第6話 雪が降ることの許されない夕焼け

 悪寒がしてくしゃみが出た。点滴が揺れた。針が痛いことを思い出す。背中を丸めてカナリア色のボートが奥の闇に消えていくのを見送る。洞窟の天井に反射する光が手招くように踊っている。


 あの奥に行くのか。冒険者がパドルを漕いで消えていく。

 背筋の汗が引いて冷たくなっている。もう冬はこりごりだ。


「点滴終わったかなー? 優利くんのところ」


 看護師さんが見にきてくれた。


「あとちょっとかなー。え、リモコン? 渡すの忘れたね。はい」


 子ども扱いして手渡してくる。看護師さんが去ったので、チャンネルをシャットダウンしようとしてあぶらぎったリモコンのボタンから指を離す。


 樹氷に赤紫の空。雪が降ることの許されない夕焼け。雪の上にくっきり残っているタイヤの跡が凍りついている。


 泣きたいのに泣けない。雪はまだ来ない。西日が氷を焼いている。陽が落ちるまで終わりじゃない。




 風量 中

 気候 寒波の過ぎ去った並木道

 時間 夕刻




「優利くんは、××性××炎です。主に欧米諸国で多い病気ですね」


 医者に告げられたその病名は、ガンなどのような深刻な病名には聞こえなかった。


 だけれど、ひどい人は手術もするそうだ。僕は二ヵ月おきに点滴をするだけで済んでいる。学校に行ける日もあれば、行けない日もある。途中で帰る日も。


 〇花ちゃんと話さなくなって数か月。授業中に我慢できなくなってトイレに駆け込む僕の後ろ姿を見られた。病気は先生にしか知らせていない。〇花ちゃんにはどう思われただろうか。


 次第にトイレに駆け込む頻度が上がる。文也が口火を切って僕を笑った。今まではそんな奴じゃなかったのに。文也はいつの間にか僕と〇花ちゃんが以前つき合っていたことを知っていたんだ。当然か。今まで知らなかったことの方が、おかしかったんだから。


 とうとう、夕焼けの眩しい放課後に先生の方から相談された。病名を知ってもらった方が、クラスのみんなにも理解してもらえるだろうって。僕はしぶしぶ頷いた。

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