでそんな夢は儚く散りました。原因は神様に転生させてもらった時に貰ったチートのせいだと思われます。私は神様に人類最高のスペックの体をお願いしましたが、この世界での力関係は、女性>>越えられない壁>>男性でした。つまり人類最高=女性の体だったわけですね。ふざけんな。


 


 そんなこんなで女性として第二の人生を歩み始めた私だが、最初のうちは夢の生活など諦めて楽しく生きていこうと考えていた。幼稚園に通っていた頃は、足が速いのと子供に優しく接していたおかげで人気者になり(その幼稚園には男子がいないのでモテたりはしなかった)気恥ずかしさ以外は何の問題もない生活を送れていた。ところが、小学生になると周りの女子が徐々に性に目覚め始め、数少ない男子たちを獲物を見るような顔で狙っているのを見て着いていけなくなってしまった。ならば男子と仲良くなろうとしてみたが、男子は男子でこちらを飢えた獣と思っているのか避けられ、背が高いのも相まって仲良くなることができなかった。それでも小学生の頃は何とか関係を築けていたが、中学生になり校内の人数が増えた結果空気に馴染めなくなり、中2の現在は完全にボッチになっている。


 


「いい天気だなー」


 


 現在は往年の不良よろしく授業をサボり、校舎の屋上で現実逃避の真っ最中だ。学校での私の立ち位置は、運動ができて勉強もできるがそれを上回る程不真面目な不良であるので、ある意味正しい行動ではある。


 なぜ真面目に生活しないのかと聞かれれば、この世界での生活に疲れてしまったのだ。外国や知らない文化の中で生活しているとホームシックになることがあるが、正にそれだ。私の場合はそれが別の世界なので帰ることもできない。


 


 もし仮にもう一度転生することがあれば、チートや異世界なんてバカな考えは捨て、気の合う友人と馴染み深い世界をお願いすると誓った。


 


 


 


 いつのまにか夕方になっていた。半日ぼーっとして過ごすなんて、不良というより世捨て人のようだ。ちょうど下校の時間らしく、校門付近が混み合っているのが見える。もうしばらくしてから帰るとしよう。


 


 ふと、どこかで誰かが助けを求めるような声が聞こえた。こう聞くとまるで正義のヒーローのようだが、私の場合は人類最高の聴力のおかげである。音の出どころを探して耳を澄ますと、体育倉庫から誰かが暴れるような音が聞こえてくる。近づいてみれば、男の何かに遮られたような泣き声が1つと、興奮したような女の声が3つ聞こえる。前世の薄い本で散々目にした光景であるが、実際出会うとただ胸糞悪いだけだな。


 


 わざと音を立てて扉を開ければ、3つの顔が一斉にこちらを向いた。この世界での男性に対する犯罪行為は捕まれば実刑が確定している。性犯罪の場合はより重い罰が下されるので驚くのは当然の行動だが、それならそもそとやるなという話だ。


 


 ひとまず、一番近くの女の横っ腹を蹴り飛ばす。気絶で済むよう手加減(足加減)はしたし、飛ばした先は壁に立て掛けられた体操用マットなので死ぬことはないだろう。次に男子の服を切っていた女の胸ぐらを掴み、もう一人の女に投げ飛ばす。二人の頭がぶつかって気絶するぐらいの力加減で投げたのでこちらも死にはしないはずだ。力加減が簡単なのはチートがあってありがたいと思う数少ない瞬間だな。被害者の男子は呆然とした顔でこちらを見ていた。


 


「大丈夫⋯⋯じゃないだろうが、誰か男を呼ぶからしばらくここでゆっくりしてな」


 


 服が破れたままでは嫌だろうから私の制服の上着を渡しておく。下も破れているが、流石に目の前で脱いだズボンを貸すのはマズいだろうから我慢してもらおう。


 


 気絶した3人を担いで体育倉庫の外に出る。この場合何が正解か分からないが、少なくとも一緒にいるよりはいいだろう。


 


「第三中学で男性が襲われていまして、犯人は気絶させました。はい、はい、校舎裏の体育倉庫です。よろしく」


 


 この世界では男性が襲われるというのは大事件だ。警察に連絡しておけばすぐに学校に連絡がいくだろうから、私はこの馬鹿3人を見張っているだけでいい。それにしても、久しぶりにスッキリとした気分だ。やっぱり人を助けるのいいことだな。私は素行以外は満点なのだから、いっそ将来は警察官にでもなろうかな。


 


 通報が終わってから1分も経たず、男子専門の男性教師と学校に配属された護衛官が現れた。たしかこの時間帯は誘拐防止のため校門付近の見回りをしているのを見たことがある。この時間の体育倉庫とはある意味一番手薄な場所でもあったのだろう。


 男性教師は体育倉庫に飛び込んでいき、気絶した3人には手錠がかけられた。さて、これでお役御免だろうから帰るとしよう


 


「じゃあ後はお任せします」


 


「待ちなさい、今回の事件の経緯について警察に説明してもらいたいから残ってちょうだい」


 


 まあこれはしょうがない。被害者に状況を完璧に把握して話せというのも酷だし、私が犯人達とグルである可能性もある。自分で首を突っ込んだのだから、説明ぐらいの責任は果たすとしよう。


 しばらくすると警察が到着した。まあ、しばらくといっても5分ほどであったが。おまけに数少ない男性の男護までいる。被害者は彼らに任せておけば大丈夫だろう。私は私で説明のため警察署に向かった。


 


 


 


  ◆◆◆


 


 


 


 すぐに済むと思っていたが、思ったよりも時間を取られた。説明自体は問題無く済んだのだが、なんと目を覚ました3人の内一人が、全て私の命令でやったと言い出したのだ。幸い被害者の男子が私は関係なさそうだと言ってくれたのと、学校の男護が私はボッチで仲間がいないため無理だろうと証言してくれたため大丈夫だったが、聴取が長引いてしまった。ボッチで助かったが、脅してすら仲間が作れないと思われているとわ。私ってそんなに酷いやつだと思われているのか⋯。


 


 変な事を言う奴のせいで遅くなってしまったので、母に迎えに来てもらう事になった。送ってもらう事もできたが、警察車両が家の前に止まるのは世間体があまりよろしくない。不良娘は親に気をつかうのだ。


 


「男の子を助けたんだって?よくやったわね、流石私達の娘。でも欲張っちゃだめよ、これからゆっくり関係を築きなさいね」


 


「そういうんじゃないよ。第一、被害者の男子はすぐ転校するだろうからもう会うことも無いだろうしね」


 


「無欲ねぇ、あんたの将来が心配になるわ」


 


 私の母は幼馴染だった父と仲良くなるためだけに、最難関の国家資格を取り男護にまでなった猛者である。父は私が産まれてすぐに病気で亡くなってしまったが、母は生涯父一人を愛すると心に決めているため割とまともな性格で、我が家は前世の家庭に近い関係を築けている。もし母まで性豪だったなら、私はまともな生活が送れていなかったであろう。


 


 この世界で子供を産む方法は2つある。一つは男性と夫婦になって産む方法。男女比のせいか一夫多妻も許されているので(というか、男性は優遇の代わりに男子を一人以上残す義務がある。こうでもしないと男性の数が減る一方になってしまうためだ。)男女比の割には多い方法だ。私の父は私が生まれてすぐに亡くなったので義務を果たせていないことになり一悶着あったらしいが、残念ながら詳しい話は聞けていない。母からその話を聞こうにも、いつのまにか父との惚気話になってしまうので諦めた。


 そしてもう一つの方法が、女性同士で結婚し、国が行う精子提供によって産む方法である。この方法の場合妊娠から出産までが全て管理され、男子が生まれるとわかった場合は審査に合格しないと子供を育てられないなどの制限がある。


 


 ちなみに共学の学校に通えるのは男性の親がいる場合か、親が男護の場合だけである。それでも今回のような事件が起こるのだから、なんとも業が深いものだ。


 


 都会の住居に佇む、一際大きな家が我が家である。父が生きていた頃に買ったらしく、母と住むには大きな家だ。


 玄関を開けリビングに入れば、壁一面に貼られた父のブロマイドと、部屋の中央に佇む父の等身大フィギュアがお出迎えだ。


 


「あなたただいまー!この子ったら今日男の子を助けたんですって!流石あなたの子よね!え?『私たちの』?キャー‼︎愛してる!マイスウィートハニー‼︎」


 


ごめん、やっぱり母もまともじゃなかった。


こんな世界で私はまともな人間関係が作れるのだろうか⋯。


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